第18話 勇者の呪い
虫と言っても一頭の大きさは、20㎝位有る。この森にどのくらい居るのだろう、想像もつかない。
「手始めだ、10頭で相手してやるぞ」
森の中から飛んで来た。一頭ずつは相手していられない。広域魔法で燃やす。
『指定、トーチ20×20』
炎の渦が虫を飲み込む。所詮は虫だ燃えて終わりだと思ったが、虫は平然と炎から出て来た。
「なっ」
「お前がなぜ魔法を使えるのか判らんが、舐めるなよ。このガメタラは水と風属性だ、水と言っても地熱で熱湯になった所で幼虫期をすごし、成虫で溶岩の中を泳ぎ回る、生半可な火などこいつの敵ではないわ」
そんな虫の魔物、この世界に居たのかよ?知らねえぞ俺は。くそ、どうする。
「考えても無駄だ。絶望せよ」
森から無数の黒い塊が浮かび上がる。数による脅威は、あのブルーアイズドラゴンにも劣らない。
「ミロウク……大丈夫よ。私達は勝つ」
リスバティだけでも助けたい。こんな時、あの冷気が使えればなぁ。俺は冷気が出るはずもない左手を出し、念じる。出てくれ頼む。
「くっ、駄目か」
『まだまだね。このくらい早く1人で出来る様にならないと、リスバティにフラれるわよ』
へっ、誰?
俺の左手のひらから風が渦巻く、あの時と同じだ。それは直ぐにキラキラと輝き、森の上に浮かぶ黒い塊を覆い尽くす。刹那、黒は白く変わり粉々にはじけ飛んだ。
「……あ、ああ何と言う……事だ。これだけ集めるのにどれだけ時間を費やしたか。お前は一体何なんだ」
ハハ、また魔力切れだ。意識が飛びそうだ、このまま倒れたい。
だけど今、弱みを見せたらガーマの奴は調子に乗る。ここは、「どうだ!」という顔をしなくては。
「貴様……貴様!貴様!貴様!貴様!貴様!貴様!貴様!ふーっ、ふーっ。生意気な、糞ぉ……転移!」
き、消えた。あ、もうダメ。
「ミロウク!」
魔力切れだわ。魔力回復薬をあげないと、でもミロウクは気絶してて飲めない。……誰も見てない、私が飲ませてあげる……
何だろう?頭の後ろが柔らかくて気持ち良い。う~ん、ぐりぐり。
「ミロウク」「ミロウク」
「何、リスバティ?」
「目が覚めた?」
えっ、リスバティの顔が目の前に有る。
「うわっ」
「何、寝ぼけてるの。魔力切れで気絶してたのよ」
「そ、そうだったのか」
リスバティの膝枕だ。柔らかい、もう少しこうしていたいな。でも誰か来る。
「兄さん達、大丈夫か?ん、お邪魔だったかな」
「い、いえ。魔力切れで、ちょっと横に」
「応援を連れて来たが、戦ったのか?」
「はい、見つかちゃって」
「預言者は?」
「虫を焼かれたので逃げました」
「何だ、預言者どと言って、大したことなかった様だな」
「済まんな、せっかく来てくれたのに」
「いいって事よ、戻ってみんなに伝える。まあ、念の為、暫く待機するさ」
「すまんが、そうしてくれ」
休憩がてら護衛の人達に、預言者が居なくなった後の街の事を聞いた。みんな預言者が偽物だと納得したそうだ。
「よし、だいぶ遅くなったが出発するか」
「お願いします」
馬車は静かな森の中を走って行く。
「しかし、見事にウサギの子一匹もいないな」
「逃げ出したのだろうよ」
エルフの国に来る途中の、ボーンラビットやワイルドボア達の群れはこれのせいか。ガーマの奴、どっちにしろ街を襲う気だったな。
「ガーマは諦めたのかしら?」
「エルフの国に執着が有る見たいだった。いつかまた仕掛けて来るさ」
「教えてあげないの?」
「向こうに着いたら、警護の人に話すよ」
「そうね、それが良いわ」
神聖国グレコトスの最初の街に着いたのは、ガーマと戦ってから2日後になった。
「じゃあな、兄さん達」
「くれぐれも気をつけて下さい」
「ああ、王都にも連絡する」
「海を観るんでしょ。気分を変えて行きましょう」
「うん」
小さな村を経由して3日後に、俺は海を観る事が出来た。港の有るパッスールの街は、白を基調とした建物が多く、素晴らしい所だった。
「魔族の国の海の色とは違うのね」
「へぇー、どんな色なの?」
「深いみどりの色よ」
「そうなんだ」
ギルドに向かって歩いていると、大勢の貴族や商人が劇場の様な建物に入って行く。
「何が有るんです?」
「ああ、勇者の遺産が見つかってね、お宝のオークションが有るんだよ」
興味が湧いた、入場料さえ払えば誰でも入れるとの事なので、見学する事にした。
「ミロウクも物好きね。魔族が襲って来るかもよ」
「う~ん、無くはないが、この街中に来るとしたら大軍で来ないとな。それより客のふりして参加した方がいいかもね」
「あ~、それもあるか。でも魔族がいたら私には判るわ」
「ふふ、オークションに参加する魔族か、面白い」
ーー
オークションが始まった。剣、宝石、魔道具が次々と高値で落札される。
今までで1番高かったのはミスリル製で、光属性魔法のレベル7までの魔法が付与された降魔の剣で、白金貨30枚だった。
「さて皆様、最後の品になりました。有る意味今日の目玉になるかも知れません。こちらです」
出てきた物は細長い金製の箱だ。封印がしてある。
中身は恐らく剣だろう。
「敢えて封印は解いて有りません。お楽しみと言う事で、金貨500枚からです」
「800」 「1000」 「1500」
値が上がって行く、競り落としたのはギロンチ伯爵で、白金貨31枚だった。
☆☆☆☆☆
伯爵は得意満面だった。高額で鑑定士と封印解除の錬金術士、もしもの時の為に腕の立つ冒険者を雇い屋敷に戻って来たのだ。
錬金術士が魔法陣の真ん中に金製の箱を置き、呪文を唱えると蓋が開いた。
中には剣が入っていた。グリップは細く片刃で、ガードは刃の有る向きに片方にだけ付いている。
変わってはいるが、とても美しく眺めていると幸せな気分になる。
鑑定士はこの剣を"表裏一体の剣"と言った。呪いはかかっていない。伯爵は満足して、その夜は剣を抱いて寝た。
ーーーー
俺達がこの街近くに在る、青のダンジョンに入って一週間が経った。
「明日は、ブリュープラチナのでる階までに行きたいわね」
「行けるさ」
ブリュープラチナは、このダンジョンで出て来る価値の高い金属だ。加工するのが難しい為、貨幣には向かないが、魔法との相性がいい、ミスリルより上と言われている。
「おい、聞いたか、あの封印された勇者のお宝を落札した伯爵様、呪われたそうだぜ」
「ああ、聞いた。勇者様の呪いだって噂だ」
なに、勇者の呪いだって。また興味が湧いてきた。
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