第19話 小さなダンジョン

 伯爵が、怖れおののき手放した「勇者の呪いが」有ると言われる剣は、またオークションに出品された。


噂を信じない者や興味を持つ者が居た為、直ぐに落札された。しかし落札者は直ぐに手放す事になった。


これが5回も続いたので、オークションには出せず、今は街の古道具屋で銀貨100枚で売っている。


ここは神聖国家の街だ。呪いなど、どうにかなりそうだが、剣に呪いはかかって無いので、どうにもならない。



「ミロウク、まさか買う気じゃ無いわよね?」

「だって、白金貨31枚が銀貨100枚だぜ」


呪いの内容はこうだ。


剣を買った夜から夢を見るそうだ。剣を持った女性が現れる。顔は1日目は、よく見えないので美しいか醜いかは判らない。


そして剣を持った女性が悲痛な声で「私の愛する人を還して」と言って、日が経つにつれ段々近づいて来て、顔も口、目、眉と見えて来る。


完成された女性の顔を見た者はいない。その前に手放すからだ。



「おじさんこれ下さい」

「本当に買うのかい?返品は駄目だよ」


「大丈夫」



「呆れた」


「手に追えなかったら、また封印してどこかに埋めるよ」




夜が来た。


う~ん。何処だここ?女の人だ、剣を持ってる。聞いた通りだ。


「私の愛する人を還して」

「何処に居るのさ?」


「ここよ」


何かが俺の頭の中に刻まれた。……目が覚めた。



「おはよう。どお、気分は?」

「最高だ」


「何か有ったのね」

「ああ、今日は山に行こう」



馬車を借りて街の南に在る、ガッコウ山に向かう。


「何が有るの?」

「それは判らない」



山の麓に着いた、もう馬車は使えないので歩く。人は立ち入った事が無い様だ、斜面は急で登るのは無理だ。回り込んで登れる場所を探す、どのくらい歩いただろう?



「休憩しよう」

「もう、詳しく話してよ」


「ごめん、話すよ。例の夢を見た」

「それで?」


「女の人に場所を教えてもらった」

「……あっ、男の人が居る所だ」


「正解」

「それがここ?」


「そう」


「そう言う事なら私もやる気が出てきたわ」

「ふふ、それは良かった」


更に回り込んで行くと草に覆われて判り難いが、洞窟の様な穴が有った。


「入るのよね?」

「もちろん」


草をかき分け中に入って、サーチで奥を確認する。何もいない様なので奥に進んだ。


降り階段だ。


「もう、ダンジョン見たいじゃない」


「未発見のダンジョンは、世界にたくさん在るらしいぞ」


「そうなのね」


地下一階、魔物の気配有り。


「リスバティ、いるぞ」

「了解」



最初に遭遇したのは定番ザコのゴブリンだった。2人で瞬殺していく。死体は直ぐに消えた、ダンジョンで間違いない様だ。薬草をドロップした。薬草を見るとFランクの時を思い出すな。



「何階まで有るのかしら?」

「見当がつかないな」


ハイオークを倒し、地下9階まで進んだ所で前回酷い目に合ったので、買って置いた時を知らせる魔道具、時座を見ると8時だった、今日はこの辺にしておこう。広い場所にテントを作り魔道具で結果張って食事にする。


「寝るとまた夢を見るのよね?」

「そうなるかな」



う~ん。ここか、女の人が剣を持って現れた。言われた場所に居るせいか、何も言わない。だけど近付いて来るので口が見えた。


可愛い口だ。リスバティより少し、唇が薄い。




「ミロウク、朝よ起きて」

「う、うん」


「どお?」

「口が見えた」


「怖く無いの?」

「今の所はね」



このダンジョンは、まだ若いダンジョンの気がする。1つの階の広さは狭く魔物のレベルが低い。とは言っても、気の遠くなる様な年月が経っていると思うが。



ゴブリンメイジ、オークジェネラルなどの上位種を倒して地下21階に行き、2日目を終了した。



「お休み」

「少し心配ね」


「大丈夫さ」



う~ん。……今日は左目か。二重瞼でまつ毛が長い、どういう順番なのかな。



「ミロウク、朝よ」

「おはよう」



ゴブリンキングにオークキング、ゴブリンとオークしか出てこないな。


「ゴブリンとオークばっかりね」

「やっぱりこのダンジョンは、まだ若いね」


「そうなのね」



3日目は地下31階で終了。


「おやすみなさい」

「おやすみ」



う~ん。……右の眉毛だ。確かに少し、不気味悪い。

出て来る順番が変。意味が有るのか?


