お嬢様が馬主になるそうです ケイカプレビュー 端午ステークス
「端午ステークス?」
岡崎が持ってきたケイカプレビューの次走に私は首をかしげる。
知識がそれほどない私は、まずそのレース自体を知らないからだ。
もちろん岡崎はそのレースのデータを用意していた。
「端午ステークス。
5/1京都競馬場で行われるオープンレースでダート1800メートル。
京都に見に行くのはちょっと避けていただきたいとメイドさんから睨まれていますがね」
そのメイドであるエヴァとアニーシャがとてもきつい目で岡崎を睨んでいるのだが、岡崎の顔はいつものように気が抜けていた。
なお、新宿ジオフロント記念式典があるので裏では色々動いているらしく、『このゴールデンウィーク中はできれば外出を控えてほしい』とお願いされたばかりのこれである。
メイド二人の視線がきついのも分かろうというもの。
「まぁ、行くかどうかは置いておいて。
距離きつくない?」
たしか1800メートルと言えば、前に四着だった伏竜ステークスがこの距離である。
あの時は最終コーナーで力尽きて抜かれたのだ。
そんな事を考えていたのを見抜いた岡崎が、その理由を口にした。
「これは調教師側からの意見なんですが、ケイカプレビューをジャパンダートダービーに出したいみたいなんですよ」
そう言ってジャパンダートダービーの資料を私に手渡す。
名前の通りダートレースの一番を決める大レースなのだが、こいつの距離の所で私の視線が止まる。
大井競馬場。ダート2000メートル。
「走れるの?」
「それを確認したいらしいんですよ。
ジャパンダートダービーの開催日が7月8日。
で、その前哨戦の一つがユニコーンステークスで6月5日。
ユニコーンステークスは東京競馬場でダート1600メートル。
ヒヤシンスステークスの走りができるならば勝つ可能性は高いです。
問題はそれより先の距離なんですよね」
そんな台詞を吐きながら岡崎はホワイトボードにスケジュールを書いてゆく。
厩舎側から出たスケジュールは二つあって、端午ステークスで良い成績ならばユニコーンステークスに出てジャパンダートダービーへ。
悪い成績ならばユニコーンステークスに出た後夏の放牧というスケジュールらしい。
「なるほどねー」
私も気の抜けた声で返事をする。
レースでの応援には力が入るが、どのレースに出るかまでさすがに頭のリソースがさけない。
ここはもう調教師さんお任せコースなのだが、その調教師さんも迷っているという訳だ。
「『血統的にこいつ中距離いけるんじゃね?』っていうのが迷いの理由らしいんですよ。
実際、伏竜ステークスでは掲示板に乗りましたからね。
この距離で掲示板いけるならば、調教次第でジャパンダートダービーへと」
この伏竜ステークス四着が本当に判断に迷う絶妙な位置らしい。
掲示板外ならばスパッとあきらめもつくのだが、また残るようならばという訳だ。
岡崎がここで裏事情をぽろりとこぼしてくれた。
「ほら。
うち地方競馬救済で色々旗振っているじゃないですか。
金を出すのが強いってのもあるのですが、この手のはブランドってのも大きいんですよ。
特に馬主は華族や財閥や地方の名士が多くいますからね」
「成金では話を聞いてもらえないって訳ね」
既に華族対策の飴として構造改革特区法を利用したネット競馬の設立準備に入っている。
そのあたりを円滑に進める為にも、私自身が持つ馬に優勝レイという箔をという訳だ。
で、その優勝レイが最短で取れそうなスケジュールがジャパンダートダービーと。
「いいわ。
基本、これは趣味だけど、ビジネスにもなるならば狙っていきましょう」
かくして、ケイカプレビューの次のレースは端午ステークスとなったのである。
もちろん、ゴールデンウィーク期間なので京都に行ける訳もなく。
九段下桂華タワーの私の部屋より中継を見る事に。
わざわざこの日の為に競馬チャンネルに加入するという力の入れようだが、私の警備を考えたらはるかに安いとは隣にいるエヴァの言葉である。
「前に京都で何が起こったかお忘れでしたか?」
なお、本気で首を傾げた私にお狐様から鎌をもらった件を出してきて、どうもエヴァにとっては京都は鬼門らしい。
ちなみに、天満橋のおっさんは現地で応援という名前の競馬三昧を堪能しているらしく、岡崎はジオフロントがらみで残っており、もうすぐこっちに来るらしい。
ちらりとエヴァを見るとうまくごまかしているようだが、化粧の下に疲労の色が残っている。
やっぱりあのジオフロントで何かあったのだろうが、それを問い詰めても返って来る言葉は『何もありませんでした』だろう。
「女神さまー!女神さまー!!
今回も勝利をー!!!」
何かカメラの近くにうるさいのがいるが、女神様に祈れば勝てるのだろうか?
後で分かった事だが、全レース的中させた信じられない豪運者が出たとかなんとか。
話がそれた。
「始まりましたか?お嬢様?」
「岡崎。これからよ。六番人気だって」
出走13頭中六番人気。
さてこれをどう見るかという所だが、私が居なかった事もあってかケイカプレビューはパドックではごく普通にしていた。
そしてレースが始まる。
ゲートが開いて、いつものように……あれ?
「うちの馬、逃げてないわね?」
「前の方にいるから先行で差すつもりなんでしょうか?」
いつもと違うレース展開になんとも言えない声で反応する私たち。
まぁ、目標がジャパンダートダービーの2000メートルだから、1800メートルでバテたら意味がないのだろう。多分。
ケイカプレビューが先頭に立ったのは中盤を過ぎたあたりで、ここからは明らかにペースを上げてゆく。
少なくとも、伏竜ステークスのように最終コーナーで力尽きる事は無かった。
だからといって勝てないのもまた競馬の妙ではあるのだが。
最後の直線の叩き合いで写真判定にもつれ、やっと順位が確定する。
「三着かー」
「これどう判断するかなー」
結果を見て喜ぶとか悔しがるとかより頭を抱える私と岡崎の二人。
一着と二着の差がハナ差であり、二着と三着であるケイカプレビューとの差がアタマ差である。
1800メートルでこれだけ戦えるのならば、2000メートルのジャパンダートダービーを視野に入れる事になるだろう。
もっとも、これでユニコーンステークスにコケるようだと大笑いなのだが。
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思ったよりサイコロが頑張った。
全レース的中させた信じられない豪運者
なんとうちの話をリスペクトしてくれているやる夫スレがありまして。
という訳で、ご紹介と応援をば。
やらない夫の戦えバブル経済 メガテン経済戦争19XX
https://yaruo18book.com/blog-entry-10699.html
まとめがR-18なので18歳未満の人は見ちゃダメです。
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