第15話 預言者
アスナスルの街を出発して2日が経つ、馬車の同乗者は商人の2人と神父さんだ。
こちらから聞かなくても、最近の出来事を商人達が勝手に話してくれる。話の中心は魔族だった。
魔族と遭遇する事が多くなっているらしい。魔族の国は竜の背山脈と海を越えた東の大陸に在る。魔族でも人にしても、往き来しようとすれば大変な旅になる。
そこまでして魔族は勇者の遺産が欲しいのか?いや、デビスさんの考えでは、魔族にとって都合の悪い物だったな、何を探してるんだ。
考え込んでいると馬車が急に止まった。魔族か盗賊の襲撃か?慌ててサーチで周りを探る。
「リスバティ、どうした?」
「慌ててどうしたの?ボーンラビットとかワイルドボアの群れの移動よ」
確かにそうだ。でも数が凄い、大移動だ。
「まさか、またブルーアイズドラゴンに追われているのか?」
「ちょっとお兄さん、物騒な事を言わないで下さい」
「そうですよ。それでは人生詰み、じゃないですか」
「すいません、前に似たような事があったんで」
「ハハ、君は苦労してきたんだね」
サーチの範囲を広げて見るが、大物はいない様だ。
結局、群れの大移動が終わったのは、1時間後だった。川を渡ると、木々が多くなり森や林が増えてくる。エルフの国は森林に囲まれた所に在るので、もうすぐ着くらしい。
薄暗い森を抜けると視野が広がり、遠くに防壁が見えて来る。
防壁の門に近づくと、入国待ちの行列が出来ていた。
「いつもと雰囲気が違いますな」
「これは、何か有った様ですよ」
「私が聞いて来ましょう」
神父さんが、前に並んでいるシスターに話を聞きに行った。
「どうやら、預言者を追い出したら、ここの領主のサリス伯爵のお屋敷が虫に襲われた様です」
「話が見えませんな」
「確かに」
俺達の番が来たので衛兵に、それぞれが身分証や冒険者登録証を見せてチノの街の中に入った。
神父さん達と別れ、俺達は酒場に直行した。中途半端な情報は気持ちが悪い。情報を得るなら酒場が一番だ。
「先ずは、食事を楽しもう。その内、耳に入って来るよ」
「そうね、エルフの料理は何が有名なのかな?」
「聞いて見よう」
ミニスカートがよく似合う、脚の綺麗なエルフの店員さんに、お勧めを聞く。
「そうですね。ミネラルたっぷりの野菜と穀物をコカトリスの肉に繰るんでじっくりコトコト煮込んだ、バティと言う料理かしら」
「じゃ、それ。後、ワイン」
「私も」
「はい、分かりました」
料理を待っている間に、噂話が耳に入って来る。
事の起こりは、1人の預言者が街に現れた所から始まる。男は伯爵に、「この国に大きな災いが来る、最初はこの街に起こり、やがて王都を包み込み国が滅ぶだろう」と予言した。
男はそれを防ぐには、各地にデモニアス神を祀る神殿を建てろと言ったらしい。
元々エルフは、シェリルと言う独自の唯一神を崇めている。俺も聞いた事の無い、デモニアス神の神殿など建てる訳がない。男が追い出されるのは当然だ。
「それで伯爵のお屋敷が虫に襲われたのね」
「今後どうするか、エルフ達も考える所だな」
「私もデモニアス神なんて知らないもの」
「魔族と人は、神は一緒だっけ?」
「うん、一緒よ」
「大昔に、魔王は何で人を滅ぼそうとしたのかな?」
「解らないわ」
「まあ、神が同じだから仲が良いとは限らないけどね」
酒場の外に出ると人だかりが出来ていた。
「次はこの地の、畑や草木に災いが降りかかるであろう。逃れたい者はこのデモニアス神の御札を家に祀るが良い」
「俺に売ってくれ」
「私にも」
あの男が預言者か?御札を買っている人達は、みんな農民の様だ。
「何か胡散臭いわ」
「う~ん」
騒ぎを聞きつけ、衛兵達がやって来た。
「何をしている。お前は伯爵にこの街を出ていく様に言われたはず」
「ふん、デモニアス様を恐れぬ不届き者め、思い知れ」
預言者が杖を天にかざすと、稲光りが起こり雷が衛兵の1人に落ちた。
「不味い。リスバティ、あのエルフを手当てして」
「はい」
「止めろ」
「何だ貴様は、私に手を出せばこの地に更なる災いが降り注ぐぞ」
「そうよ、止めて頂戴」
「預言者様に手を出すな」
くそっ、やりにくい。
「静まれ!」
大勢の騎士がやって来た。
「ちっ、よいかデモニアス神を讃えなければ大変な事になると知れ」
預言者は杖を回し、風と共に消えた。
「リスバティ?」
「大丈夫、生きてるわ」
「レイトが世話になった様だな」
「いえ」
「預言者様を蔑ろにするな!」
「そうだ。邪魔するな」
「畑がダメになったらどうするんだ」
「ここでは話しにくい。我々の宿舎に行こう」
ーー
「助けて頂いて、ありがとう御座います」
「いいえ、大した事が無くて良かったですね」
「団長、冒険者の私が聞いても仕方の無い事ですが、どうするつもりですか?」
「うむ、伯爵も悩んでおられてな、王都に従魔を使って手紙を出した。返事がもうすぐ来るはず」
「そうですか」
下手をすれば暴動が起こる。ホントに厄介だな、俺達には関係は無いが。困るとすれば問題が起きて、王都の先に在るダンジョンに入れなくなる事ぐらいだ。
暫く話をして、お
「ガラガラね」
「あんな事が有ったからね」
「この国大丈夫かな、他の国に影響無い?」
「こじれれば有るかもね」
きのう予約した馬車は午後一番に出発なので、朝はゆっくり出来る。
「おい聞いたか、預言者を王都に連れてこいと命が有ったそうだぞ」
何かあの男の思惑通りに、事が進んでいる気がするが。出発前に、門の所にいるレイトさんにそれとなく聞いて見る。
「預言者の実力を見てみようと、決まったらしいのです。王都には、魔法にしろ幻術にしろ凄い人達が居ますからね」
「そうでしたか」
無責任な野次馬になる気は無いが、興味はそそられる。俺達も王都に行くのだから、結果は知りたい物だ。
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