湾岸カーレース 準備編
「という訳でお嬢様。金とコネを出してください」
ゲーム番組の撮影に来たのにたかられる私はまだ無駄に水着姿である。
どうせパーカーで隠すのだが、このスポーツ局長の物言いにもなれてきた今日この頃。
なお、今日のゲームは超名作RPGのリメイクで、どっちを嫁にするか考えなければいけないあたりである。
「レースしたいんだっけ?
案はまとまったの?」
「ええ。最初なのでまずは実績をという事で。
お台場からスタートして臨海副都心ICから湾岸線に入り大黒PAで折り返して、またお台場に戻るという高速湾岸線を利用したコースになります。
このコースが一周大体52kmで4周してもらい、ドライバー2人体制で一周ごとに交代してもらいます」
差し出された資料を見て私は口を開く。
湾岸開発は私も一枚かんでいるので、それを盛り上げる目的のイベントは利がない訳ではないのがまた困る。
ついでに言うと、このイベント絶対こいつの趣味だと分かるのがさらに困る。
「コースのほとんどが高速湾岸線で、規制をかけても影響が出ないように深夜帯に行うか」
「裏事情として、食いつきがいい欧米側に生放送が高く売れる時間帯という訳でして」
カーレースの本場である欧米との時差は8時間から13時間である。
規制の影響を抑えるための深夜1時スタートは、ある意味メイン層である欧米の放映時間帯とは相性が良かった。
もちろん、海外放送は富嶽テレビに経営参加しているアヴァロン・アトランティックが欧州で、ガーファ・コーポレーションが北米で独占生放送をするのは言うまでもない。
こいつの狡猾な所は、桂華グループが後ろに着いたように見せてレースを行うというはったりを方々に吹いて回った所にある。
賛同や批判を捌きながらレースの仕組みを組み立てるあたり、傲慢ではあるが馬鹿ではないテレビマンらしいというかなんというか。
「……レースカーにナンバーつけるの?」
「警察との話し合いでそこは譲ってもらえなくて……というのは建前で、本音はこれがレギュレーションの肝なんですよ」
レース場を走るレースカーにナンバーとはという気持ちで私が尋ねたが、実に楽しそうに局長が説明する。
絶対人生楽しいだろうな。こいつ。
レースにはレギュレーション、つまり規則が必要だ。
この大本をナンバーをつける、つまり日本の公道を走れる車という所に置いた事で、日本で車を売るメーカーは全て参加できるという訳だ。
勝って名を売れば、日本での売り上げに良いPRとなるだろう。
その勝つのがまた難しいのがレースというものでもあるのだが。
「この手のレースはレギュレーション規定に政治力が絡みます。
日本のスポーツはこのレギュレーション規定の政治力で何度涙を呑んだ事か。
だからこそ、最初だけは平等なんですよ。おまけにそのレギュレーションを外部に任せているから外から口出しもできません」
ナンバーをつけるという事は車検を受けるという事である。
それだけゆえに奥が深く、有利不利を左右するレギュレーションの介入が発生しない。
局長の口調もノリノリである。
「ナンバーをつけるという事は、公道を走れるという事です。
『公道最速は誰だ?』をキャッチフレーズにしようかと」
「峠道を走っている訳じゃないんだからさぁ……」
そのコミック私も読んだけど、思わずツッコミが口から出る。
その内峠レースとかもやりそうだから怖い。
「レースは来年の正月あたりを目途に進めています。
既に国内大手メーカー三社は乗り気で、海外メーカーもワークスチーム派遣のプロジェクトを立ち上げています。
後は国内規制を特区法でごまかして、初期資金を頂けるならば成功させて見せましょうとも」
そこまでお膳立てして水に流れましただと私に恨みが来かねない。
どうせ乗りかかった船である、一応資金の所を確認するとつつましく十億円とあった。
「えらく少ないわね」
「金は外国の方が出すんですよ。
独占放送権が買えるなら、これでも安いそうで」
なお、アヴァロン・アトランティックとガーファ・コーポレーションはそれぞれ百億円供出していた。
コース整備から復元、更に諸費用と放送用に深夜だからヘリではなく飛行船まで飛ばすという力の入れよう。
この頃から、コンテンツそのものの囲い込みがメディア間で熾烈になる。
オリンピックやサッカーのワールドカップが良い例である。
「元々、東京の高速はそれだけで魅力ですからね。
そこを舞台としたカーレース。
自動車大国日本のメーカーがレース場でなく公道でどれが最強なのかを競う。
海外メーカーだって黙って見ている訳がありません。
物語はいくらでもあります。それを売る手段もあります。
で、お嬢様まで絡めば、数百億ですら安くなりますよ」
なんとなくこの局長のスタイルが見えてきた。
お祭り屋であり、イベントを始める事が大事で、維持・発展は気にしないタイプだ。
なんでそんな事が言えるかというと、私が出す費用の額で分かる。
金を出すという事は口を出す事であり、必然的に金を出す人間が発言権は強くなる。
外資系メディア企業二社がコンテンツ欲しさに百億ずつ出すのならば、富嶽テレビもそれぐらいは出さないといけないのだが、富嶽放送を巡る一連のTOB合戦でそんな資金余裕がある訳もなく。
私に出させればいいのにそれを十億に抑えたという事は、初回以降の主導権を握る気がない事を意味している。
もしくは、このイベントが一回限りと割り切っているか。
このノリが富嶽テレビであり、私はそんなノリが嫌いではなかった。
「いいわよ。
その代わり、絶対に成功させなさい」
「かしこまりました。お嬢様」
なお、このレースに国内外のメーカーが殺到する未来を私はまだ知らない。
ついでに言うと、いつの間にかレースクイーンとして出る事になっている事もまだ知らない。
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ノリはゲームの『グランツーリスモ』をリアルでやろうである。
超名作RPGのリメイク
『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』スクウェア・エニックス 2004年 PS2版
私はビアンカ派ではあるが、ジャミ様の薄い本はとてもお世話になりました。
公道最速 峠レース
『頭文字D』(しげの秀一 ヤンマガKC)
丁度筑波あたりの話である。
なお、『湾岸MIDNIGHT』は友也編あたり。
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