第14話 報酬として貰った物

 霧のダンジョンと言われている通り、ダンジョンの中は、うっすらと霧がかかりジメジメしている。


ただのトーチで辺りを照らして進む。このダンジョンの最高到達階は地下43階なので、罠にハマって転移などしていなければ、その階までにいる可能性が高い。



「日記の字が読めないなんて、面白いわね」

「きっと勇者の元の世界の文字なんだよ」


「勝手に召喚されて、『魔王と戦って』なんて言われるなんて、可哀相にね」


「そうだね、しかも追放されたんだ」


これで獣人達の言う通り、裏切って無かったら目も当てられない。



「リスバティ、魔物だ」


「嫌よ、ミロウク。あのネチョネチョは嫌、ミロウク殺って」


リスバティが嫌がるのは、ヌルヌル、ネチョネチョの液体を吐くナメクジの魔物、ゴゲガキィだ。しかもネチョネチョは繊維を溶かすので、きのう知らずにたくさんかぶってしまったリスバティは、酷い目に合ったのだ。


もう一度、ヌルヌルで下着姿のリスバティを観てみたい気はするが。


「仕方ないなぁ」


周りがジメジメしているので、火属性の魔法は威力が半減する。このダンジョンでは、もっぱら風の生活魔法を使っている。


『ブリーズ×5』


ゴゲガキィは、均等に綺麗に切断され転がった。見方によっては美味しそうだ。しかし直ぐに霧になって消えて、珍しくアイテムをドロップした。"塗り薬"、火傷に効くらしい。


現在は地下10階なので苦労はしない。2人でサクサク進む。


地下13階は広い草原の様だった。他の冒険者達はここでテントを張り、休んでいる。どうやら拠点の1つとして使っているみたいだ。


下に降りる階段はだいぶ先の森の中に有る。ここで休むのが正解か。


「お~い、みんなリドゥラが来るぞ、気をつけろ」


「あ~ん、ヤバイな。テントたたむか」


「リドゥラって何ですか?」


「あの森の主だよ。この階のレベルじゃねぇ、地下40階以上のクラスだ。ちょっかい出さずにやり過ごし方がいいぜ」


「解りました、ありがとう御座います」


薄暗い空を悠々と飛んでいく、鳥の魔物だ。俺達を相手にする気は無いようで、上空を何回か旋回して飛び去って行った。


「リスバティ、今日はここまでにしておこう」

「うん、分かった」


何となく、その方が良いと思った。巻物を使ってダンジョンを出る。


ダンジョンで大惨事が有った事を聞いたのは、宿で朝食をとった時だ。



地下15階で小規模な魔物の暴走が有ったらしい。10年に1度くらい起こる時が有るそうだ。今回は、あのゴゲガキィが大量発生して暴走し、たくさんの冒険者が犠牲になった。


「な、なんて恐ろしい……」


リスバティはぶるぶる震えている。ダンジョンに入らない訳には行かないので、リスバティをなだめすかして、地下13階の草原に在る森に入った。


下に行く階段の所に来た時、頭の中で声がする。


『人の子よ、何しに来た』


念話か?誰です。


『我が名はリドゥラ、この森を統べる者』


人の言葉を喋ってる。


『なめるで無い。人の言葉など雑作も無いわ』


人を捜してます。2ヶ月前に行方不明になった、4人組のパーティーです。



『あ奴らか、地下21階にるわ。お前なら行けば判るであろう』


ありがとう御座います。



「どうしたの?ミロウク」


「リドゥラがパーティーの居場所を教えてくれたんだ」


「え~、うそ」



ーー


『何でこの我が、人の子に協力せねばならんのだ。……ぶつぶつ』



ーー



3日後、俺達は地下21階にたどり着いた。リドゥラは来れば判ると言っていたが、取り合えず近場を歩き回る。


別れ道に出たので集中する。またあのザラつく感じがした。隠し部屋が在るのだ。


「リスバティ、注意してね」

「はい」


右通路の突き当たりの壁に手を当てると、扉が現れた。扉に有る突起を押すと開いた。


中に入ると人が横になっている、3人だ。パーティーは4人のはずだが。


「さすらいの狼の方ですか?」

「あ、……ああそうだ。捜しに来てくれたのか?」


「そうです」


「ロイス、ベホム、起きろ!助かったぞ」


「パーティーは4人と聞きましたが」


「ドガラスの奴は裏切ったのさ。ここの宝と俺の勇者の日記を奪ってな。そこの扉は一方通行の扉だ。外から閉められたら、中からは開けられねえ」



どうやら俺達は、ただ働きの様だ。




ーーーー



「本当にすいません。父を助けて頂いたのに、約束を守れないなんて、これが私の全財産です」


ダンジョンで手に入れたであろう宝石や魔道具、綺麗に装飾された護身用の短剣などだ。


「足り無い分は、私が貴方の奴隷になって一生尽くします」


「い、いや、それは……」



「……マヤ、すまねえ。俺はもう勇者の遺産の事はキッパリと諦めるぜ。兄さん、これを受け取ってくれ」


「これは?」

「日記に挟んで有った物だ」


ダンジョン内の地図の様に見える。


「最も、どこで何を指しているのかもわからねぇ。日記を奪われたんで、手掛かりもねぇが」


「解りました。これを報酬とします」

「ありがてぇ」



「最後に、ドガラスという人はどんな人です?」


「あいつは頭の切れる奴だ、俺達の参謀役だった。俺がソロの時に知り合ったんだ。何でも、元貴族だったらしい。魔法は、ほとんど使えたな。剣の腕も良い、元貴族だったくせに暗殺剣を使う。スキルは俺にも判らねぇ」


「そうですか、ありがとう御座います」




ーー


「あ~あ、気が抜けたな。このダンジョンは、もういいか」


「そうです。ネチョネチョ、ヌルヌルはもういいです」


「あはは」

「うふふ」


ここから近くてダンジョンの在る所と言えば……


「よし、北に上がってエルフの国に行こう」

「エルフの国。会った事が無いので楽しみ」


食事をしたら、エルフの国レイカデール行きの馬車を予約しに行こう。

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