第23話 こんな日が有ってもいい

 猫族の女の子は俺に抱きついて来た。あの時は龍神のお面をかぶっていたのだが判るらしい。


「何でここに、猫族の村は?」

「それはね……」


「猫族の村では、みんなを受け入れてくれなかったのです」


母親だ。


「猫族の村も貧しく、私達だけならと言われたのですが、私達だけ残る気にはなれませんでした」


気がつけば、エルフと蜥蜴族の家族もいる。


そうか、一緒に犯罪に巻き込まれた人達は、連帯感が生まれ、絆が強くなるって聞いた事が有る。


「あの時は、本当にありがとう御座いました」

「いいえ、でもどうしてここに?」


「頂いたお金で海人の国の商業ギルドで登録して、商人の真似事をして暮らしていました。この村に来た時、ここの人達は種族に関係なく接してくれ受け入れてくれたのです」



「そうでしたか」


俺達がここで会うのは、運命だった気がする。


「リスバティ、ここで出来るだけフロッガルを狩ろう」


「うん」


狩ったフロッガルの骨は、ほどよい火力でこんがり焼き乾燥させ、粉にして土に混ぜた。肥料として使うのだ。


それから俺達は、アイテムBOXの中に有ったカジュの樹の種を植えたり、リスバティのスキルを使って村の作物の成長を早めるなど、色んな事をやった。


この分なら秋には、収穫量はそこそこ増えて楽になるだろう。


俺達は一旦、ストルクの街に戻り依頼を終了させてから再びグラディの村にやって来た。


そして今日は本来の目的である、エリエント湖のアイレスを釣りに行く。


湖には結構な数の海人がいた。なぜなら、ここはジーラスカ王国の領地で海人の国だからだ。


「釣れますか?」

「いや、ぜんぜん」



やはり地元の人でも難しいのだ。他の人の邪魔にならない所に離れて座って、準備をする。



「どうやってするの?」

「あ、リスバティは初めてか」


仕掛けを作って説明をする。竿を地に刺して後は気長に待つだけだ。


小鳥のジュエネは気持ちに良さそうに飛び回っている。ここは景色も最高だ。


「ワインも美味いし、釣れれば言う事無し何だが」



…………3時間が過ぎた。もうお昼だ、糸はピクリとも動かない。


リスバティの肩で、ジュエネはピィピィと歌っている。それを聞いていると眠たくなってきたので、目を瞑る。



「ミロウク!」

「な、なに」


慌てて目を覚ます。リスバティの竿が大きくしなっている。急いで輪っかに糸を巻いていく、だいぶ深かったので巻くのが大変だ。引く力も強い。


『身体強化×5』 アイレスは魔物と言っても特に害をなすわけでは無いが、力はさすがに強力だ。



格闘する事30分、体長4mのアイレスが水面に現れた。もう一息だ。いつの間にか俺達の後ろに人が集まって来ている。


『身体強化×8』 一気に引き上げる。


深緑色の背に、金色がかった腹の白さがなんとも美しい。


釣り上がったアイレスに人々は感嘆の声を上げる。


「お、おい、卵持ちだぞ!」

「本当だ」


「これは、白金貨1枚はくだらない」


えっ、何それ?



「き、君。スプーン一杯でいいから、売ってくれないか」


「お、俺も」 「俺もだ」 「こっちも」


偉い事になった。いつの間にか行列が出来ている。断りずらいので、売る事にした。


「凄いわよ、ミロウク」


俺の前には金貨が山の様に積まれている。いったい、いくら有るのだろう?


スプーン一杯の卵を買った人達は、一目散に家に帰って行ったので、ここには俺達しかいない。


「凄まじかったな」


それでも卵は、まだたくさん有る。アイレスをマジックBOXに入れて今日は店じまいだ。



村に戻ると村人達が慌ただしく食糧を積み上げ、整理している。


「どうしたんです?」


「明日、お役人様が来て、来年の夏までの収穫の調査と秋の税を取りに来るのです」


そうだった、忘れていた。税が有ったのだ。この村はどの程度持って行かれるのだろうか。この地の状況は厳しい、ちゃんと判断してくれるのだろうか。



翌日、荷馬車と共に役人達がやって来た。一通り村と畑などを見て回る。


「ふむ、カジュの樹など植え、今期は調子が良いようだな」


「はい、お陰様で」


「では前期に足りなかった分も納めてもらうとしよう」


「そ、それは」

「嫌とは言えぬはずだが?なあ、村長」


「……はい」


備蓄庫に有った物は、ほとんど無くなってしまった。


「ん~、なんだ。猫にエルフ、蜥蜴までおるではないか、この村は物好きがいるようだな。ふん、税さえ納めれば文句は無い、せいぜい働くがよい」



ボソッと村長が呟く。


「どうやって冬を越せばよいのか。何の為に働いているのか解らなくなります」


答えは簡単、貴族が美味い物を食って、女を抱くためだよ。身も蓋もないが。



「ミロウク、お金はたくさん有る。なんとか出来ない?」


「う~ん、リスバティ、それって自己満足じゃないかな?最後まで責任が持てる?」


自分で言ってて耳が痛い。


「それは……」

「違う形で、出来るだけ協力しよう」


「うん!」


沼で増えてきたフロッガルを、狩って狩って狩りまくる。


村人達と山から岩や石、土を運び沼を埋め立て、畑に少しずつ変えていく。上手く行くかは判らないが、色んな樹の実を植えて見る。


寒い冬が来るのだ。関わったからには、なんとかしたい。




         ☆☆☆☆☆



「姉御、ホントにこんな世界の端っこの方に、我らの大国おおくにになる御方が居るのですか?」


「お前は私の占いが信じられないのかい?」


「他の事は信じられるんですが、この事に関しては」


「くぬぅ、今回は、何か、こう、巨大な力を特に感じるのさ。それも信用出来ないかい」


「滅相も御座いません」


私だって自分の占いでなければ、信じないさ。


「さあ、冬を凌ぐねぐらを造るよ。みんな頑張んな」


「「「へい!」」」




        ☆☆☆☆☆




ーー


フロッガルの燻製肉や、カジュの実で作ったカジュ酒などのお陰で何とか冬を越す事が出来た。



そして村に一風変わった集団がやって来た。


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