技術最前線 地下街電気自動車

「こちらが、今回紹介する地下街電気自動車です。

 最近の環境問題への意識の高まりを受けて、豊原地下都市や札幌地下都市で導入が進められ、この春オープンした新宿ジオフロントにもお目見えする事になりました。

 開発したメーカーの広報ご担当者にお越しいただいたので、お話を伺いたいと思います。

 まずは開発の経緯を教えていただけないでしょうか?」


「はい。地下都市といえば豊原地下都市なのですが、縦横無尽に広がる地下街の移動に大きな問題を抱えていました。

 上下の移動には目を瞑るとしても、横の移動も一部の例外を除けば広大な通路を足で移動するほかに無く、人や物資の流れに大きく支障をきたしていたのです。

 それを解決したのが、当時密輸されていたこのゴルフカーでした」


「ゴルフカーですか。

 たしかにこの車の元はそうなんですよね。

 どこかで見た事があるなと思っていましたよ」


「豊原地下都市の拡張が本格的に進められた80年代後半は日本のバブル期と重なっており、この国が空前のゴルフブームに沸いていたことが背景にあります。

 それまで豊原地下都市での移動は徒歩や自転車や台車が主流で、このゴルフカーは政府や党幹部のみが使えるという権威の象徴でもあったのです。

 北日本政府崩壊後に豊原地下都市を維持管理する事になった政府はこの広大な地下インフラの物流に頭を抱える事になったのですが、その際にバブル崩壊で潰れるゴルフ場からこのゴルフカーが大量に流れ込む事になったのです」


「なるほど。

 それで運転席の後ろは貨物スペースになっているんですね。

 専用のスチールラックが連結出来て、時速5kmで走れるのは便利ですね。

 ですが、地下街を走るのに屋根って要るんですか?」


「残念ながら一番需要のある豊原地下都市はその建設の杜撰さから天井から漏水している所が結構あるんですよ。

 また、フロントガラスは強化プラスチックになっていて、警察用車両では簡易盾としても利用できるように設計されています。

 現在公的機関では樺太道警豊原地下都市警察署に30台。豊原地下都市消防本部に50台。豊原地下都市輸送企業等に100台単位で活躍しています。

 北海道の札幌地下都市でも新設された地下街交番に10台配備され、新宿ジオフロントでも警備を担当する北樺警備保障が30台の導入を決めたりと順調に実績を積み重ねており、地下都市を中心とした民間企業も多数購入をしていただいている所です。

 名古屋・大阪などの広大な地下街のある都市でも採用をご検討いただいており、我々としては休日返上で生産に努めているところです」


「電気自動車という点が凄いですね。

 これならば地下街の空気を汚さずにすみますから」


「需要が一番あった豊原地下都市では公的機関と地下都市物流企業に限ってガソリンや軽油を使う車を許可していたのですが、それでも地下都市内の大気汚染は深刻な問題となっていました。

 昨今の環境問題の意識からこの電気自動車形式を開発できたのは必然と言っていいでしょう。

 今度行われる愛知万博でも新世紀にふさわしい乗り物として皆様の前に披露出来たらと考えています」


「充電時間はどれぐらいなんですか?」


「30分で急速充電が出来るシステムになっています。

 先ほど挙げた公的機関などには緊急時の事を考えて常に動かせるように地下交番内部に充電駐車場を用意させていただきました。

 充電中で動けないという事は基本的にはないと思います」


「ちょうど今充電中ですね。

 なるほど。二台の充電スペースがあって、必ず一台は充電している形にしている訳ですね。

 この充電システムは地下街にどれぐらいあるのですか?」


「新宿ジオフロントについては、この車が乗り入れる事ができる各層に必ず三か所の充電スポットが用意されています。

 特に、広大な第一層についてはその三か所だけでなく、ジオフロント内交番と消防出張所にも充電スポットがあります。また、急速充電を考えなくていい民間企業などは店舗内に備え付けのコンセントで夜に充電しておけば朝には動けるという訳です」


「ありがとうございました。

 次に実際に使う方にお越しいただきました。

 この新宿ジオフロントの警備を担当する、新宿警察署新宿ジオフロント交番の中島さんです。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします。

 新宿ジオフロント交番嘱託警備員の中島です」


「嘱託警備員という事は、警備会社の方ですか?」


「はい。本来の所属は北樺警備保障です。警視庁より委託をいただき、新宿警察署の指揮の下でこの交番にて勤務いたしております。

 地下都市内部の交通及び交通法規はやはり先に運用があった豊原地下都市を元に構築されていて、樺太出身者の多い我々にお声がかかった訳です。

 パトロールや出動の際には、基本的に警察官一名と我々嘱託警備員が乗り込んでトラブルの対処に当たります」


「なるほど。

 ところで樺太と言えば、隣の広場では樺太地下都市の警察装備展が行われていますが、凄いですね。

 装甲兵の隣にある戦車。こんな小さな戦車まで持っていたんですね」


「樺太重工製のT-38Jですね。

 第二次大戦期に作られていた豆戦車を当時の技術で再生産したものです。

 治安の悪化していた時期には、地下都市内での火力確保にああいったものまで作られていました。

 今はこちらの電動自動車でパトロールすればいいので、いい時代になりましたよ」


「ありがとうございました。

 この樺太地下都市の警察装備展は新宿ジオフロント交番横の広場にて五月いっぱいまで……」





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設定回

札幌の地下街を歩いてあれば便利と思ったので


北海道取材で札幌地下街を歩いてそのデカさと広さに中で「車使えたら楽なのに……」と思った事から生まれたネタ。


電気自動車のスペックの参考はこちら。

https://global.yamaha-motor.com/stories/history/products/img/gc/AP000172469.pdf


交番嘱託警備員

 実際にはそういうものはないが、参考にしたのは交番相談員。

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%A4%E7%95%AA%E7%9B%B8%E8%AB%87%E5%93%A1


T-38J

『ガールズ&パンツァー』で豆戦車カッコカワイイと思ったので出す機会を密かに狙っていたのだが、書いてて画像を見返したのは『装甲騎兵ボトムズ』のウドの町である。

 地下都市みたいな所にスコープドッグあると便利だよなと思いつつ、そこまでSFに振りきれなかった私。

 もちろん理由はなんでか公開されていた『ペールセンファイル』に引っ張られたからである。

 なお、こいつに決まったのは重さ。地下都市だから落盤もまずいんだよ。

 マースレニツァ革命時の国家保安省治安維持警察の装備が増えてまた豊原地下都市の色が……


こぼれ話

 コミカライズ時に『地下都市ってどんなの?』とデェタさんに問われた時の私の回答が『アーマードコアの月面都市みたいな奴』

 まぁ、違っていないからヨシ!

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