「おはよう」

「おはよう」


「大丈夫そうね」

「まあね」



地下32階からはオーガだった。そんな所かな、と思う。


オーガファイター、クイーン、キングと倒して地下40階に降りると直ぐ前に扉が有った。


「ボス部屋よね?」

「そうなるな」


大した事の無いボスだと思うが、一応は気を引き締めて扉を開けた。



「ミノタウロス!」

「予想が外れたな」


レベル63のミノタウロス。俺達のレベルは、俺が33でリスバティが27だ。


倍近くレベル差は有るが、怖いとは感じない。もっと怖い思いをして来たからね。


『昇速×6』


ミノタウロスの斧による攻撃をかわす。リスバティがダークバレットを撃って援護をしてくれる。


その間にこん棒から三日月宗近に持ち替えて、ミノタウロスに向かって進み、首をハネるべく剣を抜く。ミノタウロスは上半身をひねり、俺の一撃を避けたが右の角は飛んで落ちた。



ミノタウロスは、憎しみがこもった眼差しで俺を睨み付ける。


ミノタウロスの後ろに回ったリスバティが、魔力を最高に上げ、練り込んだダークバレットを背中に放つ。


「グハァ!」


ミノタウロスが天を仰ぎ反り返る。隙有り、俺の剣がミノタウロスを腹から真っ二つにした。


「いい連携だったわね」

「バッチリだ」



「おー、宝箱だ」

「何かしら?」


「想像出来ない?」

「え~とね、……女の人の彼氏よね」


「たぶんね」


宝箱の中身は、俺が古道具屋で銀貨100枚で買ったあの剣、呪ろわれる剣と全く同じだった。ただ、こっちは色が黒い。


奥に出来た魔方陣に乗って見ると、地下一階の階段の所に出た。魔道具の時座は9時を指している。外に出ると、時間通りやっぱり暗かったので野営をする。



「夢を見るのかしら?」

「お礼ぐらい言って欲しいがな」



う~ん。俺の前で美男美女がイチャイチャしてる。キスまで始めた、けしからん。


「オホン!」


「これは失礼致しました。私はケンと申します」

「私はメアリです」


「で、理由を説明してくれるかな」

「「はい」」



2人は話し始めた。この剣は2人の事らしい。剣に自我が有るのか、剣の精って所か。


遠い昔に1対だったこの剣(2人)は離れ離れになったそうだ。理由は覚えていないので、判らないらしい。


メアリは封印が解かれた時、彼の事を思い出したそうだ。彼の居場所もその時に判った。


突っ込み所はたくさん有るが、考えたらきりがない。この世界は、ダンジョン1つとっても解らない事だらけだ。


ただ1つ、はっきりさせたい。


「メアリ、顔の出て来る順番は、なんか理由が有るの?」


「あ、あれは……ケンを捜してくれる気の無い方の所に居たく無いので、怖がらせて剣を手放して貰おうと、私達は2人揃って初めて能力を出せるのです。あれが私の出来る精一杯でした」


なるほど、もっとやり方は有ったと思うが。人が良いと言うか、剣が良いと言うか。


「お陰で一緒になれました。今日から貴方が私達のマスターです。命をかけてお守りします」



えっ、そうなの?でも俺には三日月宗近が有るしな、どうした物か。


この先、ガーマの様な強者が出て来るだろう。あの時思ったのはリスバティの事だ。


「君達にはリスバティを全力で護って欲しい。頼めるか?」


「「御意!」」



「おはよう、夢見た?」

「うん、…………って話さ」


「そうなんだ」

「だから、この剣はリスバティが使ってくれ」


2剣使いのリスバティの誕生だ。

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