第30話 ツィガナー

 目の前の神殿は間違いない。


「これ、ジーラスカの神殿と同じ物だと思います」


リアさんの答えが返ってくる前に、例の奴らがやって来た。


「来ましたよ」

「解った」


リスバティが先制した様だ。邪悪な集合体の叫び声が聞こえる。俺もリアさんも、迫って来る奴らを斬り棄てて行く。



「確かに不快な叫び声の感じだ」

「リアさんに貰った腕輪が無かったら大変ですよ」


「これからどうするの?」

「神殿に、何か書かれているか見てみる」


近づくと、ジーラスカの神殿と同じ所に"ハアルビス"と書かれていた。



「帰ったら、結界を張るような魔道具を造らせよう」


「俺達はグルマさんに報告だ。ビトゥーさんにも聞いてもらわないと」



ーーーーーーーー



「う~む。ハアルビスか……」


「あまり有り難くない物が、立て続けに見つかったようだな。ミロウク、結界の魔道具を造ると言っていたが、ここの分も造ってくれんか?」


「分かりました、頼んでみます」

「すまんな」


「ビトゥーさん、前に話していた、邪神って何ですか?」


「あまり表には出せん話だが、ミロウク達なら良いだろう。古代ミケレスの遺跡が、我が国で発見されてな」



ビトゥーさんの話は興味深かった。


遥か昔、この世界は各部族間で戦いが長い間続いていたが、古代ミケレス人は、強大な魔法と特殊なスキルを持った者が多く、この世界を統一して争い事が無い世界にした。でも長くは続かなかった、疫病が流行ったからだ。


人々の心は荒み、再び混乱の世に戻ろうとした時、1人の神官が神託を授かったと言い出した。


それは自分達が信仰していた神ではなく、聞いた事の無い神だった。しかし他に手立てが無く、その神官の言う通りにすると、疫病も終息して全てが上手く行った。


それから神官は、巨大な権力を持ち始める。それを危惧する者や嫉妬する者達が出てきた。そして神官を謀殺しようとした。


罠にはまり怒った神官は、神にこの世界に災いをもたらす事を願い死んだ。神は、願い通りこの世界を崩壊させて行くが、残った人々が元の神の力を借りて、長い戦いの末、何とか封印する事に成功したらしい。


「元の神は、何で疫病を鎮めてくれなかったのでしょう?」


「さて、それは私にも解らん。それからミケレスの人々は幾度と無く国を造り統一したが、その度、直ぐに内乱が起き、自分達の部族すら維持出来ず、ついに滅んだらしい。そしてミケレスの人々はいなくなった。と言う訳じゃ」


「悲しい話しですね」


「そうじゃな。今、封印の力が弱まって、邪悪な残留思念が出てきたのだろう」


「そんなのが復活したら、ガーマの思う壺だ」


待てよ、ガーマは何で邪神の事を知っているんだ。


「ビトゥーさん、この話しは一部の者しか知らないのですね?」


「勿論じゃ」


「ガーマは邪神の事を何で知っているのですか?」

「……それもそうじゃな?」


「油断なりませんね」

「うむ」




釈然としないまま俺達は国に戻った。


「帰って来たか、ミロウク」


「ええ、ただいま。リアさん、お願いがあります。結界の魔道具をもう1つ造って貰えませんか」


「それは構わないが、心配事でも?」

「はい」


ビトゥーさんに聞いた話しをリアさんに話す。


「……そうか、その話しを知ってる者がいたのだな。良い機会だ、いつ話そうか迷っていたのだが、ミロウクに話さなくてはならない事が有る」


「何です?」


「私達ツィガナーは、好きで世界をさすらっていた訳ではないのだ」


「……」


「ミケレスの人々は、国の崩壊を何回も経験する事で悟った。例え疫病が流行らなくても結果は同じで、国は滅んだろうってね。


苦しい時だけ神に頼り、人を信用せず嫉妬・妬みで動く今の自分達には、資質・資格が無い。


だから、彼らは償う事を含めてこの世界を巡り、強い力を持ち、人を惹き付け自分達をまとめあげる事の出来る人物を捜す事にしたのだ」



「それって……」

「ツィガナーはミケレスの……」


「そして200年前、異世界から召喚された勇者に会った。私達の大国おおくにになってくれる筈だった。だけど魔王との戦いで死んでしまった。また長い旅が始まり、そしてミロウクに会った、やっと長い長い旅の終わりが来た」



「そうなんだ、良かった」

「えっ、ミロウク、……理解してる?」


「リスバティ、なに言ってるのさ……………………はぃ─────────────っ」



リアさんを先頭に、ツィガナーの人達が俺の前に跪いていた。村の人達も集まってきた。これは大事になってしまった。


「む、む、無理ですって」

「我が大国様!」



ーー


大国の事は、ひとまず置いて置くことにして。


「大国様、ガーマですが」


「あ、あのぅ、リアさん、今まで通りでお願いしたいのですが?」


「そうもいきません。大国様は大国様です」

「しかしですね」


「あ、姉御、ここはミロウク様の言う通りにして、様にしては?」


「そうか、……ではミロウク様、ガーマはおそらく神官所縁の者と思われます」


「疫病の時の?ガーマもミケレスの子孫……」


「そうです。今回の事も私達の子孫のせいです……」


「リアさん達のせいでは無いですよ」

「そうですよ、リアさん」


「ありがとう御座います、リスバティ様」

「姉御、あの事も」


「そうだな。私達の子孫の研究で、私達の神がどう言う存在であるかが解って来たのです」


「神の正体と言う事ですか?」


「はい、この世界で信仰されている神とは違っていたのです。私達のスキルで感じていた神は、この世界ではなく、狭間の世界の魔物、この世界で言うなら精霊が徳を積んで神に近くなった者と言う感じの存在です」


「狭間の世界ですか?」


「そうです。解りにくいかも知れませんが、この世界に異空間が存在すると考えて下さい」


難しい話しになって来た。……そんな世界が存在するのか……。


「ミロウク、あの虫」

「虫?」


「ガーマの虫よ」

「あの虫か、あんなの見た事が無かったものな」


ガーマがミケレスの子孫なら狭間の世界を知ってておかしくない。狭間の世界の虫か?


大変な事になって来た。どうする俺?

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