第7話 夜襲

 マゼーレ王国までは、2つの国を通らなくてはならない。ベストレス帝国と獣人の国、グガイオン王国だ。


「レオナお嬢様、長い旅になります。何でも言って下さいね」


「ありがとう、リスバティさん。もう、レオナと呼んで下さいね」


「はい、分かりました」


「実は、気になる事が有ります」

「それは、どんな事でしょう?」


「2ヶ月前に隣国のゾロイツェン王国の王女が、マゼーレ王国の領内で、襲われたのです」


「そんな事が有ったんですね」


「その謝罪交渉に、国王の甥にあたるダウラギ公爵が就いたのです」


「話を続けて下さい」


「そのダウラギ公爵は、あまり良い噂が無い方なのです……」


「レオナさんの父上と関係が?」


「ええ、偶然に父と知らない男の人との話を聞いてしまったんです」


「話の中に出て来たのが、ダウラギ公爵?」

「はい、『これで奴の尻尾を掴んだ』と」


『これで奴の尻尾を掴んだ』か。……どうもキナ臭いな。やはりレオナさんの誘拐と関係が有ると考えた方が良さそうだ。



馬車はもうすぐ森の中に入る、そして4つの気配が有る。


「疾風の剣の皆さん、森の中に4つの気配が有ります」


「何だと!解った、すまん」


「ミロウク、敵?」

「多分」


「レオナさんは、馬車から出ない様にして下さい」

「はい」



馬車が森の中に入った。あらかじめ判っているので、遅れを取ることは無いだろう。


最初の2人が、馬車に飛び移ろうと木から落下して来た。


1人は、疾風の剣のリーダーが馬に乗ったまま鞭を振り、落ちてくる男の足首に巻きつけ、そのまま引きずっていく。


俺は生活魔法のウォーターを"重ねる"、空中に浮いた水は、トーチの様に膨れ上がるのではなく、圧縮される。生活魔法の種類によって、"重ねる"とそれぞれ現象が異なる。


圧縮された水の球は、落下してくる男の胸を貫き、後ろの木々を粉砕して消えた。


馬車の先には、剣を構えた2人の男が神殿を守護する像の様に立っている。面倒だが仕方ない。


「御者さん、馬車を止めて下さい」

「は、はい」


「リスバティはレオナさんを頼む」

「分かった」



どうやら1人は、疾風の剣の副リーダー、マシューさんが引き受けてくれるらしいので、俺は右の男の方へ行く。



「ギルティレッドの人?」

「解ってるね君」


「ダウラギ公爵に頼まれたの?」

「……」


図星か。


「首を突っ込まない方がいい」

「もう遅いでしょ」


「その通り」


男の剣が大地をえぐり、同時にこっちに突っ込んで来る。土魔法が付与されているのか、えぐられた土がストーンバレットになって俺の顔に飛んでくる、目眩ましだ。


その隙に、男の剣が俺の脚を斬っている、と言う訳か。


俺の土の生活魔法「ティル」は畑仕事用で、耕すだけだが、"重ねる"と大地に穴が空く。


俺は自分の作った落とし穴に落ちて、男のストーンバレットと剣は、空を斬る。


「なっ」


目の前の土壁に、また「ティル」を重ね掛けして、今度は男を落とす。後は、男の頭をこん棒で撲るだけだ。


「ぐぇ」



頭の上で声がする。


「兄さん、やるじゃない」


リーダーのデビスさんだ。こん棒を足場にして地上に上がる。カッコ良い上がり方を、考えないとダメだな。


引きずられた男は、服はボロボロで血だらけだ、御愁傷様。



「索敵範囲も俺より広いし、う~ん。そんなスキル有る様に見えないんだけどな」


「ハハ、良く言われます」



生きているギルティレッドの連中は、帝国との国境の街、ボワルセのギルドに引渡す。



この旅では、いつもより高級な宿に泊まる。レオナさんはリスバティと一緒の部屋だ。



1人部屋で考える。ギルティレッドの連中は、この先も襲って来るだろう。ダウラギ公爵は、何をする気だ。


ゲスな貴族がやっている事と、考えそうな事は何だ。父がやっていた事を、重ねて考えて見る。


そもそも王女の襲撃事件さえ怪しい。腐った貴族は、自分の保身と権力に金だ。その為なら殺し、裏切り、策略などはお手の物だ。


ダウラギ公爵だったら、何をしたい?王座が欲しいか?どうやって?


いずれにしても、レオナさんの父上に話を聞いて見ないと。




「おはよう御座います」

「おはよう」


「あの人達は、また襲って来るのでしょうね?」

「だろうね、厄介だ」



朝食をとった後、直ぐに出発をする。そうしないと、次の街に今日中につかないからだ。



馬車は順調に進んで行ったが、昼をとった後に直ぐ問題が起こった。


「なんですかね、あの人だかりは?」

「俺が見てきます」



「すいません、何が有ったんです?」

「ああ、橋が壊れて通れないらしい」


片っ端から聞いたところ、向う岸にこの地の領主がいて、橋の修復をしているらしい。橋が掛かるまで一週間だそうだ。


ここで足留めされた人達は、少し先の空き地にテントを張るそうだ。


「仕方ない、俺達も行くとするか」


デビスさんがパーティーの人達に指示を出す。


かなりの人だ、商人や冒険者、貴族もいる。日にちが経てば、もっと増えるだろう。



野営の準備が一段落した所で、疾風の剣のみんなが来た。


「兄さん、どう思う」

「妨害工作でしょうね」


「だよな」


「この人達の中に、奴らが居るでしょうね」

「そんな所だな」


「全員だったりして」


おちゃらけて、マシューさんが言うが、十分にあり得る。それは、みんな思っている様だ。


「いずれにしても、今夜は危ない。気を付けよう」


「了解」



疾風の剣のパーティーは、バキンスの街のギルドマスターが推薦してくれた人達だ、頼りになる。



夜になり食事が終わると、他の人達はテントに入って行った。それを見届けてから、最後に俺達もテントに入る。



夜になると、虫の声とフクロウの鳴き声が聞こえはじめた。暫くすると、虫の声だけが止む。



「……やはり来たな」


打ち合わせ通り、リスバティはレオナさんに付く。


疾風の剣の人達は、別のテントだが気づいてる。気配で判る。



敵が疾風の剣のテントに、ファイアーボールを撃った。戦いの鐘がなった。



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