第13話 勇者の日記

 魔族の数はかなり多い、20人はいそうだ。近くに来たので、攻撃魔法は風の広域タイプにする。


『指定、ブリーズ10×10』


風が絡み合い、幾つもの螺旋を描き力を増幅し、強力な刃を作り出す。中に入ってしまった魔族達はバラバラになりビチャ、ビチャっと地面に叩きつけられる。辺りは血の海だ。


難を逃れた魔族達は、俺達の前に降り立った。半分は減らせた様だ。


リスバティにとって魔族との実質的な戦いは、今回が初めてになる。特に変わったスキルを持った奴はいないので、大丈夫だろう。



「貴様ら楽に死ねると思うなよ」


頭に血が上った魔族は、リスバティに向かって行った。


リスバティは襲ってくる魔族の剣を受け、いなしながら相手を引き込み首をハネる。そして自ら進み、後ろの魔族へ斬りかかった。リスバティの真紅に染まった細身の剣が冴え渡る。


Cクラスの冒険者達も中々やる様だ。彼らは暗殺剣の使い手だ。冒険者の中では珍しい、剣の持ち方を自由に変える。


基本は片手だが、両手だったり逆手に持ったりする。面白い動きだ、片手を活かす為の変化の様に見える。参考になる。



「ガキ、お前は余裕だな」


人の事を観ていたら、5人の魔族に囲まれていた。


「そんな事は無いよ、困ったな」


『ティル×5』『ティル×5』『ティル×5』     


前の2人を残して、横と後ろの魔族を土魔法で穴に落とし、前の1人は頭をぶち割る。もう1人は両手両足を潰しておく。


穴に落とした奴らは、翼が有り底まで落ちること無く飛んで出て来る。そこを『トーチ×10』で狙い撃ちだ。


リスバティは、冒険者2人が手こずる魔族の1人を葬って俺の所に来た。


「終わったわよ。あれ?1人生きてるのね」

「うん、聞きたい事が有ってさ」


「ぐう、オレをどうする気だ?」


「聞きたい事が有る。話してくれたら、命は取らない」


「下等な人族に、誰が答えるかバカめ。ペッ!」

「解った」


こん棒で顔を割って、ホントに終了だ。



馬車に乗り、落ち着いた所で2人に尋ねる。


「聞かせて貰おうか」


「は、はい。実は僕達、銀翼の人達が倒れている所を見つけたんです」


「銀翼?」

「ほら、勇者の遺産を見つけた人達よ」


「ああ、魔族に襲われたんだっけ」


「カズさんだけ、まだ息が有って、この指輪をアイテムBOXから出して僕に渡してくれたんです。そうしたら、あいつらが戻って来たんで慌てて逃げたんです」


「私達は怖くなって、直ぐギルドに行って銀翼の人達が魔族に襲われた事を言いました」


「指輪の事も話したんですが、ギルドマスターがカズには身内もいない、お前が貰っておけと言ったんで持ってたんですが」


「そうしたら魔族の奴ら、私達の前に現れる様になって」


「こんな事なら返せばよかった」


「それ指輪のせいじゃ無いわよ」

「えっ?」


「魔族の中には匂いに敏感な奴もいるの」

「あのブタ鼻だな」


「そう、違う匂いがしたから戻って来たのよ。それで仲間だと思って、勇者の遺産をまだ持ってると考えたのよ」


「ブタ鼻はもう死んだ。貴方達は安全さ」

「よ、良かった」


「所で君はその指輪が、どう言う物か判ってるの?」


「それが、鑑定師に頼もうと思っていたら、魔族が現れたので判らないです」


「金縛りの指輪だね。複数の相手を一時的に麻痺状態に出来る。相手との力関係で、効く効かないは有るけど、指輪の使用者が3対1で有利になってる」


「凄いですね」


「その指輪が有れば、戦いが楽になるね」

「ありがとう御座います」






2日後に馬車は少し遅れて夕方になったが、無事バレイシル王国のアスナスルの街に着いた。彼らとも、ここでお別れだ。


「本当にお世話になりました」

「元気でね、また」



街中を歩くと、どこからでも高い防壁が見える。国境近くにダンジョンが在る為、スタンピードによって他国に迷惑が掛からない様に、分厚く高い防壁が一定の間隔を置いて、4重に設けられているからだ。


「なんか、監獄に入った気分だ」

「入った事が有るの?」


「真面目な顔で聞かれてもな。例えの話しだよ」


「だってミロウクは、たまにおかしな事を言うんだもん」


そうかな?どっちかと言うとリスバティの方がボケが多いと思うが。


「ギルドに行って見よう」

「うん」


ダンジョン攻略でのレベルアップも必要だが、ランク上げの為の点数も欲しい。


ギルドの中は混雑していた。掲示板の所へ真っ直ぐに行く。点数が高くて面白そうな依頼はないかな……そう都合よく事は進まない。


……2ヶ月前から出ている捜索願い、報酬は勇者の日記。ん、勇者の日記?なにこれ。


「何か有ったの?」

「うん、聞いて見よう」



「すいません。この依頼報酬の勇者の日記って何ですか?」


「……、それですか。さすらいの狼と言うAクラスのパーティーのリーダーが、凌ぎの森で勇者の日記を見つけたんです」


「日記ですか」


「そうです。その日記に、ここのダンジョンの事が書かれていたらしく、パーティーで調査してたんですが行方不明になってしまって」


「それが2ヶ月前?」


「ええ、リーダーのお嬢さんが、莫大な依頼料の代わりに勇者の日記を渡す事にしたんです」


「勇者の日記は、リーダーが持ってったんですか?」


「そうです。だからパーティーが見つからないと、手には入らない事になりますね」


「誰も依頼を受けなかった?」


「いいえ、当初は勇者の日記が手に入れば、隠れ家の場所が判って遺産が手に入ると言う事で、みんなが捜しました」


「見つからないので諦めたんだ」

「そうです」


ーー


「どうする気?」

「娘さんの所に行って話しを聞いてみるよ」





「どちら様ですか?」


やつれた顔の女性が出てた。


「冒険者なんですが、お父様の事を聞きたくて」

「捜してくれるのですか、お願いします」


「ええ、少し話しを聞かせて下さい。手掛かりになればと思います」



「はい、何でもお話し致します」


「ダンジョンのどの辺に行ったか、心当たりは?」


「いいえ、残念ながら……日記なんか見つけなければ良かったんです。勇者の遺産に取り憑かれてしまって。字さえ読めなかったのに」


「字が読めない?」


「そうです、この世界の文字では無かったので、200年前に勇者を召喚した、魔法国家サマリスまで行って調べたりしたんです」


「読める様になった?」


「全部は無理でした。数字と地名、人の名前らしき物は、なんとかなった様です」



「酷なようですが、2ヶ月が経っています。魔物にやられてなくても、事故など別の理由で動けないとすれば、水は魔法でなんとかなりますが、食べ物はどうにもなりません」


「ですが父達は生きています。父には変わったスキルが有るんです。クリエイトフード」


「食べ物を作り出せるのか」

「はい」


深刻な怪我さえしていなければ、可能性は有るか。


「解りました。やって見ます」

「お願いします」


よし、ダンジョンに挑戦だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る