第25話 南の地下神殿

 リアさんの言った事が気になった俺は、商業ギルドに登録する為、海人国のジーラスカに来ている。


グラディ村の税は、「穀物や野菜など生産物の4割を納めよ」と言うもので、労役と特産品については縛りが無い。それだけ期待はされていない、と言う事だが。


しかし、今後は変わって来るのは間違いない。今のうちに稼いで置いた方が良いと考えたからだ。


商業ギルドで登録を終えて、食事をする。綺麗な海を眺めながらといきたいが、そうも行かない。


ジーラスカでも、ここ西の街のガデオンは、海岸は有るが波は高く崖になっていて岩場が多い、俺に言わせればここの方が、勇者の隠れ家が在ると思うのだが。


「ここのお魚美味しい」


「海が近いので当たり前だが、隣街に大きな漁港が在るのが利いてるね」


食事も終わり、後は冒険者ギルドに行って依頼の様子を見るだけだ。



ギルドの中は重い雰囲気だった。何か有った様だ。


「どうしたんです?」


「最近見つかった西側の崖の洞穴を、調査に行った奴らが戻って来ないんだ。勇者の隠れ家かもって、はりきって行ったんだがな」


「それで、捜索隊の募集が有るらしいぜ」

「そうですか」



「魔族絡みかしら?」

「どうかな?行って見るか」


「うん」



俺達も依頼を受ける事にして、総勢22人の捜索隊になった。


戻って来ないパーティーは、海王の槍と嵐の海のBクラスの2パーティーだ。


今回の捜索隊は4人組のAクラスが2パーティー、Bクラス2パーティーだった。


俺達はDクラスで格下だが、ギルドマスターがエリエント湖のアイレスの釣りの時に、卵を買った人達の中に居たらしく、俺達の幸運さを買ってくれて特別に入れてくれた。



崖の端から足場の悪い岩場を降りて行くと、洞穴が見えて来る。岩と砂利によって塞がれていたのだが、半月前のクラーケン討伐の際に、暴れたクラーケンのお陰で見つけられたのだ。


洞穴の中は、ダンジョンとは違う独特の雰囲気が有った。


「ヒズワイルド、何か息苦しいな」

「ああ、注意が必要だ」


「俺の危険察知にビンビン響いて来るぜ」

「兄さん達、気を付けろよ」


「はい、ありがとう御座います」


俺はトーチで周りを照らす。


洞穴の道は緩やかに下っている。このまま進めば外は海の中と言う事になる。


分かれ道は無く、曲がり道を左、右と進んで行くと幅広い階段が有った。


「人の手で造られた物だな」

「降りるか?」


「それしか無いだろう」

「気が進まんが仕方ない」



長い下り階段を注意深く降りて行く。



「これは、これは」

「おお~、すげー」


降りた広場の奥に在ったのは、神殿だった。


みんな神殿の方へ歩いて行く。近づくにつれ不快な臭いが強くなって来る。


「この臭いヤバくねぇ」

「血の匂い、死臭だ。用心しろ」



ただのトーチを増やす。明るさが増し、少し先に無数に転がっている物に目が行く。


「くっ、何てこった」

「ひでぇな」


バラバラになった人の手足や胴体だ。


「つまり、ここに何か居るって事だな」


みんな剣を構える。しかし、俺のサーチには何も引っ掛からない。他の人達も同じ様だ。


そして奴らはいきなり現れた。


「なに!」

「どこから来た?」


「転移か?」



人の形はしているが、もやっとしてハッキリしない。手の様な物に剣の様な物を持っている。それは禍々しいオーラを放ち俺達を襲って来た。


俺はこん棒から三日月宗近に替え、剣らしき物を受ける。


[キン!] 金属音がする。やはり剣だ。


最初は戸惑っていたが、みんな反撃する。しかし、意味は成さなかった。


「何なんだよ!」

「くそっ」


手応えが無いのだ。アンデッドか?光属性の魔法に切り替える。


『ホーリースピア!』


奴らは、光属性の魔法を受けても平然としている。


「光属性魔法も効かない」

「アンデッドでも無いのか」


みんな防戦一方になっている。


「ギィヤーァ!!」


急に不快な叫び声が上がった。


リスバティと戦っていた奴が、首らしき所をハネられたのだ。しかし、何て叫び声だ。吐き気がする。


表裏一体の剣ケンとメアリがいち早く対応したらしい。


『ミロウク様、奴らは邪悪な残留思念の集合体です。通常の攻撃や魔法は通用しません』


『どうすれば良い?』


『破邪の魔法か、破邪の付与された物で攻撃するしか有りません』


破邪の魔法って何?聞いた事が無い。


『破邪の魔法?』

『白魔法です』


はい~?何それ。聞きたいのは山々だが、今は議論している暇は無い、付与された物なら有るかもしれない。アイテムBOXの中を探す。


そんなに都合良く見つかるとは思えないが。1本の剣が目に入る。


光って見えたそれは、八体の蛇の紋様が入った鞘の剣。ガードの無い両刃の剣だ。グリップを握って鑑定する。


"イビルブレイカー"破邪の剣。


やった、有った。



「ギィヤーァ!!」「ギィヤーァ!!」

「ギィヤーァ!!」「ギィヤーァ!!」


うわっ、勘弁してくれ、頭が割れる。リスバティが量産体制に入った様だ。奴らを次々に葬って行く。



俺も負けてはいられない。イビルブレイカーを振り回す。


「ギィヤーァ!!」「ギィヤーァ!!」

「ギィヤーァ!!」「ギィヤーァ!!」



しまった。1体ずつ殺るんだった。うっぷ!


奴らは全て始末したが、リスバティを除いて全員が暫く動けなかった。


「ふぅ~、酷い目にあったぜ」

「だが、兄さん達のお陰で助かった」


「ギルマスの勘が的中したな」

「全くだ」


「どうする?神殿の中に入るのか」

「みんなの意見を聞こう。入りたい者は挙手」


…………。


「よし、今日は撤収だ」


俺は引き上げる前に神殿の文字を見た。最初の方の文字だけ読める。後はかすれていた。"ラバブウ"意味は解らない。



ーーーー



「なるほど解った。破邪が付与されてないと倒せない、邪悪な残留思念の集合体だな。こっちで調べて見る」


イビルブレイカーの事は内緒と言う事で、ギルドマスターには奴らの事を教えた。


「今回の事は2人には感謝してる。そこでだ、Cランクに上がれる様に推薦しておいた」


「本当ですか、ありがとう御座います」

「来週くらいに顔を出せ、承認されてるはずだ」


「分かりました」




思わぬ事でCランクに上がる事が出来た。来週が楽しみだ。


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