第5話 救出

「何処へ行くの?」

「リスバティ!」


「私を見捨てるの?」

「ち、違うよ。そんな事をする訳がない」


「じゃ、なに?朝から変だった。昼間は別れて行動したがるし、私達はパーティーよね?」


うっ、痛い所をズバッとついてくる。目に涙を溜めて、ヤバい、本当の事を話すしか無い。



ーー


「そうだったの、……よかった。見捨てられると思った」


「さっきも言ったけど、俺は絶対にそんな事はしない。信じてくれ」


「うん、じゃ私も行く」

「えっ」


「私が陽動するわ、その隙に助け出して。あっ、あれを貸してよ」


「あれ?」

「見えない物の指輪」


「そうか」


"見えない物の指輪"はアイテムBOXに有った魔道具だ。高位の闇魔法、ディスアピアの効力が有り、姿を透明に出来る。1度使うと30日間は使えなくなるが、気配遮断と併せれば完璧になる。


あの娘達が居る所は、判っている。バラク商会の裏の倉庫だ。



バラク商会の入口で爆発音がする。打ち合わせた通り、リスバティが動いた様だ。野次馬と街の警備兵が来るまでが勝負だ。


俺は感謝祭で使う、龍神のお面をつけ倉庫に入る。騒ぎを聞きつけた見張りの者達がやって来た、冒険者崩れのゴロツキだ。


「何だ、貴様」


答える義理は無い。有無を言わさず、こん棒で殴り付ける。後、3人。


「そんな棒で勝てる訳ないだろう。叩き切ってくれる」


振り下ろされる剣をこん棒で受け止めた。切れないこん棒に唖然としているゴロツキ3人を『トーチ×2』で仕留めて、鍵を奪い奥へ。


「さあ、みんな早く逃げるぞ」


手枷、足枷を外す。よかった、奴隷紋は無い。


「お兄ちゃんなの?」

「そうだ、早くここを出よう」


裏道を通って、下見しておいた河川敷へ、一目散に向かった。




「はぁ、はぁ」「苦しい」


ずっと縛られて、運動していない人達にはきつかったか?


「苦しいのは判るが、これに着替えて」


昼間買っておいた服と靴だ。サイズは、あの娘の映像で大体の物のを用意した。


「川沿いを歩いて行けば、ねこ族の村があるはず。後、これを」


「これは金貨ではありませんか。何で、なんの関係の無い私達の為に?」


「いいんですよ」


関係なくは無い。もしかしたら、父に繋がっているかも知れないのだ。俺が生活してた金も、こう言う人達の上に有るのかも知れない。


「お兄ちゃん、ありがとう」

「元気でね」



ねこ族の女の子かな?耳がモコモコで可愛かったな。


良し、後は宿に戻ればいい。いつもより入念に気配遮断を重ね掛けして宿に戻った。


部屋に入るとリスバティがいた。


「お帰り」

「うん」


リスバティが俺を抱き締める。甘くていい匂いがした。




バキンスの街に行く馬車が、バラク商会の前を通るので、眺めて進む。いや、在ったと言うべきか。


「派手にやったね」

「えへへ」


リスバティとの絆も強くなったし、言う事なしだ。




俺達が行くダンジョンは、バキンスの街から離れているが、ダンジョンの収益はレビンズ王国の財政の3割を占めている為、国も力を入れていて、ダンジョンの直ぐ傍に冒険者用の街、ガゼコの街を造り、決まった時間にたくさんの馬車を往復させている。


そしてギルドも、バキンスとガゼコにそれぞれ有る。


「ここではレベルを上げよう」

「分かった」


なるほど、凄い。街には何でも有った。歓楽街も有り華やかだ。冒険者達はダンジョンで稼いで、ここで金を落として行くのだろう。


頑丈な防壁が二重になっていて、そこを抜けるとダンジョンに着く。


初めてのダンジョンだ、わくわくする。道具屋で、地図やダンジョンの外に出る為の巻物などを買って中に入る。



「ピピィ」


小鳥のジュエネは、朝から留守番は嫌だとばかりに、ピィピィ鳴くので、リスバティのバッグに枠を入れて、潰れないような所に入っている。


「この辺の浅い階は、楽勝だね」

「そうだけどレベルが上がらないわ」


ゴブリンとシルバーウルフ、オークしかまだ出てこないので、他の冒険者もサクサク進んで行く。


様子が変わって来たのは地下5階からだ、アンデッドの階らしい。ザコのスケルトンから始まり、スケルトンウォーリア、リビンデッド、グールが出て来た。


とは言っても、俺もリスバティも光属性が有るので、低レベルの光魔法ホーリースピアで軽く倒せる。



地下5・6・7階を終えて8階に降りる。地図で見ると、2つ目の二股は左の道が正しい道で、右側は行き止まりとなっている。


しかし俺には、奥に部屋が在りその先に道が有ると感じる。


「どうしたの?」


「地図には載っていないが、隠し部屋が在ってその先に進める気がする」


「そうなんだ、行くの?」

「う~ん」


隠し部屋はどんな魔物が出るか判らない、兇悪な罠と言う事も有る。あの紫色のクリスタルのお陰で、スキルも増え、自信も付いたが…………。


「ピピピッ、ピピピッ」


ジュエネも、行くなと言っている気がするな。


長い年月の中で、今まで発見されてなかったんだ。簡単な訳がないか。


「止めておこう。俺達には、まだ早い気がする」

「そうね、楽しみは取っておきましょう」


「違いない」


この日は地下9階まで行って、帰る事にした。ギルドに戻ると、依頼掲示板の前に人が集まっている。


みんなが見ているのは、盗賊討伐の緊急募集だ。獲得点数も50と高い。ランクアップするには規定の点数も必要で、特にDからCに上がる為には1000点と高く、この50点は破格と言える。


「D以上か、受けたいがきつそうだな」

「やりましょうよ」


「これだけ点数が高いんだ、ただの討伐じゃないよ」


「私達なら大丈夫よ」


何処から来る?その自信。隠し部屋はお預けだったし、やって見るか。


「分かった」

「頑張りましょう」



「あら、この前のボクじゃない?」


ん、誰だ?


「お嬢ちゃん。まだ、そんな男といるのかい?」


勇者パーティーの子孫、ジェイクスって奴だ。ここに来てたのか。リスバティの肩に手を回そうとする。


俺は奴の手を掴んだ。


「止めてくれないか」

「私に汚い手で触らないで貰いたい」


「くっ」


「ふん、お前も討伐に参加するのか?私が指揮を取るのだ、足を引っ張られては困る。どれ、腕を見てやろう。修練場に来たまえ」



目立ちたくは無いが、こんな奴に負けたくも無い。面倒な事になった。


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