第6話 犯罪組織を討伐せよ

 勇者パーティーの子孫、ジェイクスと俺の勝負を観ようと、冒険者達が大勢集まって来る。


くそっ、嫌だな。勝っても面倒な事になりそうだ。しかし、もう遅い。練習用の木剣を構える。


「行くぞ」


速い。初動作がほとんど無い状態で、俺の胸めがけて木剣が飛んできた。


『昇速×3』


奴の突きは俺の残像に刺さる。


「なにっ」


2手目、3手目と木剣で受け流しながら躱すかわす


「おい、あの坊主なかなかやるな」


なぜだ?私の最初の突きで、あいつは血反吐を吐いて床に転がり、もがいているはずなのに。このままでは、いい恥さらしだ。


「何言ってんだお前、あのジェイクスさんが、あんな小僧相手に本気を出す訳がないだろう」


「あっ、そうか。手加減して坊主を指導しているのか」


そ、そうだ。私は指導しているのだ。



ジェイクスの奴の動きが派手になった。どうした?


互いの剣が演舞をする様に交わり、冒険者達から歓声が上がる。


奴に隙が出来た、俺は奴の首を取りに行く。俺の剣は奴の首で止まるが、奴の剣も俺の首で止まった。


「「おおー、すげぇぞ」」


くそっ、これがジェイクスの狙いか。喰えない奴だ。


「ふん、まあまあだな。せいぜい頑張るがいい」




「上手くやられたわね、ミロウク」


「ああ、奴の人気取りに、利用された感じは有るけど、下手に勝って悪目立ちするのは嫌だから、良しとするよ」




「意外だわ、ジェイクス。てっきり、ぶちのめすと思ってた」


「俺達もだぜ」

「私は大人なのさ」


バカども目。お前達の目は、ふし穴か?思ったよりあいつは強かった。……いや、今日は俺は調子が悪かったのだ。でなければ、倒せない訳が無いのだ。あんな羽虫の様な奴など何時でも倒せる。




ーーーー


今回の依頼は、貴族の令嬢ばかりを狙い、拐っていった世界的犯罪組織の支部壊滅と、お嬢様方の救出だ。


賞金のかかった、腕の立つ者も多くいる。それだけに、娘を拐われた貴族から大金が掛けられているので報酬も高い。



世界的犯罪組織、ギルティレッドのアジトは、バキンスの街から北に在るゲンゴウ山の山荘と判っている。



討伐に集まった冒険者は60名だ、俺達、待機組は山荘の周りを固める。


斥候に適して優れた冒険者が、気配を消して建物にとりつき、扉を破壊する。これが攻撃開始の合図になった。


潜入してた冒険者によって、拐われたお嬢様達は2階の部屋と判っているので、ジェイクスのパーティーを先頭に、制圧組の冒険者達が雪崩れ込む。


襲撃に気付いた組織の連中は、抵抗するがジェイクス達と冒険者に討ち取られて行く。


俺達、待機組は、逃走する連中の捕縛に取りかかった。思っていたより抵抗もなく、腕の立つ者は居なかった。


「……」

「どうしたの?」


「何か違和感が有るんだ」



暫くすると、自信満々の顔でジェイクスと山荘に入った冒険者達が、お嬢様達と捕縛した組織の連中を連れてやって来た。


「良くやった、お前達。帰って祝杯だ」

「「「おおー!」」」


ジェイクス達は、麓に置いておいた馬車で帰って行く。



「ミロウク、帰らないの?」

「ピィ、ピピ」


ジュエネは何か感じたか?


「簡単だし、相手が弱すぎる」

「それもそうね。手強いのが居るって言ってた」


山荘の中に入って見る。このザラつく感じ、ダンジョンで隠し部屋を見つけた時と同じ感覚だ。



「隠し部屋が在る」

「えっ」


「ほ~う、よく判ったな」


突き当たりの壁に扉が浮き出て、男と女が出て来た。手配書に有った顔だ。


「知られたからには、生かして置けない」


細身の剣が俺を襲う。


「ミロウク!」


「ダメよ!貴女の相手はワ・タ・シ」

「あら、私と釣り合うのかしら」


「小娘の癖に言うわね」


2対2、男と男、女と女の闘いが始まった。


男の剣筋は変わっている、暗殺剣という感じだ。酷く読みづらい、思いもしない所から飛んでくる。


『昇速×4、身体強化×4』


「不思議ですねぇ。私の剣が、棒切れで何で受けれるんですかね?」


「腕の差だろ」

「言いますね、これでどうです」


『昇速×5』


「バ、バカな。避けれる訳がない。まさか、転移したのか?そんな事が出来る奴は、そうは居ない」


「はい、お返し」


こん棒で、おもいっきり胸を叩く。


「ガハッ」


肋骨の5本はいったな。


リスバティの方は決着がついていた。


「遅かったわね」

「また負けたか。リスバティには、敵わない」


「私の5勝1敗ね」


「き、汚いわよ、小娘」


「貴女が先に私の足を踏んだのよ。もう黙ってて」


「ぐぇ」


「な、何をしたの?」

「気にしないで。それより、中に入りましょう」


リスバティは、会った頃に比べると逞しくなったな。


扉の中に入ると、一人の女性が縛られていた。


「貴女は?」


「私はマゼーレ王国、スオル伯爵の娘でレオナと言います」


「マゼーレ王国の人が、何でこんな遠い所に?」


「父は、この国のダレン男爵と知り合いで、お嬢様の所へ行く途中で襲われたのです」


「ダレン男爵はこの事は?」


「到着予定は3日後ですので、知らないと思います」


「何で、お嬢様だけ隠し部屋にいたのかしら」

「う~ん、考えられるのは、お嬢様が本命?」


「この人達に聞いたら?」

「口は割らないだろうな」


「お父様は、何かの事件に巻き込まれていない?」


「そんな話は……お父様が心配です。お礼は致しますので、私をお父様の所へ連れてって下さい」



「……分かりました。取り合えずギルドに行って、事情を説明しよう」





ギルドに入ると、珍しく1階にギルドマスターがいた。


「何だ、お前達今頃。みんな報酬を貰って飲みに行ったぞ……ん~、そいつらは、冥府剣のマドンとシュワイゾマリーじゃないか。どうなっておる」


「実は……」



ーー


「なるほど、話は解った。良くやったぞ、お前達」


「俺達は、お嬢様を国まで送って行きます」


「うむ。お前達は大物2人を捕まえたのだ。特別報酬と点数30を上乗せだ。気をつけて行ってこい」


「ありがとう御座います」




「やったわね、ミロウク。ジェイクスの奴も悔しがるわよ」


「ふふ、そうだな。レオナお嬢様、出発は明日の昼過ぎになります」


「分かりました。男爵には手紙を書きましたので、心配は有りません」


マゼーレ王国か、ダンジョンの攻略は中止になったが、楽しみだ。


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