第26話 不穏な影

 ガデオンの街から村までは、馬車で1日半もかからないので、往き来は楽だ明日の朝には着く。


「奴らの叫び声を聞いて、よく平気だったね」

「全然問題が無かったわ」


「ふぅ~ん、良いね」


表裏一体の剣ケンとメアリのお陰か?そうだ、思い出した。白魔法って何だ?


「リスバティ、白魔法って知ってる?」

「えっ、それなら古代史の授業で習ったわよ」


授業か。リスバティって、お嬢様だよな。執事が居たらしいし。


「古代史?」

「ええ、古代ミケレス人が考えた魔法だそうよ」


「どんな物なんだ」

「それは資料不足で解らないんだって」


そうなのか。表裏一体の剣ケンとメアリが知ってるって事は、2人は古代ミケレス人の絡みって事だよな。





リアは信用出来ると考え、村の事をお願いしていたので帰ると直ぐに俺の所に来た。


「遅かったな。何か有ったのか?」

「うん、ちょっとね」


リアも何か知ってる可能性が有る、多少ぼやかして経緯を話す。


「地下神殿……」


リアの顔が曇る。


「白魔法については知らないが、私達は錬金術と鍛冶が得意で、昔から破邪と言う事なら剣や物に付与出来る」


「えっ、凄いですね」

「付与しようか?」


「う~ん、……リアさんなら信用出来るし、良いか」


俺は剣を見せた。


「それは……」


……イビルブレイカーではないか。何で?


「かなりの業物ですね」

「これのお陰で助かったんです」



ーー


「姉御、話さなくて良かったので?」

「まだ時期では無いだろう」


「そうですな、しかしミロウクさんには驚かさせられますな」


「ああ、どうなっているんだか」



ーー


ガデオンの街でカジュ酒の売れ行きは良いし、俺達は問題なくCクラスになれ、事は順調に進んでいる。


猫族の子達は、歳が同じで仲が良い。猫族のリコとエルフの女の子ジーナ、蜥蜴族の男の子はラルゴだ。


3人揃って剣術を習いたいと言うので、強化した木剣を作ってあげた。強くなれば両親を守れる、悪い事じゃ無い。


騎士の剣の基本は教えてあげた。練習相手はリアさんの仲間がしてくれる。



リアさん達はよく働く。畑仕事も馴れたもんだ。稼がなくて良いのか?と聞くと、蓄えが有るから大丈夫なのだそうだ。何でも他の仲間とここで会うことになっているらしい。




「ミロウクさん、村長の所にギルドから使いの方が見えてますよ」


「はい、すいません。直ぐ行きます」


わざわざ、ここまで来るとは。何か有ったのか?村長の所に居たのは、いつもの受付嬢だ。


「どうしました?」


「ギルドマスターが来て欲しいと、これを預かって来ました」


手紙だ。


「何て書いてあるの?」


「例の神殿を調べる調査団がホビットの国から来るんで、念の為に警護して欲しいのだって」


「そうなの、行くんでしょ」


「うん。解りました、用意するんで少し待っていて下さい」


「はい」



「リアさん、ちょっと行って来ます」


「そうか。これを持っていけ、精神攻撃を防いでくれる。気持ち悪くならないぞ、気を付けてな」


貰ったのは2人分の腕輪だ。


「ありがとう。行って来ます」



ーー



「呼び出してすまんな。紹介しよう、昔からの俺の友人でビトゥーだ。考古学の教授だ」


「ミロウクです。こっちはリスバティ」

「宜しくね」


「こちらこそ宜しく頼む」


「出発は明日になる。前回に調査した時のパーティーも一緒だ」


「そうですか、分かりました」



食事をする為に近くの酒場に寄ると、前回一緒だったパーティーの人達も来てた。


「いよ~兄さん達、明日は宜しくな」

「これ見てくれよ」


見せてくれたのは、剣と首飾りだ。


「これで奴らを倒せるし、気持ち悪くならないぜ」

「凄いですね、どうしたんです?」


「へへ、知り合いの魔道具屋に、取り寄せてもらったのよ」


「それが、メチャクチャに高くてな、ギルマスに泣きついたら、半分以上出してくれたんだ」


「良かったですね」

「おう、これで明日はバッチリだぜ」



「ホント、あの人達はお酒が好きね」

「海人は特にそうさ」



ーー


洞窟の中を慎重に進む、邪悪な残留思念の集合体は、出てこなかった。


「もう居なくなったのかな?」

「油断するなよ」


「兄さん、どう思う?」


「そうですね、この前も神殿に着くまでは出て来なかったので、神殿に着いてからが問題だと思います」


「神殿の中も危ないな」


「う~む、それでは、調査しづらいのう」

「な~に、俺達が全部片付けますよ」


「そんなでかい口きいて大丈夫かよ」

「この剣が有れば大丈夫さ」


「おい、もうすぐ神殿だぞ、気をひきしめろ」

「すみません」



前回、遺体は片付けたのだが、相変わらず嫌な臭いはする。



『ミロウク様、来ます』


ケンが教えてくれた。


「皆さん、来ます!」

「き、来たか」


転生してきたかの如く、たくさんの残留思念の集合体が現れた。しかし、今度はこちらも準備万端だ、全員が集合体を切り刻んで行く。


邪悪な残留思念の集合体は「ギィヤァー」と叫ぶが、調査団の人達も、ギルドが用意した首飾りをしているので、問題は無い。もちろん俺も大丈夫だった。


「よし、全部滅したな」

「神殿の中に入りますか」


「ビトゥーさん、ここに、何か書いて有るのですが」


「どれ、見てみよう。"ラバブウ"……どっかで聞いた事がある様な……」


「ビトゥー様、もしかしてデモニアス神の配下、4邪神の1人では?」


「おお、そうじゃ……万端の準備をするまで、神殿には入らん方が良いかもしれん。悪いが皆、今日はここまでだ」


「解りました。みんな撤収だ」

「はい」





拍子抜けして宿に戻ったのだが。デモニアスってどこかで……


「リスバティ、デモニアスって聞いた事ない?」


「もう、忘れっぽいんだから。と言っても私も今、思い出したの。ガーマでしょ」


「あいつか。こんな所に関係してくるとは」


ギルドマスターとビトゥーさんに話すべく、俺はギルドに向かった。


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