第8話 ブルーアイズドラゴン

 1発の魔法で、殺られる様な者などいない。


「マジか、本当に全員だぜ。参ったね」


マシューさんの言った通りだ。あの時、話を聞いた連中だ。ぬけぬけと、良く俺に答えたもんだ。


30人は居る。こっちは疾風の剣の4人、俺と合わせて5人だ。


「1人が6人受け持ちな」

「「「おう」」」


リーダーのデビスさんが叫んだ。


そうは言っても、こんな事は早く終わらせたいので、広域魔法の試しをしてみる。向かってくる連中の、後ろの集団がバラける前に"トーチ"を落とす。


『指定、トーチ4×4』


斬り込んで来たギルティレッドの連中と、疾風の剣の人達の剣が交わった時、後方で爆発が起きる。


「なにっ」

「何だと」


よそ見をしている、ギルティレッドの奴らの頭を、俺は撲って行く。奴らの頭が陥没して血しぶきが上がる。




「呆れた兄さんだな」

「良いじゃねぇか、リーダー。早く片付いたんだ」


「そうだぜ、ひと眠り出来る」

「良かった、俺も寝たりなかったんです」


19個の炭の塊と、10の亡骸を穴に埋めて夜襲は終わった。



一週間もかからず、3日後に橋は完成した。あいつら、出鱈目を言ったな。まあ早くなる分には良い。



夜襲以来、ベストレス帝国に入り、帝都に着いてもギルティレッドは襲って来なかった。


「奴ら来ませんね」

「そりゃあ、そうだろうよ」


「一瞬で29人が殺られたんだ、逃げた奴がキッチリ報告してるさ」


「次はどう出て来るかだな。気をつけねえとな」



ーー



「ねぇ貴方、ずっと私を見てたでしょ?」

「俺は見てないよ」


「ふふ、いいわ。私、今夜すっぽかされたの。私の部屋で飲まない」


いい女だ。初恋の子に似ている、大人になったらこんな感じだろうな。酒も入っていた事もあって、俺は誘いに乗った。


「可愛いわね貴方」


いきなりキスか。甘い香り、舌が絡んで来る。気持ち良い。……うっ、何か飲まされた。身体が動かない。


「な、何を……」


「よくも、仲間を殺してくれたわね。簡単には殺さない、いたぶるわよ。先ずは尿道に、この棒を突っ込んであげる」


「や、止め……ろ」



「はい、そこまでだ。ねぇちゃん」

「誰だ!離しな」


「マ、マシュ……さん」


「バカだねジョン。お前が、こんないい女にもてる訳が無いだろう」


「う、うう」



ーー


「おはよう御御座います」

「おはよう」


「ジョンさん、顔色が悪いですよ」


「ククク、こいつ昨日、兄さんに間違われて、良い思いをしたんですよ」


「ハハハ、俺も、あやかりたいぜ」

「ワ~、もう言わないで下さい」


何が有った?


何か有ったらしいが、馬車は予定通り無事に帝都を出発した。



「ピッピピィ」


「可愛い鳥ですね。でも見た事が無いですね」

「そうなんです。鳥好きの人でも、判らなくて」


ジュエネは外に出れて嬉しそうに、リスバティの肩に乗って歌っていた。


馬車は草原をひたすら走る、いくつかの商隊も間隔を開けて走っている。



「ピィーピッピ!」

「どうした?」


「おかしいわね」


敵か魔物か?俺には、まだ感知出来ない。ジュエネが騒いでから3分が経った頃、ようやく感知出来た。大きな集団が迫って来る。


「デビスさん、巨大な物がこっちに来ます」

「そうらしいな」



遠くに砂煙が上がる。スタンピードか?しかし、この辺にダンジョンは無いはず。様子を見に行っていた、マシューさんが戻って来た。


「ビッグブルの大群だ。このまま進むと、この馬車も他の商隊も壊滅だ」


「迂回している暇は無さそうだ。何とかあの大群を真ん中から割れれば良いのだが」


「兄さんのあの、『ドッカーン!』ってやつで、何とかならないか?」


「やって見ます」

「そう来なくっちゃ」



ビッグブルの前に、大穴を空ければ良いんだよな。


「ミロウク、頑張って」

「任せておけ」


『指定、トーチ10×10』


トーチの集合体は、ビッグブルの50m前に轟音と共に落ちた。


[ドッゴーン!]


突然の轟音と爆風、空いた大穴に驚いた先頭のビッグブルは、避けるのが間に合わず、何百頭かは大穴に落ちた、後続は綺麗に左右に別れて馬車を通り過ぎて行った。


「やった、助かった」


ジョンは小躍りして喜んでいる。しかし、直ぐに彼の顔は凍りついた。


「どうしたの?」

「あ、あれ……」


「嘘だろ、俺達の人生は終わった」


「ジョン、あんな女でも抱いておけば良かったな」


「……マシューさん」


ビッグブルはアイツから逃げていたのだ。


空を悠々と飛んでいる、この世界の食物連鎖の頂点、ブルーアイズドラゴン。


「俺の魔力を全部、ぶつけてやる」


「ダメよミロウク。ブルーアイズドラゴンは全ての魔法属性を持っていて、魔法を反射するの。下手をすれば全てこっちに跳ね返って来るわ」


くそっ、頂点たる所以か。空を飛んでる相手に物理攻撃なんて無理だし、冷気の魔法はあの時以来、使えない。


みんなの言う通りここまでか?俺は悔しくて奴を睨んだ。


えっ、今、ブルーアイズドラゴンの奴"ビクッ"ってしたよな。


ブルーアイズドラゴンは左を向き、北の山の方へ飛んで行った。逃げた?俺の眼力に負けて?まさかね。


「な、何が起こった?」


「助かったのか?」

「どうでもいい、早くここを離れよう」


「賛成だ」




馬車は一目散に、ボロネアの街へ向かった。


街へ着いた俺達は一息ついた後、酒場に集まった。


「生きている事に乾杯だ」

「「「「乾杯!」」」」


「ブルーアイズドラゴンに遭遇して、生きているのは俺達ぐらいだぜ」


「良かったです」


レオナさん、やっと喋った。かなり緊張していたらしい。



宿に戻り、自分の部屋に入るとベッドに直行だ。満場一致で、明日は休みになった。ぐっすり眠れる。


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