第24話 訪問者

「この村ですかね」

「そのはずだが」


貧しい村だが、活気は有る。指導者が良いのだろう。


「どちら様ですかな?」


「我ら旅の者だが、畑仕事でも何でもする故、暫く逗留させてもらえないか?」


「それは構いませんよ」

「助かる。貴方は?」


「村長のバラルです」


「リアと言います。宜しく、これは世話になる礼だ。皆で食べてくれ」


「ご丁寧に、ありがとう御座います」




「姉御、どなたです?」

「いないみたいだな。待つとしよう」


「俺らは村の様子を見て来ます」

「頼む」



ーー


見慣れぬ馬車がたくさん停まっている。何だ?


「村長さん、あの馬車は?」


「旅の方達が、暫く逗留したいと。世話になるからと言って食べ物などくださって、良い人達ですよ」


「そうですか」

「気になる?」


「いや、大丈夫だろう」

「あの人達じゃない?」


先頭の女性は日に焼けて、背が高い。健康美と言うのだろう、綺麗な人だ。


「良い村ですね」

「ええ、みんな働き者です」


「貴方はこの村の人?」

「いえ、開墾などを手伝っているだけです」


この男か。魔法属性が1つもない、"重ねる"と言うスキルは気になるが、自分の占いに自信が持てなくなってきたね。




「姉御、どうです?」

「う~ん」


いつもの様に試して見るか。



ーー


「ミロウクさん、腕の立つ冒頭者と聞いたが、内のレイオスと手合わせしてみない?ただとは言わない。レイオスが負けたら、バンブキンの種をあげよう。もっとも、この地で育つか判らないが」


「ホントですか、それは良い。バンブキンは繁殖力も高く栄養も有るが、この辺では手に入らないからな」


「決まりだな。やり方は何でも有りだ、薬も有るし魔法で治療も出来る。安心してくれ」


「判った」



剣を構えてはいるが、レイオスは暗器の名手だ。さて、実力を見せてもらおうか。


棒切れ?そんな物で戦う気か。動きは悪くない、中々やる。はあ、何故あの棒は折れないのだ?それに、いつの間にかレイオスが圧されているではないか。


レイオスの奴、やっと暗器が使える形を作ったか。こうなればもう決まりだろう、レイオスの得意な形だ。あれを初見でかわした者はいない。


ミロウクも良くやったが、……あ~、やっぱり今回も駄目か。我ら一族の長年の夢は、叶うことが無いのか。何回、同じ事を繰り返せばよいのだ。


私は興味を失い、戦いを観る気も無くなり目を瞑った。


[カン、カン]


「「「おー!」」」


なに?


「おい、何が有った」

「レイオスの指弾を叩き落としたんでさあ」


「2つともか?」

「はい」


バ、バカな。



「参った。ミロウクさん、強いねぇ」

「ギリギリでした」


「お見事。約束のバンブキンの種だ」


「おっ、ありがとう。お~い、村長、良いもの貰ったよ」



「まさか俺の指弾の軌道が読まれるとは。今までで1番強い。決まりですかね?」


「い、いや、まだだ」



ーー


「昨日は見事でした」


「レイオスさんは変わった戦い方ですね。あの技も面白い」


「田舎の戦術なんだ。それより質問が有るんだが」

「怖いな、何です?」


「今やっている事が上手く行けば収穫量は増えるだろう。特にカジュ酒は目玉になる」


「そうですね」


「ここの領主グロライハ男爵は、上昇志向が強く欲深で小物だ。このまま、この村が楽になると思うか?」


「随分と深い質問ですね。村の人達の考えによりますが、先が見えない程に村の人達が舐められて、楽にならない様であれば、お節介をするかもしれません」


「では男爵が貴方を懐柔しようとしたら?取り立てて貴族にしてやるとか言って」


「ハハ、貴族に興味なんて無いですね」


「……なるほど。あと1つ、ここには獣人や蜥蜴族、エルフがいるが嫌じゃないのか?」


「全然」

「そうか」



「リアさんは何が聞きたかったのかしら」

「さてね」



ーー


「レイオス、全世界に散らばっている同胞に伝達だ」


「えっ、そ、それじゃ」

「ああ」


「大変だ、こりゃ」




どうやってミロウクに話そうか……。ん、何か視線を感じるが……




えっ?…………な、……まさか、あり得ない。何で狭間の世界のぬしの幼体が、こんな所に……




「あっ、判ちゃった。私の事は話しちゃダメよ」

「は、はい、畏まりました」



ど、どうなっているのだ?



ーー


腕が立ち権力にとらわれず差別もない……村の雰囲気も良い。猫族、エルフ、蜥蜴族が分け隔てなく生活している。そしてぬしまでいる。



「姉御、伝令は出しました。大丈夫なんでしょうね?」


「ああ、間違いない。私は今、確信した」



ーー




「最近、勇者の遺産の話は聞かなくなったな」

「そりゃ、簡単には見つからんだろう」


「それも有るが、みんなバカじゃないって事さ」

「なんで?」


「遺産目当てで命を狙われるからだよ。魔族もそうだし、どこぞの秘密機関も動いてるって話だ。黙っているのが1番なんだよ」




「大事になって来たわね」

「確かに。早く馬車を買って帰ろう」



村との往き来に、いちいち運行馬車に乗っていられないので、自分達の馬車を持とうと言う事になった。


それでストルクの街に買いに来て、情報収集の一環で酒場によったのだが、面白い話が聞けた。どこぞの秘密機関とは、おそらく魔法国家サマリスの事だろう。


噂をすれば何とかで、サマリスの紋章をつけた一団とすれ違った。北の山を調べるつもりなのか、村の方には来て貰いたく無いものだな。




問題が起こったのは一週間後だった。北の山で魔族とサマリスの部隊が衝突したのだ。激しい戦いだったらしく山の地形が変わってしまった程だ。


この事をオズスレイ王国は非常に重く見た。と言うより本音は西の端の国オズスレイは山や森などが多い為、勇者の遺産が自国にたくさん有るのではと考えて、自国以外の者は山や森に立ち入りを禁止しのだ。


他国はこの事を良く思わなかった。オズスレイ王国は食糧の自給率が悪く、他国からの輸入に頼っている。これは失敗したんじゃないの、と俺は思う。


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