第2話 かぐやのいる世界

 「ちょっと椿、魚は生がいいって言ったじゃない。この干物とかムニエルとか、火が通ってる魚だとテンション上がらないのよね」



 かぐやに言われ、椿は「申し訳ございませんね」と固まった笑顔で頭を下げます。しかし、干物を下げるようなことはしません、かぐやもそれを分かっていて、仕方がなくお箸を持って腹の方から身をえぐります。



「日本には美味しい海産物が沢山あるのにもったいないじゃない」


「そうですね。特に春は旬の魚も多いですし」


「鯛とかいいんじゃない?」


「何かおめでたいことがあれば、用意しましょうか」


 

 椿は何か含みがあるような言い方をしたので、かぐやはキッと彼女を睨みました。椿は一応謝りましたが、口角は上がっています。

 二人の言い争いは、このお屋敷の中では特段珍しいことではありません。


 かぐやが月から帰ってきてからというもの、お屋敷の中は随分変わりました。翁と媼しかいなかった時は活気がありませんでしたが、今では、何と言いましょうか、「情緒あふれる」なんて表すのがいいのかもしれません。決して「うるさい」と言っているわけではありません。


 そして、変化したのはこのお屋敷の中だけではありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る