占い師 Meets 占い師
「桂華院さん。
少しいいかしら?」
「何?神奈さん?」
放課後のそんな会話からこの話は始まる。
ごく普通の会話なのだが、興味を惹かれるワードがあったからだ。
「今日、神社の方にうちの関係者が遊びに来るのよ。
あの神社監視カメラとかあるから、一応来た人間の説明をしておこうと思って」
「ああ。そういう事。いいわ。
何か聞かれたらそう答えてお……く。
遊びに?あの神社に?」
作った本人が言うのもなんだが、祭られているお方がいる場所なのであまり遊びにと言うのはどうかと思うのだがと顔で語ったら、神奈水樹は苦笑してさらに爆弾を投げつける。
「大丈夫だと思うわよ。
私もいるし、一応妹弟子だし」
「妹弟子!?」
忘れてはいけない。
私と同じナイスバディではあるが、こいつこと神奈水樹は私と同じ中学二年生である。
で、そんな小娘につく妹弟子とはと興味がないと言えば嘘になる。
そして、たまたまなのだが、今日は暇だった。
「さがらえりです!
よろしくおねがいします!!」
元気なお子様の挨拶が神社に響く。
彼女を見に来た暇人こと私と明日香ちゃんが神奈水樹の方を見て『説明』と目で語る中、ここの巫女でもある蛍ちゃんが相良絵梨と名乗った女の子からお供え物のお稲荷を受け取っていた。
「うち、相模原市の山の方に別荘があってね。
お師匠さまが時々過ごしているんだけど、そこで妖精にさらわれかけてた所を助けたのよ」
「居たんだ。妖精」
社務所に入ってお茶をしながらの雑談時に、神奈水樹が説明する。
なお、そのお子様はあっさりと蛍ちゃんになついているのだが、時折蛍ちゃんの後ろに視線がいくのは……見なかった事にしよう。うん。
「お師匠さま元は海外の人らしくてね。お師匠さまが言う妖精ってこっちでは妖怪とか神様って翻訳すればいいと思う」
途端にファンタジーがオカルトになるから言葉ってのは怖い。
私と明日香ちゃんがなんとも言えない顔になったのを見た神奈水樹が苦笑して続きを口にした。
「まぁ、開法院さんと仲良くなっているのを見ればわかると思うんだけど、子供の時ってそういう力が一番強いのよ。
このままだと攫われかねないからって、お師匠さまがここに連れてこさせたって訳。
ほら。ここ。居るし」
お参りというのは人が加護を得る代わりに神に信仰を捧げる契約とも言える。
つまり、何か悪さをする物の怪に神様が『うちの信者に何しとんのじゃ!』と文句が言える訳で。
そういう言い方だとえらく俗物的だが、人が絡む以上人のロジックがある程度通用する事もあるのがこの界隈なのだと神奈水樹は語る。
「で、『貴方も一人前になったんだから、そろそろ弟子でも取りなさい』と押し付けられたのよ」
「え?その歳で一人前?」
明日香ちゃんの驚きに神奈水樹は実にわざとらしく肩をすくめる。
この手の力は文字通り才能一本勝負なので、何時が一人前なのか分からない。
もちろん、努力や経験でなんとかなる部分もあるが、ある意味純粋な生命力が勝負を決めるこのオカルトにおいて神に最も近い子供が一番強く、そこから力が失われていく以上、一人前となるのがは早いのは仕方ないのかもしれない。
なお、その結果社会に適応できずに消えていったそっち系の人間は結構いる訳で、そういう人たちが転じて物の怪になったりもするから人の世というのは複雑怪奇である。
「桂華院さんのおかげもありまして、いつの間にか一人前になってしまいました。
新宿ジオフロントが決定打だったらしくて」
「本当に申し訳ございませんでした」
それを持ち出されたら土下座をするしかない私に実に厭味ったらしく言う神奈水樹だが、新宿ジオフロントという新しき人の地の霊的管理権限が彼女に全部任されていると言えば私の土下座もわかろうというもの。
なお、秋葉原ジオフロントや湾岸再開発に伴う埋立地の霊的管理もいずれは彼女に任せる事になるらしく、この業界の人手不足は世紀末オカルトブームの終焉と相まって決定的なまでになっていた。
順調に行けば、このちびっ子が数年後神奈の名前を名乗ってオカルト事件に関わる事になるのだろう。多分。
そんな感じで、私と相良絵梨との顔合わせは終わった。
「わたし、ほたるおねーちゃんみたいなおきつねさま、かいたい!」
神奈水樹に手を引っ張られて帰るちびっ子の声が私たちに聞こえる。
そのまま私と明日香ちゃんは蛍ちゃんの方を見る。
「お狐様?」
「明日香ちゃん。
触らぬ神に祟りなし。見なかった事にしよう」
「うん」
私たちのぶっちゃけトークも蛍ちゃんはニコニコして聞いていたのは言うまでもない。
後日談だが、うちの連中が万一を考えて相良絵梨の事を調べたらしいが、ごく普通の家庭だったという事で問題なしと処理された。
この元気はつらつなちびっ子はあの神奈の弟子となって桂華院家が探ったという事で、そっちの筋からの人気大爆発となって神奈水樹が私にクレームを言うという案件が発生し、私が土下座した事を記しておく。
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