お嬢様がだべるだけ その8
「後藤君。
これ。例の回覧板」
「ありがとう。高橋。
しかし面倒なものだからさっさと無くしてくれればいいのに」
珍しい組み合わせを見た。
上のやり取り、高橋鑑子さんと光也くんのやり取りである。
そうなると興味が出てくるというのが人というもので。
「え?二人ってどういう関係?」
と私が聞いてみたら、二人はあっさりとその関係をばらす。
種も仕掛けもあるものだった。
「これ、苗木会の回覧板」
「苗木会は他の派閥みたいに事務所を持っていないからな」
華族の雲客会や財閥系の競道会はある意味生まれながらの地位故に必然的に派閥が形成されていった。
政治家系の緑政会も二世議員・三世議員の存在で派閥化が進んだが、彼らは選挙と言う関門にハンデつきではあるが挑まないといけないという選別がある。
で、それ以上に選別があるのがこの官僚系の苗木会で、その本質は同窓会が逆説的に派閥化したというものだったりする。
「要するに、官僚たちが子供を使って非公式の話を流すネットワークの一つなんだ」
財務閥の光也くんがあっさりと種明かしをする。
それゆえに結束力がなくて、ゲームでは主人公の小鳥遊瑞穂の切り崩しに真っ先にあうだけの理由はあったりする訳だ。
「鑑子さん、苗木会だったの?」
「だったみたい。まぁ、こうやって時々回覧板を回すぐらいだけどね」
鑑子さんのお父さんはたしか県警本部長……ああ。警察のキャリア官僚じゃないか。
本人の剣道少女属性が前に出ていたから、見事にそのあたり忘れていた。
なお、戦前から警察こと内務省と大蔵省の仲は悪い。
それを踏まえて非公式に子供まで使って回さないといけない情報って何だろうと首を傾げたら、光也くんが苦笑して中身を教えてくれた。
「お前と帝亜と泉川が奔走している食券だよ。
財務も警察も慌てている」
「あれね……」
呻く私にきょとんとする鑑子さんがわかっていないからこそ尋ねる。
その彼女のわからなさが今は羨ましい。
「これ、やばいの?」
「高橋。こんな子供を使って敵対省庁の人間に情報を流す時点でやばいものだって気づけ」
「普通の学生はそんなの気づかないわよ。
後藤君や桂華院さんが普通から外れているのよ」
「「くっ……」」
鑑子さんの指摘に同時に苦虫を噛み潰したような顔をする私と光也くん。
まったくその通りだから、言い返す事もできない二人に鑑子さんが追い打ちをかける。
「すっごい疑問なんだけど、何でこういう難しい問題を大人に任せてしまわないの?」
まったくもってその通りな追い打ちに私は頭を抱えるが、光也くんはあっさりと鑑子さんに言う。
「そりゃこいつが一人大人になって突っ走っているからだ。
俺たちもかっこいい所見せたいからな」
「……そういうの、私の居ない所で言った方が良かったんじゃない?」
鑑子さんの気づかいに私は顔を覆うしかなかった。
なお、それでも光也くんの容赦ないぶっちゃけは続く。
「いやこいつ、多分色恋とかしている時間はないとか考えているぞ」
「光也くん。一度私の認識を確認したいんだけど……?」
さすがに笑顔で圧をかけても光也くんは容赦ないカウンターをかましてくれた。
なお、そのカウンターの事を自業自得という。
「いや。深夜水着でゲームやっているお前を見るとな」
「すいませんでした」
降伏して土下座をする私。
いや、あれは写真家の石川先生が悪い。そういう事にしてくれ。
「あの先生。警察でも有名だから」
「え?そうなの??」
鑑子さんの合いの手に話をそらしたい私が乗ると、鑑子さんが多分警察側の話としての石川先生の話をしてくれる。
「その手の写真を撮影していたから、警察側も逮捕したがっていたんだけど、華族のパトロンが居たとかでついにお縄にできなかったんだって」
「うちじゃないわよ……ね?」
私の後ろで控えていた橘由香に確認すると、彼女は無言で首を横に振った。
彼女の祖父である橘隆二は私の執事の前は桂華院家のフィクサーとして色々やばい事をしていたから、多分嘘は言っていないだろう。
「じゃあ、何で桂華院さんは深夜番組で水着を着てゲームなんてしているの?」
「そりゃまあその色々としがらみとかストレス発散とか、大人の事情というものがありまして……」
「だから私達、まだ中学生なんだって!」
鑑子さんのツッコミが容赦ない。
額に汗を浮かべて光也くんに助けを求めたら目をそらして見捨てやがるし、だったらと橘由香に視線を向けて助けを求めたら、さすが控えていただけあってフォローの為に口を開いてくれた。
「高橋様。
サメと戦おうが、バス芸人としてやられた顔を見せようが、あの先生の口車にのせられてヌードモデルになろうが、テロリスト相手に突っ込んで行かれる方よりましなのでございます」
「……」
「……」
「……」
「ほっんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉに、すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!」
天下の桂華院公爵家令嬢の土下座はとても安い。
ちょうどこんな感じで三人にするぐらいに。
なお、この話をメイドのエヴァにして愚痴った所、
「国を持たないなら、適度にスキャンダルを流してそのカリスマ性を落とさないといけません。
できるならば今すぐに。
お嬢様の裸一つでカリスマ性を落とせるならば、外圧でこの国の法律すら変えましょうか?」
なんて真顔で言われる始末。
そんな彼女の雇い主である米国はこの年秋の南イラク独立に向けて、統治機構のというか誰を頭にするかで揉めに揉めており、真剣に私にこの国を与える話が出ていたという話をこの時知る事になる。
────────────────────────────────
裸一つでカリスマが落ちるならそれはそれで生存戦略としてありだったりする。
なお、一番いいのは幕府の警戒を鼻毛を伸ばしてうつけを演じた前田利常なのだが、さすがにお嬢様に鼻毛はという訳で。
なお、これが許されなくなったのは、活動報告でも書いたが〇〇〇でピアノを弾く某国大統領のせいであり、先の未来よりも『元首とは?』『カリスマとは?』でそのあたりの価値観がアップデートされたのが作者的には一番痛かったりする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます