第11話 対決

 当然、公爵は襲ってこさせるだろう。王都に入られたら、難しくなる。


この点は、みんなの意見は一致していた。


「しかしミロウク殿、よくそんなこん棒で戦って来ましたな」


「いえ、これは油断させる為の物でして。いざと言う時は、これを使います」


当たり前の様に出来ていたので、疑問に思わなかったが、俺には相手のスキル鑑定や物の鑑定が出来ている事が分かった。


自覚した所で、漆黒の鞘の剣を鑑定してみた。最初は、なかなか出来ず苦労したが、三日月宗近と言うものだった。


俺が簡単に鑑定出来なかったのだ、賭けにはなるが出発前に、街の鑑定士に見せてみた。やはり鑑定士に、この剣は鑑定出来なかった。


その時、この剣は俺にしか鑑定出来ないと感じた。だからと言って、威力を見せびらかす気は無いが、怪しまれ無い程度に使おうと思う。実際、この剣でないと勝てない相手が居たのだから。


「美しい剣ですね」

「ありがとう御座います」


他の冒険者に馴染みの無い俺の為に、たまにバジルさんは気を使って、俺の所に来て話しかけてくれる。


大掛かりな襲撃になるのは、伯爵も読んでいたので、騎士、兵士に加えギルドに協力を要請して、SクラスAクラスの冒険者も参加しているからだ。


護衛は馬に乗り、馬車隊の左右で護りながら進む。


ギルティレッドが襲って来たのは、王都に入る前日の街道だった。


かなりの人数になる。公爵も必死なのだ、バレたら身の破滅だからな。だったら、最初からやるなって話だ。


貴族でしかも遠縁ではあるけど王族の血筋らしい、十分だろ、我慢出来ないかね?破滅するのは自業自得。


ざっと見たところ、ヤバい奴は4人いた。3人はSクラスの冒険者と戦う様だ。


後1人、誰か相手してくれと思っていたが、それは叶わぬ様だ。俺めがけて一直線に向かってくる。俺は顔が売れているらしい。



「リスバティ、ヤバい奴が来る。離れて戦ってくれ」


「了解、気を付けてね」

「ありがとう」



「君には私の相手をして貰おう」

「気が進まないな」



この間の男とはまるで印象が違う。かなりヤバい、武器に頼らないと言うか、静かな剣と言う感じだ。恐ろしく強い。


ただ、ここは外だ。狭くは無いし、地は土だし魔法が役に立つ。


「そう言うな、私は楽しみにしていたのだよ」


それは困った。最初から勝負をするか?俺は剣を抜かずに構える。


「何っ、……君は何故その構えを知っている?」

「これを知っているのか?これはどう言う物だ」


俺も驚きだ。この型は何だ?俺も興味が湧く。


「知らずに使っているのか?信じられん」

「だから、何なんだ」


「ツィガナーの剣、"イアイ"だ」


ツィガナー?ツィガナーって確か、世界を放浪して生活をしている民族だったな。


「理由がどうであれ伝説の剣が本当だったとは、ますます良い。戦ってみたいと思っていたのだ、では行くぞ」


えっ、ちょ、無理。くっ、この嫌な感じ。


男の剣が、いつの間にか顔の横にきている。剣を上げ、僅かだけ抜きその間で男の剣を受ける。


踏み込み体を捌きながら剣を抜き、男を斬る。うっ、かわされた。男の剣を受けるタイミングがズレたせいだ。


不味い、俺はここまでしか物にしていない。と言うか知らない。ハッタリで剣を鞘に戻して構える。


「伝説の剣……恐ろしい剣だな、危ない所だった。良くかわせたと自分でも感心する」


えらく感心している、まさか俺が魔法を使うとは思うまい。よし、ここは穴を掘って落とすか。


「……残念だが邪魔が入る様だ。サラバ、また会おう」


砂塵が上がり男の姿は無くなった。……消えた。


「君、大丈夫か?」

「は、はい」



ギルティレッドの連中は制圧された様だ。この短時間でか?Sクラスの冒険者も普通じゃ無い。


この襲撃以降は流石に襲って来る事はなく、無事に王都に着いた。



「一先ずは安心ね」

「ああ、もう勘弁して欲しい所だが」



城で公爵と対峙するのは明後日と決まった。まだ気は抜けない。とは言っても、伯爵の一行と護衛の冒険者や俺達も、城の敷地内に在る宿泊施設に泊まるので、滅多な事は出来ないはず。



俺とリスバティは、部屋数の関係で一緒の部屋になった。いつもならドキドキする所だが俺の頭の中は、あの剣技の事でいっぱいだ。


"ツィガナー"世界をさすらう、謎多き民族。全世界に散らばり、その数さえ判らない。俺は、色んな事を想い巡らす。


「何を考えているの?」


風呂から出て来たリスバティが聞いてくる。身体に巻かれた、大きめのタオルから出ている顔や素肌が、ほんのり赤い。


一気に現実に引き戻される。服を着ろって。


「う、うん、ツィガナーの事をちょっとね」

「ツィガナー……」


「何か知っている?」


「前に、お父様とお母様が何か話をしていたけど、残念だけど覚えていないわ」


「そうか」


今度、本でも買って調べて見よう。


ーー



とうとう謁見の間での対決の時が来た。何の邪魔も無かったのが不思議だ。



この国の重要な王族、貴族が集まる中、国王の言葉で始まった。


「ではスオル伯爵、保存されているゾロイツェン王国のゼッヒ公爵とダウラギ公爵の会話を聞かせて貰おう」


「はっ、陛下。これに」


伯爵が魔道具を作動させる。


(頃合いを見て、お互いの国王を殺し…………これでめでたく我々が国王になるのだ。フフフ)



「おおっ!」


謁見の間で驚きの声が上がる。


「ふん、こんな物は出鱈目ですな。私を陥れる為のスオル伯爵のでっち上げですよ」


「では神の誓約書を持って答えて頂く」


「よかろう。命を賭け、署名し血判を捺してやろう」



「司教殿、神の誓約書をここに」

「はい、陛下」


ダウラギ公爵が誓約書に署名し血判を捺す。自信満々だ、おかしい。その余裕はどこから来る?


ダウラギ公爵の宣誓が始まった。…………しまった。司教も仲間か。不味い、あの神の誓約書は偽物だ。


しかし、どうやってそれを証明する。今、この謁見の間で鑑定が使えるのは王族の中に1人、貴族の中に2人だが、誰が味方か判らない。下手をすれば俺も危ない。どうする?



「どうした、私は生きているぞ」

「ば、馬鹿な。そんなはずは無い」


「私を謀叛者呼ばわりしたのだ、ただではすまんぞ伯爵、覚悟せよ」


「どう言う事だ、スオル伯爵」

「へ、陛下」


「さあ、その者を引っ捕らえよ!」


「お待ち下さい、陛下」


俺は手を胸に当て貴族の作法に則り、きっちりと挨拶をして前にでた。


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