第9話 魔族の襲撃
馬車は獣人の国、グガイオンの王都、ジグウラに入った。
王都ジグウラは、建国祭の真っ最中だ。200年前に、初代国王ジグウラは、蔑まされる獣人の悲惨な状況を変える為に、この地に国を立ち上げた。
それでも各地に貧しい獣人の村は、まだたくさん在る。あの猫族の女の子は、無事にすごせているだろうか。
ギルドに寄ると、別な意味で盛り上がっていた。勇者の隠れ家が、ザツクール街の森で見つかったのだ。
「明日、ここに届くそうだ」
「本当か。勇者様の剣と盾か、観てみたいものだ」
「そうだな、我が国の国宝になる」
「へぇ~、この国は勇者に好意的ですね」
「何でもジグウラが建国する際、勇者が協力したそうだ。勇者が居なかったら、この国は無いと言われている」
「だから獣人は、勇者がこの世界を裏切り、魔王と内通していたなんて信じてないのさ」
「勇者は裏切って無いんですか?」
「さてね。判らん」
「ギルドマスターへの手紙は出したし、明日に備えよう」
「はい」
ーー
王都を出発して1時間、物々しい警護の馬車がやって来る。獣人の騎士が40名、兵士が60名以上いる。
「よっぽど偉い人が乗ってるのか?」
「いや、あれだ、あれ」
「勇者の遺産か」
「それそれ」
「停まってやり過ごした方が、良さそうだ」
目の前を、騎士と兵士達が通り過ぎていく。凄い重圧だ。
「行ったな、それじゃ行くか」
「ちょっと待って下さい」
「どうした、兄さん?」
「何か来ます。空から」
「空から?」
「鳥の魔物か?違うな。ワイバーンに何かが乗ってる集団だ」
「あれは魔族です」
「魔族がなんで?最近は友好関係にあるはずだ」
「馬車が襲われてる」
「不味い、助けに行くぞ」
「「「おう!」」」
「ミロウク……」
「大丈夫、リスバティ。君は強くなった。それに狙いは君じゃない、勇者の遺産だ。君はレオナさんの傍にいて」
「はい」
不意打ちの様なワイバーンからの火球を受けて、騎士達の隊列はバラバラになってしまった。魔族達がワイバーンから降りたのと同時に、地中からもワームと一緒に魔族が出て来た。合流して馬車に向かって行く。
騎士達が馬車を囲い防いでいるが、かなり形勢が悪い。
「助太刀いたす」
「助かる」
疾風の剣の人達が割って入った。俺はワイバーンを片付ける事にした。全部で10頭いる。
ワイバーンの火と風属性は避け、水の圧縮弾で火球を吐きそうな奴から狙い撃つ。
『ウォーター×10』『ウォーター×10』
『ウォーター×10』『ウォーター×10』
水の圧縮弾を胴体と翼に受け、ワイバーンは落ちていく。
仲間のワイバーンが落ちたのを見て、残りの奴らは更に上空へ行った。どうやら闘う気は無いらしい。
俺の魔法も、とどかないので地上に目を向ける。
こん棒と身体を強化して突っ込んで行く、先ずはワームからだ。
ワームを叩くが、甲冑の様な殻で覆われていて利き目が無い。ただのワームでは無いようだ。
仕方ないのでアイテムBOXから剣を探す。業物ではなく、そこそこの剣は無いか。
漆黒の鞘が目に入った、抜くと片刃で反っているし出来損ないみたいだ。でも光の加減で刃のフチに三日月の様な模様が見える。美しい。
片刃の剣でワームを斬ってみる。腕に何の感触もなく、ワームはスパッと真っ二つになった。すげえ!
トロトロに煮込んだボーンラビットの肉に、ナイフを入れた感じで斬れる。
飛び掛かってくる魔族なんか問題にならない、一刀両断だ。
「貴様、何者だ。そのワームは地中深くにある磁鉱石を食っている、デコウワームだ。簡単に斬れる訳が無いのだ、その剣はどこで手に入れた」
ヤバい。これも見せてはダメな剣か。
「内緒だよ。口封じで、死んでね」
「グフッ」
う~ん、この剣は気に入ったんだがな。仕方ない、デコウワームはあきらめて、魔族をこん棒で倒そう。
俺は重ね掛けで気配を消し、次々に魔族を撲殺していく。
殺った魔族の数が30を数えた所で、勝負が有った様だ。魔族は全滅し、デコウワームは地中に潜って消えた。ワイバーンも去った様だ。
「ありがとう、感謝する。礼をしたい。皆で城に来て欲しい」
「気持ちは嬉しいが、我々は依頼の途中なんだ」
デビスさんが代表で答える。
「そうか。では帰りにでも寄ってくれ、これを渡しておこう」
デビスさんが紋章の入った短刀を受け取って、別れた。
「でも何で魔族は、勇者の遺産を狙ったんですかね?」
「そうだな……魔族以外の手に渡ると、都合が悪いから。と考えるのが普通かな」
「なるほど」
リスバティが、狙われた事と関係が有るのかな。
その後はギルティレッドの襲撃もなく、マゼーレ王国の端の街、ミストリィに着いた。もう一息でレオナさんの父上の領地に入る。
「もう直ぐですよ」
「お父様……」
朝一で宿を出るので準備をする。今日の昼には、レオナさんのお屋敷に着く事が出来る。
「敵襲だ!」
油断した。まさか明るい内から、宿を襲って来るとは。ギルティレッドにとっても、ここが最後の場所なのかも知れない。
「リスバティ、レオナさんを頼む」
「分かった」
俺は部屋の前に陣取った。厳つい剣を持った男がやって来る。
「君ですか?いくども、我々の邪魔をしてくれたのは」
「邪魔なのは貴方達でしょ」
「そんな口はもう利けませんよ」
挑発には乗らず、悪魔でも口調は静かで丁寧だ。だから余計に恐ろしい。
厳つい剣が空気を切り裂き、音を立てて俺の首を刈りに来た。
強化を重ねたこん棒で受け止める……事は出来なかった。こん棒は真っ二つに切れ、奴の剣が俺の首をかすめる。
バカな。今まで切れた事が無かったのに。
「なるほど、話しに聞いている通り動きは良い」
これは後先を考えていられない。ギルティレッドも本気を出して来たのだ。俺はあの片刃の剣を出した。
「ほ~う,変わった剣ですね。しかし私には関係有りません」
再び空気を切り裂いて、今度は袈裟がけに斬ってくる。
[キン!]
「えっ、なっ、なぜ?……折れない。私の剣はミスリルとアダマンタイトの合金で出来た特注だ。それに私のスキルで氣を載せているのだ、ミスリルの剣でもアダマンタイトの剣でも、小枝の様に折れる」
この人、何か凄い事を言ってるな。まだブツブツ言ってる。
「この世界で私に折れない剣など無い。……有るとすれば、レジェンド級以上の…………ま、まさか」
えっ、レジェンド級って何さ?
「き、貴様、何者だ!」
言葉使いが酷くなった。勝機が見えて来たかな。こっちから仕掛けよう
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