お嬢様がだべるだけ その4
「和弥お兄様。
確認しておきたいのですが、この話は岩崎の何処から出てきたのでしょうか?」
岩崎財閥は日本屈指の巨大財閥で、一族だけでなくその企業御三家と呼ばれる岩崎重工・岩崎商事・帝都岩崎銀行にもそれぞれの立場があり派閥がある。
薫さんの確認は、帝都岩崎銀行派の薫さんからすれば、岩崎一族からの話なのか、それとも岩崎企業御三家の岩崎商事と岩崎重工のどちらかから出たのかを確認しなければならないぐらいやばい話という事を意味する。
「和弥お兄様は岩崎家分家筋なのですが、家は重工なのですよ」
ここに来る前の薫さんの説明を思い出す。
重要なのは『家』と『会社』だ。
私を例にすると分かりやすい。
桂華院公爵家の公爵令嬢ではあるが血は本家から外れており、現在の桂華グループ主要企業は私の支配下にある。
それを薫さんの説明に当てはめれば、桂華院家分家筋で家が……銀行?商会?鉄道???
いかん話がそれた。
「どっちだと思う?」
「和弥お兄様。
質問に質問で返さないでください」
「強いて言うならば、岩崎商事の方かしら?」
二人のじゃれあいに私が口を挟み、岩崎和弥会長が面白そうな視線を私に向けた。
淀屋橋紗良副会長と二木織莉子会計も興味深そうな視線を私に合わせる。
数年後、こんな人たち相手にゲームをしなければならないのかと思う反面、私が破滅して消えたのはこの人たちも絡んだのではと疑うのを隠しつつ私は口を開く。
「うち、岩崎とは本家で縁がありまして。
薫さんとの縁もありますが、本家は岩崎化学と繋がりがあるんですよ。
で、こういう話を薫さんのお爺様が伏せていたとしても、本家側から情報が流れなかったという事は重工側は掴んでいないのかなと」
岩崎財閥は国家と共にを旗印に、重工が物を作り、商事がそれを売り、売った金を銀行が回収し重工や商事に流す事で発展してきた。
大まかな方向は一致するが、国まで絡む巨大財閥である岩崎財閥ともなれば、それが一枚岩であるはずがない。
事実、桂華院公爵家と朝霧侯爵家の婚姻を利用して、岩崎側は桂華グループを呑み込もうとした過去がある。
薫さんが信用できるとはいえ、帝都岩崎銀行閥ではない岩崎重工閥と岩崎商事閥を信用する訳にはいかなかった。
「さすが桂華院さん。見事な推理だ。
これは商事側が掴んで重工が確認をとった案件だ。
発覚したのは……これだよ」
岩崎和弥会長がテーブルの上にあるものを置き、私たちはそれを見て目が点になった。
栄一くんと薫さんは理解が追いついていないし、私はもう昔となった一条の授業を思い出す。
「岩崎重工が発給している食堂の食券。
こいつの運営は岩崎商事の子会社がしていたんだが、広島市や下関市、長崎市や倉敷市、神戸市や延岡市や名古屋市、四日市市や北海道で流通し始めている。
その意味が分かるかい?」
なお、今あげた町は岩崎の企業城下町がある場所である。
仲良く首をひねる栄一くんと薫さんに対して、私は頭を抱えるのを我慢してテーブルに出されていたプリンを口にしつつ答えた。
おいしい。
「……兌換紙幣の地域通貨としてですね。
持ち込んだのは樺太から来た労働者あたりでしょうか?」
岩崎和弥会長と淀屋橋紗良副会長と二木織莉子会計の三人が正解とばかりににっこりと微笑み、栄一くんと薫さんはなお混乱している。
「え?何でお金に変えないんだ???」
「だ っ て お 金 が 信 用 で き な い ん で す も の」
私の一字一句区切った言葉に完全に絶句する栄一くんと薫さん。
そりゃそうだ。資本主義国家であり、通貨を利用すれば物が買える事が当たり前の国に住んでいる二人ならば、まず通貨が信用できないという前提がおかしいのだ。
彼ら旧東側の人間にとって『全てが交換できる』通貨なんて嘘である事が日常で、『食事と交換できる』食券の方が食事が出るだけ信用ができるという訳で。
「で、それがどうして第三セクターに絡むんですか?」
なんとかおちついた栄一くんが質問すると、二木織莉子会計も苦い顔で説明する。
