第22話 ちょっとした失敗

 今日はドンハドゴさんから呼び出しが有った。魔道具が出来たのかも知れない。


「おう来たな」

「もしかして、出来たのですか?」


「まあ見てくれ」

「これは」


俺が想像してた物とは全然違った。何か箱の様な物を考えていたのだが、出てきた物は服だった。



「ビックリしたか。ブリュープラチナを糸にしてみた、ただの糸では無いぞ。ミノタウロスの魔石を加工して粉にし規則正しく螺旋状にして、この細い糸に埋め込んで有る」


「着てみても」


「ああ、良いぞ。魔力を通して、試して見てくれ」


防具を外して袖を通して見る。思ったほど重くない、これなら身体強化すれば動きに支障は無い。魔力を服に通すと染み込む様に魔力を吸収していく。


30分経ったが、いっこうに魔力が満タンになる気配が無い。


「凄いですね。めまいがして来ました」

「無理せずに日をかけて貯めた方がいい」


「解りました」


「満タンにしたら、ミロウクの考える"濃く"すると言う事をやって見てくれ」


「はい」



ーー


「良い物が出来た見たいね」


「ああ、あの人の錬金術は半端じゃない。この出会いに感謝だ」



ーー



結局、魔力が満タンになるまで5日もかかった。"重ねる"を使ってまた魔力を流し込む。




「ミロウク、顔色が悪いわよ。栄養の有るものを食べに行きましょう」


ここ何日も魔力を流し込んでいたので、反動が来たようだ。ここは、リスバティの言う通りにしよう。



きつい鍛冶仕事の後に、ドワーフ達が集うスタミナ料理の専門店"龍人の酒壺"に食事に行く。


「いらっしゃいませ、何に致しましょう」

「精がつくものをかったっぱしから持って来て」


「お、おい、リスバティ」



ーー


うぷっ、気持ち悪い。昨日は酷い目にあった。特にガーディックと言う香辛料は美味いのだが匂いが凄い。俺の身体から今でもプンプン匂う、暫く外には出れない感じだ。


調度いいので、魔道具の作動試験をする。今度は魔力を取り出す方をやってみる。


取り出す魔力の量や濃さも自由に出来た。後は外で威力を確認すれば完璧だ。


リスバティにハーブ入りの香水を買って来てもらい、身体にかける。


「どう?」

「うん、微妙な匂い」


リスバティが俺のそばに来て、鼻を身体に付け色んな所の匂いをクンクンと嗅ぐ。なんとも言えない変な気持ちになる。


「ぎりぎり大丈夫かな」


「そ、そうか。じゃ、原っぱで魔法の威力を試そう」



"重ねる"を1回だけのトーチを、一番濃い魔力で樹に向かって撃つ。


樹は瞬時にして消滅した。感覚では10倍になっている。今回貯めて重ねたのは10回なので、なるほどと言う感じだ。



その後、何回か試したがほぼ同じ結果が出た。大成功だね。



この街を出るので、ドンハドゴさんの店に顔出す。


「そうか街を出るのだな」


「ええ、オズスレイのダンジョンに行こうと思います」


「これも持っていけ」


差し出されたのは、箱だ。中を見ると、長さ20cm、巾と厚さが5cmのブリュープラチナの延べ板が4本入っている。


「オーソドックスな形にした」

「これも魔力が貯められるのですね」


「もちろんだ」

「凄い。いくら払えばいいですか?」


「ミロウクには世話になった。金はいい」


「そうだぜ、兄ちゃん」

「こっちへ来た時は顔を見せて下さいね」


「ありがとう御座います。それでは」




オズスレイ王国は西の端に在る国だが、領土の広さはこの世界で一番だ。しかしそのほとんどは荒れた土地で、山や沼地も多い。その為、王都から西へ離れるほど街や村は貧しくなっていく。


しかし、オズスレイの遺跡のダンジョンは国の東側にあり、収益も有るので街も大きく賑やかだ。


「ここはなんと言う街なの?」

「ストルクの街だよ」


「2、3日ゆっくりしてからダンジョンに行こう」


「了解」


これがちょっと失敗っだった。2日目の昼頃、遺跡のダンジョンが攻略されてしまったのだ。攻略されれば、1ヶ月は経たないとダンジョンは復活しない。


この世界のダンジョンは竜の背山のダンジョン以外は、200年前の勇者によって1度攻略されている。勇者の遺産は、その時のダンジョンのお宝だと言われている。


今回、攻略したのは海人族のパーティーだった。海人族と言っても人と変わらない。首にエラがちょこっと有るだけだ。


仕方がないのでギルドで依頼を見る事にした。


「面白そうなのが無いわね」

「ん~」


半月前の依頼が残っている。沼フロッガルの討伐だ。


グラディ村か遠い、片道一週間はかかる。これでは割に合わない。が、1つだけ良い点が有る。


近くに世界最大の湖、エリエント湖が在る事だ。ここには幻の古代水棲魔物アイレスがいるからだ。


アイレスは部位も高く売れるが、食べても美味い。もちろん幻と言う位なので滅多に釣れない。湖もとても綺麗と聞く。


俺は行った事が無いし、食べた事も無いので行く価値はあるだろう。


「リスバティ、これにしょう」

「ミロウクが言うなら、何か有りそうね」


「その通り」



アイレスを釣る為の道具を揃えて出発する。今回の移動は穏やかで何も起こらない。色んなしがらみが無いせいだろうな。


予定通り、きっちり一週間でグラディ村に着いた。馬車を降りて目につくのは痩せた土地だ、やはりこの土地の状況は厳しそうだ。



「ギルドから沼フロッガルの討伐に来ました。村長さんをお願いします」


「は、はい。こちらです」



「この様な村です。依頼料もあまり出せないので、もう来て下さらないのかと」


「大丈夫ですよ」


村長の話しによれば、少し離れた沼地からフロッガルが畑を荒らしに来るそうだ。カエルの魔物フロッガルは悪食で何でも食うので始末が悪い。


村長が用意してくれた小屋で一息入れて、沼に行く事にする。


今回、俺達が全て倒したとしても、奴らはどこからともなくあらわれて直ぐ繁殖するだろう。定期的に狩らないとあまり意味は無いのだが。


「いたいた、うじゃうじゃ居るわ」

「口から出る粘着舌に捕まると厄介だよ」


表裏一体の剣ケンとメアリに任せるわ」

「それが良い」


「俺も風の生活魔法でやる」



沼地に風が吹き荒れる、風の刃がフロッガル達を蹂躙していく。


見える範囲のフロッガルは居なくなった。アイテムBOXに全て入れ帰る事にする。証拠部位の水掻き以外の足腿は食べれるからだ。


村に戻って村人にフロッガルを解体してもらう。みんな喜んでやってくれる。貴重な食料になるからだ。


「お兄ちゃん!」

「えっ」


そこにいたのは、前に助けた猫族の子だった。


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