第10話 公爵の陰謀

 この世界の剣技の流派は大きく分けて2つだ。昔、剣聖とうたわれた、ダルタヤの流れを組む正統派の騎士の剣。


海に沈んでしまったと言われる、古代国家ミケレス族の末裔が伝えたと言う異神剣だ。今ある暗殺剣の多くは、ここから枝分かれした物だ。


伯爵家に生まれた俺は、メイドの子とは言え、正統派の騎士の剣を学ばされた。


頭の出来は、そこそこなので理屈と型を覚えるのは簡単だったが、身体が追いつかなかった。だが紫色のクリスタルのお陰で、今は身体が自然に動く。


しかし無意識の内に、習っていない動きをする事がある。それは正統派でも異神剣でもない物だった。


今まで戦って来た中で、特に印象に残っている動きがある。俺はそれを物にしたかったので、繰り返し練習をした。最近、様になって来たと思う。


目の前にいるギルティレッドの男は、言うまでもなく暗殺剣の達人だ。実戦経験の浅い俺が勝てるとしたら、これしか無いだろう。


俺は中腰になり腰の位置に剣を置き、刃が上になる様に抜かずに鞘を持ち、グリップを握って構える。


「何だその構えは、くだらん物にかぶれおって。貴様は剣を抜く事すら出来ず、死ぬ事になる」


男は両手で剣を持ち、初動作も無く瞬時に間合いを詰め振りかぶられた剣は、俺を真っ二つにするべく降りて来る。


俺は剣を抜かずに回転させ、左手を添えて鞘で受け止める。身体強化の重ね掛けで力負けはしない。流れを止めず、右に回り込みながら剣を抜き、男の腹を斬った。



「ま……まさ……か、ありえ……無い。そんな物……説の……ず」



「兄さん!大丈夫か」

「ええ、何とか」



「ミロウク」

「終わったよ」



後始末が大変だった。ギルドに行って、事情を説明する。大部分が破壊された宿の補修は、ギルティレッドの男の剣でまかなう事で話がついた。



襲撃のお陰で、予定が狂ってしまった。そう言う意味では、奴らは成功したのかも知れない。



「まだ油断は出きんな」

「そうですね」



警戒は怠れない。しかし、奴らが襲って来る事は無かった。



レオナの父上、スオル伯爵の屋敷はエクレアの街に在る。今、その街の防壁が見えて来た。


なかなかの街だ、活気がある。領主であるスオル伯爵は、俺の知っている貴族とは違うらしい。レオナさんを見ててもそれは感じられたが。




「お、お嬢様!ご無事で」


執事の人は、飛んで屋敷に行ってしまった。そして直ぐに騎士を伴って、男性とやって来た。


「レオナ、無事で良かった」

「はい、この方達に助けて頂きました」


「そうか、感謝する。ありがとう」



ーー


「事情は解った。大変だったなレオナ、すまん」

「お父様、理由をお話下さい」


「分かった、話すとしよう。しかし今は、皆さんに休んで頂たい。いいかなレオナ?」


「そうでした。お父様、お願いします」





「さすが、伯爵のお屋敷ですね。凄いや」


「そうだな。しかしジョン、まだ油断は出来んぞ。なあ、兄さん」


「確かにそうですね」



広い風呂に入り、ゆっくり食事をして、話は翌日に聞く事になった。


しかし話を聞くのは、俺とリスバティだけになる。疾風の剣の人達は、ギルドに連絡が来てて、バキンスの街に戻る事になったからだ。


「一緒に居たかったが、すまん」

「いいえ、お世話になりました」


「兄さん達なら大丈夫と思うが、気を付けてくれ」


「はい、ありがとう御座います」


「また会おう」

「ええ」



「良い人達だったわね」

「ほんとにな」


ーー


「これから話す事は他言無用として貰いたい」

「勿論です」


「ダウラギ公爵は、かなり前から公費を着服していてな。まあ、そんな事は大小あれ誰もが似たような事をしているので、私も気にしないのだが。……使い方が問題なのだ」


「と言うと?」

「多くの私兵を隠し持っているのだ」


「私兵ですか?」

「うむ。ただ、謀叛を企てて成功する数でもない」


「別に狙いがあるか、その数でも何とか出来る策が有る。それがゾロイツェン王国の王女襲撃事件」


「レオナの恩人ではあるが、君は何者だね?」

「お父様」


「……娘の目を信じる事にしよう。私はそれを探る為に、ありとあらゆる事をやった。そして掴んだのだ、公爵はゾロイツェン王国の腹違いの弟、ゼッヒ公爵と密談をしていた」


「そう言う事ですか」

「話が見えたのかね?」


「細かい所は想像出来ませんが、王女襲撃をきっかけに、戦争を起こすつもりでは?そしてお互いの手引きで、それぞれの国王を亡き者にし、自分達が国王になったら頃合いを見て手打ちをする」


「ふふ、気に入ったぞ君、冒険者など止めて私の所へ来たまえ。いや、レオナと婚姻して私の息子になれ」


はあ?


「お、お父様!」

「あっ、いかん。つい……」


「それにしても……」


「お嬢様。旦那様は、今回、お嬢様の事で大分お心を痛めております」


「分かりました」


「すまん話がそれた、元に戻そう」


あ、焦った、どうなる事かと思った。


「この事は陛下もご存じだ」

「証拠は有るのですか?」


「これだ」


5cm四方の四角い魔道具みたいだ。


「魔法国家サマリスの友人に、特別に作ってもらった。声を保存出来る魔道具だ。会話は全てこの中に有る」


「でっち上げだと言われたら?」


「これを盾にして、神の誓約書を使う手筈になっている」


「なぜ、レオナさんが狙われたのです」

「私の部下に、公爵の息のかかった者がいたのだ」


「そうでしたか。それでいつですか?」

「4日後、王都で」


「王都まで2日かかります。私が戻ってこなかったら……」


「諦めるつもりだった」

「お父様」


「お前を失う訳には行かない。例え一時の、安全だったとしてもだ」


「旦那様……」


「今回、王都には身内と親しい者は全て連れて行く。万全の警護はするが、君達にも来て欲しい。頼めるか?」


「分かりました」

「ミロウクさん、ありがとう」




「レオナさんと結婚するの?」

「まさか、伯爵も本気では無いよ」


「そうかしら?魔族は一夫多妻制なのよ」


人もそうだけどな。変な事を言うなリスバティは。



翌日、伯爵一行と俺達は王都に向かって出発した。


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