多分あの三人も最初聞いた時は頭を抱えたんだろうなぁ。
「まず大前提として、樺太は超階級社会なの。
帝都岩崎銀行に口座を作れる人やケーカを持てる人は半分から上の層の人って考えて頂戴。
で、半分から下の層は統合時の樺太銀行国有化で決定的不信が発生して、通貨を使わなくなったの」
「決定的不信って何をやったんですの?」
既に顔が引いている薫さんに淀屋橋紗良副会長が強烈なパワーワードを連続で叩きつける。
そりゃあ通貨不信になるわ。
「預金封鎖と日本円への切り替え」
つまり、お金が引き出せなくなり、今まで使っていた旧北日本政府の紙幣は価値を切り捨てられて日本円に切り替えられた。
その経済ダメージは弱者にとって致命傷に等しい。
それでも彼らは生きるために財を、信用できる財を探し、目についたのが生きる上で必要な食事が出る食券だったという訳だ。
「食券がある種の地域通貨になったのは正直な所それほど問題はない。
食券には期限があるからね。
岩崎財閥の城下町群でこの食券が広がったとしても、その城下町の工場で食事を提供すれば問題はなかった。
問題はね、城下町だから影響力は自治体にも行くし、その自治体がこいつを見つけてろくでもない使い道を思いついた事なんだ」
岩崎和弥会長は淡々と語る。
そのやばさに気づいているのか、理解を拒んでいるのかこちらは分からないが、私は気づいたうえで聞かなかった事にしたかった。本当に。
「城下町の自治体が第三セクターを利用して、食券を大量発行しようとしたんだ。
工場がある所は開発公社という形で第三セクターが絡む事が多いから無下にもできないし、発行額はどうみても実質的なコマーシャルペーパーだ。
かくして、商事から重工に話が行き、ひそかに調べてという訳だ」
岩崎和弥会長の説明に頭を抱える私たち三人。
なお、これに追い打ちが待っていた事を淀屋橋紗良副会長と二木織莉子会計の言葉で知る事になる。
「でね。既に期限切れの未使用食券を誰かがかき集めているのよ。
『買ったけど、使えませんでした』って損が計上できるでしょう?」
「不思議なことに、樺太銀行がああなったからマネーロンダリング資金って滞留しているのよ。
これに目をつけられたらもう私たちじゃ止められなくなるから……ね」
あはははは。
もうどうにでもなぁれ♪
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このあたりは少し本の加筆で触れている。
気になる人は買ってねとダイレクトマーケティング。
お金の信用
これ、私の実体験で、90年代後半のそっちからの留学生がお金をガチで驚いたのを覚えている。
いやーリアルパイセンってすごいよねー
見た時ガチで発狂したよ。うん。
ロシア、金本位制復帰検討 実現なら1世紀ぶり:時事ドットコム https://www.jiji.com/jc/article?k=2022043000095&g=int @jijicomより
岩崎城下町
このからくり考えたのは、山を崩して海を埋め立てて株式会社と呼ばれて阪神大震災で大ダメージを負った某自治体という設定。
不思議なことに、その街日本最大のヤのつく自由業の本……うわなにをするやめr
預金封鎖と日本円切り替え
そんな素敵なパワーワード二連荘をやらかしてなお経済大国になり上がった極東の島国があるんですって。
コマーシャルペーパー
wikiぺたり
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%8B%E5%BD%A2%E5%89%B2%E5%BC%95#%E3%82%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC
なお、本当に近いのは『カードではなくてお金を刷っている』と言ったとか言わなかったとか言われている某遊戯王を始めとするカードゲームである。
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