第4話 ラズリィ村の戦い
小鳥を送り出してから2日が経った。村の人達には事情を説明して、森の在る村の裏には土魔法と植物で固めた壁を造った。
昼が過ぎた頃、黒い塊が近付いて来るのを感じた。そして、やぐらで見張っていた村人が転げ落ちて来る。
「た、た……来た」
急いでやぐらに登る。オークの集団が森の中から防壁に向かって進んで来ている。
応援は間に合わなかったか。
「戦える者は、他のやぐらに登って攻撃の準備をしてくれ」
「は、はい」
「リスバティ、やるぞ」
「分かったわ」
その時、小鳥がリスバティの肩にとまった。足に手紙は無い。
「応援来てくれるのかしら?」
「わからん」
防壁の近くに来れば、やぐらの方が高いので攻撃が出来る。
オーク達は防壁に迫って来た、攻撃を仕掛けようとした時、奴らの動きが止まった。
「ん、……どうしたんだ?」
何か有るのか、怯えている。周りを見るが、特に何も無い。しかし、絶好のチャンスだ。
「みんな、この機会を逃すな!」
「「お、おう」」
狩人のスキルを持つ若者は、用意していた大型のクロスボウで、オークを射ていく。
俺とリスバティは、成長したとは言え、まだ広域魔法は使えない。1頭ずつ狙い撃ちだ。
「ダークバレット!」
「ダークバレット!」
「ダークバレット!」
「ダークバレット!」
『トーチ×3』『トーチ×3』『トーチ×3』
オーク達は弾け飛び、倒れていく。このままの状態なら、戦いは楽だ。しかし、そうはならなかった。
オークの集団の後方から、雄叫びが上がった。するとオーク達は我を取り戻し、防壁に登り破壊し始める。
「くそっ、やっぱり上位種がいるな」
「もう少し、止まってて欲しかったわ」
倒せたのは1/3程度か、後、70頭はいる。
早く広域魔法に代わる物を、考えないとダメだな。
防壁は、かなり頑丈に造ったが崩されて来た、越えて来る奴らを撃ち潰していくが間に合わない。
今まで有った、木の柵に向かってくる。不味い、リスバティも頑張ってはいるが、追いつかない。オークの数が多すぎる。
広域魔法を考えておけばよかったか。俺には生活魔法しか無いもんな。……確か冷気属性ってのが有ったよな、え~い、ままよ。使い方が解らないが、冷たくなる魔法だろ、俺は手を前に出した。
冷たくなるのをイメージして、生活魔法で水を出す要領で魔力を練る。…………何も起こらない。糞。万事休す。オーク達はそこまで迫っている。
「ピィ!」
オークが柵を越え、やぐらに取りつく直前、俺の手から風の渦が発生した。それはただの風ではなかった。
キラキラ輝り出し触れた者は氷つき、次の瞬間には粉々に砕け散った。
助かった。いや違う、砕けた同胞を踏みつけ現れたのはハイオークだった。
「ハイオーク!ミロウク気を付けて」
「くうっ」
冷気の魔法で、魔力をほとんど持って行かれた様だ。フラフラする。残った魔力でこん棒を強化し、身体強化を重ねて構える。
ハイオークは、俺を見つけるとニヤッっと笑い、やぐらの上にいる俺に目掛けて剣を振りかぶりながら飛んだ、そのまま俺を斬るつもりらしい。
良かった。上位種と言っても大した事が無い。足場の無い空中にいる間は奴の動きも限定される。
ハイオークの剣の軌道から右に身体を捌いて、僅かに飛びながら奴の顔面にこん棒を、渾身の力を込めて叩き込む。
奴の顔は口から上が無くなり、血を吹きながら脳漿や肉片が飛び散った。
「ミロウクさん、冒険者の方々が」
「お前達、良くやった。後は俺達に任せろ」
ああ、任せる。遅いよ、まったく。
ーーーー
パテイラの街に戻った俺達は、今回の件で審査を受けずにDランクに上げてもらえた。
これで次の目標はダンジョンの在る、レビンズ王国のバキンスの街に行く事だ。
バキンス行きの馬車が出るまでの三日間、オーク戦の教訓を活かし、広域魔法の練習をしているのだが、あれ依頼、冷気の風は出せない。仕方ないので、別の方法を考え中だ。
リスバティの方は、闇属性魔法レベルが4まで上がり、もう1つアップで広域魔法が使える様になる。
魔法レベルは各属性に1~10まで有り、使える魔法が変わって来る。
おっと、自分の事を考えねば。例えば、生活魔法を範囲指定したらどうだ?ここから、ここまでをトーチで燃やせ。見たいな。
草原に20m四方の部屋が有るとして、トーチを唱える。
上空に無数の"トーチ"、火の玉が浮かぶ。今は夜では無いので、明るさは判りづらいが範囲指定は成功したようだ。
後は重ねればいい。一連の流れとしてやって見る。
『トーチ×10』
[ゴフォーン!]轟音と共に、草原に大きな穴が空いた。
「なっ」
「凄いわね。ミロウク」
ーー
「どうやら、新しい仲間が増えたようだね」
「ピピィ」
「でも、何て言う鳥かしら?」
「確かに、あまり見たこと無いね」
「私達の恩人だから、そんな事どうでも良いわ」
「名前は?」
「そうねえ、シュエネでどう。古代魔族語で美しい、と言う意味よ」
「ピィピ」
「気に行ったようだね」
馬車に乗ってパテイラの街を出る時、リスバティの肩にあの鳥が乗って来たのだ。テイムしたのだから当然か。
暫くは街や村は無いので、夜営をしなくてはならない。馬車には、護衛の冒険者が付いている。
護衛の冒険者達は、襲撃された時に不利にならない場所を探し準備をする。
その時、胡散臭い集団が近付いて来た。
「私達は、この地の領主である、ゲズェウル伯爵の御用商人である、その場所を譲って頂きたい」
「ちっ、仕方ない」
ゲズェウル伯爵と言えば確か、父と交流のある人物だ。どうせ、ろくな商売はしていないだろう。
場所を譲り、食事を取り魔道具で結界を張って、見張りを残し、就寝だ。
暫くすると、俺の頭の中で声がする。
『お兄ちゃん、助けて』
何だ、念話か?
『ここにいる人達は、みんな拐われて来たの』
非合法の奴隷か。この世界では、犯罪奴隷、借金奴隷、戦争による捕虜奴隷しか認めていない。
それにしても凄いスキルだ、映像まで見える。この親子は獣人で、エルフの親子に蜥蜴族の親子までいる。
助けてやりたいが、今は無理だ。俺だと直ぐにバレてしまう。
『話しは分かったが、今は無理だ。どこに行くって言っていた?』
『レビンズ王国の王都だって』
バキンスの街の2つ手前だ。方向が一緒なら何とかなるな。
「王都まで我慢できる?」
「うん、頑張る」
念話が終わった後、考える。俺はこんな正義感があって、人助けをするような性格だっけ?
答えは判っている。病気だった母に、ろくな治療もしてくれなかった、父に対する憎しみからだ。
勇者の子孫に会って貴族のいやらしさを思いだした俺はムカついていた。そして父に関係の有る貴族が弱い者達に、舐めた事をしているのだ。ふざけるな。
王都に着いて夜になると、俺は宿を抜け出した。
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