第7話 憂い

 「やはりここにいたのですね」


「勝手に入んないでって言ったじゃない」



 ある日のこと。かぐやは、月見台で一人月を眺めていました。高灯台のないこの場所で、彼女の瞳だけが寂しげに光っています。椿は彼女にそっと羽衣をかけました。何の呪(まじな)いもかかっていない、薄桃色の綺麗な羽衣です。



「あんまり月ばかり眺めないでください。今夜は冷えますから、もう戻りましょう」


「やっぱりさ、月から帰ってきたのは間違いだったと思うのよね」


 椿は「また始まった」と言わんばかりの表情で、かぐやの隣に座りました。


「父上と母上に会えたのは嬉しいけど、それ以上は何もないっていうか」


「何を仰いますか。お屋敷の人間は皆揃って大喜びですよ」


「うーん」


 かぐやはまた何か言いたげな表情で月を見上げました。真っ暗な夜空に開いた大きな光の穴が、今にも彼女を吸い込んでしまいそうです。



「帝、もう一回求婚してくれないかな」


「私は帝の誘いを断る貴女を見て心が動かされました。こんなにも強い女性がこの世にいたなんて、と。だからもうそのようなことを言うのはおよしください」


「じゃあ私は誰と結婚すればいいの? 帝より良い人連れてきてよ」


「それは……」


椿は黙り込んでしまいました。

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