第20話 職人

 街に戻った俺達は、暫く休みを取る事にしたので、海の見える洒落た店で食事をする事にした。


海を見ていると心が落ち着く。


「昨日、夢にケンとメアリが出て来て挨拶してくれたの」


鳥のジュエネと海藻サラダを食べながら、嬉しそうに話すので俺も嬉しくなる。


「そうか、良かったね」


「次は何処に行くの?」


「ここでブリュープラチナをある程度取ったら、ドワーフの国に行きたいんだ」


「何をする気?」


リスバティは目をキラキラさせて聞いて来る。


「魔力を貯めて置くことが出来ないかと思ってさ」

「魔力切れにならない様に?」


「うん、後は"重ねる"のスキルを使って増やしたり、濃くしたりして威力が強く出来ないかなって思ってる」


「へぇ~、凄いわね」


そうなんだ、魔力を濃く出来れば、凄いんだよ。



ーーーー



休みが終わって、二週間後に予定量のブリュープラチナが取れたので出発だ。


ドワーフの国にはグレーロ山脈が在る為、一旦西に向かってから南下しなくてはならない。


今回の移動は危険だ。山間を通る事が多くなるので、盗賊や山賊が多いからだ。その為、馬車は単独での運行はせず、まとまっての移動になる。


当然、護衛も多くなるので運賃も高くなるが、みんな命には変えられないので諦めている。




「おいでなすったぜ」


総隊長のバックスさんが各パーティーに、注意を促す。


「ざっと、30人って言う所だな」


「へっ、30でこの馬車隊を落とそうってか、舐められたもんだぜ」



的確に敵の人数を読んでいる。腕が立つ人達らしい。


先頭のパーティーの1人が、潜んでいる盗賊達に狙いを定め、ファイアーボールを連射する。着弾し、悲鳴と爆発音が響き渡り戦いが始まった。


馬車に同乗している商人達は真っ青だ。


「大丈夫でしょうね?この馬車」


「高い金を払っているんです。そうでなくては困りますよ」


この地域の馬車は他の馬車とは違い、鉄板が貼って有り丈夫だ。まあ、気休めにはなる。


護衛の冒険者達は、襲って来る盗賊達を難なく葬って行く。これはもう勝負は着いたな。


「バックス、ヤバイぞ」

「ん、新手か」


地面からたくさんのスケルトンウォーリアが這い出て来た。


「死霊使いが居るのか。何処だ?」

「判らん」


「数が多いのは厄介だな、ここは山が壁になって道も狭い、威力の有る魔法を使えばこっちも危ない」


「地道に倒すしか無いか」



「ミロウク、私達も出る?」

「そうだな」



リスバティは表裏一体の剣ケンとメアリを使いたくてしょうがないのだ。


今のリスバティは、たぶん俺より強い。(剣の力だけど)


馬車を降りてリスバティは、剣を両手に持って構える。直ぐに剣から闘気オーラが出て剣がユラユラ、クネクネと揺れ曲がる様に見える。


いや、実際に曲がっているとしか思えない。何せ相手の剣をすり抜けるのだから。それだけでは無い。あらゆる属性の魔法斬撃波を出す。


とんでもない剣だった。たぶん、まだまだ秘密が有ると思うが。



スケルトンウォーリアの群れが迫ってくる。リスバティは左右の剣を振った。火の斬撃破が2本の剣から生まれ出る。


本当に凄いのはここからだ、生まれ出た斬撃波は意思を持っているが如く、倒すべき相手に応じて巾と軌道を変えていく。


胴から真っ二つにされ、弾け飛んだスケルトンウォーリアの残骸が綺麗に山道に沿って転がって行く。


「あ~あ、1人で全部倒しちゃうな、これは。リスバティ、その辺で止めておいた方がいいと思うぞ」


「えっ、うん、そうする」


2人で馬車に戻った。残りのスケルトンウォーリア達は護衛の冒険者達が片付けて行く、第2段の攻撃は来ない、あれだけのスケルトンウォーリアを出したのだ、死霊使いの魔力も無くなったのだろう。



「君達、感謝する。ありがとう」

「いいえ」


「バックス、2人に護衛料を払った方がいいのでは?」


「違い無い」


さすがに護衛料を貰うのは勘弁してもらった。俺達はまだDクラスだもんね。



その後、馬車隊は順調に進みドワーフの国、モザンヌに入った。


鍛冶や魔道具で有名なのは王都ではなく、鉱山の在るアジオパークと言う街になる。その街の防壁が見えて来た。



「色んな種族の人達がいますね」

「ここにみんな買いに来るからね」


「商業ギルドに行くんでしょ」


「うん、腕の良い職人さんを、教えて貰わないと」



ん、騒がしいな。酔っぱらいか?


「薬くれって言ってんだよ」

「だから、この店には無いんだよ」


「てめえ、店に火ィ着けるぞ」

「父ちゃん、俺が取ってくるよ。帰ろう」




「酔っぱらいですか?」


「えっ、ああ、ドンハドゴさんの事か。あれでもこの国で一番の魔道具職人だったんだ。大会で何度も優勝してね」


この国で一番……


「それがどうして?」

「奥さんが死んでね、酒に溺れちまったのさ」


「酒覚ましの薬でも買いに?」


「いや、娘さんがドワーフだけがかかるタチの悪い病気になってね」


「薬は高いんだ」


「それもそうだが、手に入りにくいんだ。作るには、ミノタウロスの角の粉が必要なんだ。息子が取りに行くって言ったけど、無理だよね」


「それがあれば、オジサンでも作れるの?」

「ああ、簡単だよ」


ーー


「嬉しそうね、ミロウク」


「それはそうさ、話が全部繋がったんだ。行かない手はない」



「ここだ。すいません」

「なんだい兄ちゃん」


「魔道具作って欲しくてさ」


「嬉しいけど、今のダメ父ちゃんじゃ無理さ。第一寝ちまったら、テコでも起きないよ」


「俺に任せろよ」


前からやろうと思っていたのは薬関係だ。気付け薬を重ねて、重ねて、重ね尽くした究極の俺特製の気付け薬を鼻を摘まんで開いた口にポイッとな。



「むにゃむにゃ、……ぐっ、けへ、うぷ、うぎゃ、うひぃ~」



トイレに駆け込んだ様だ。


「ひでぇ目に合ったぜ。何だお前は?」

「魔道具を作って欲しい」


「帰んな、今の俺には無理だ」

「フワド病の特効薬が有ると言っても?」


「何だと」

「兄ちゃん、本当かい。父ちゃん……」


「…………分かった。但し、今すぐは無理だ。酒を断って精神と肉体を戻さないと。2週間待ってくれ」




「ドンハドゴさん、山に籠るんだってね」


「そうらしい。薬は明日出来る。娘さんが心配だから先に飲んでもらおう」



ドンハドゴさんが戻って来るのが待ち遠しい。


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