第8話 難問

 椿は何でもできる女性です。屋敷の中でもトップの働き手で、いつもかぐやの一番近くにいます。そして彼女の我儘にはそれとなく付き合っているのです。


 そんな彼女が唯一できないのが「かぐやの旦那探し」です。冬にスイカが食べたいと言ったときも、氷漬けのお風呂で泳ぎたいと言ったときも、彼女はスマートに対応してきました。

 しかし旦那探しだけは、どうしても達成できないのです。



「そうだ、月の世界に良い方はいらっしゃらないのですか。あんなに美しい月ですもの、きっと姫様にぴったりの男性がいるはず」


「いや、月と地球って遠距離すぎるでしょ。会う度に使者呼ぶのは流石にきついわ。


地球から帰ってきて、その後すぐにまた地球に戻っちゃったから、今更あっちに帰るのもきまずいし。それに、」



「それに?」



「月の男、何か知らないけど全員髪薄いんだよね」



 椿は何も言わぬまま、かぐやのおちょこに酒を少し注ぎました。

それから残りのお酒を全て自分で飲んでしまいました。どうして自分よりも先にかぐやの相手を探さなくてはならないのかと、そんな疑問すら浮かんできます。二人の愚痴は、寝殿造りのお屋敷全体に響き渡りました。


 沈黙を続ける月は、今宵も哀れなかぐや達を照らします。

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