いくつかの記事抜粋 虚塔の宴 編 その2

『政府は中期防衛力整備計画の基本方針をまとめ関係機関との協議に入る予定だ。

 閣議決定された後、17中期防として今後五年間の軍備計画の基本方針となる。

 今回の中期防は2001年に起きた同時多発テロとイラク戦争を受けた新しい時代の脅威に対応する為の即応部隊の整備とその整備に伴う陸自師団の削減が大きな柱となる。

 17中期防において恋住政権が『対テロ即応部隊の創設』を発表する傍らで、樺太と北海道の二個師団を旅団にする事が発表された。この二つの師団は旧北日本軍の師団である事から、はやくも関係者の間からは『帝興エアライン救済の代償』と噂され……』



『米国政府が南イラク独立の準備を進めている。

 国連安全保障理事会の承認を受けて今年初秋までに独立させたい構えだ。

 イラク南部は世界有数の油田地帯でシーア派住民が多く、イランイラク戦争や湾岸戦争でも戦火を受けていた。

 イラク戦争が勃発すると、イランは『シーア派住民の保護』を名目にイラク南部の要衝バスラを占拠。イラク南部を担当していた英軍及び自衛隊等の多国籍軍とにらみ合っていたが、戦火を拡大させたくない多国籍軍が戦闘を避けた事で比較的被害が少なかった。

 その後、ゲリラ戦による中部イラクの情勢悪化と、独立を目指すクルド人と国内クルド人を刺激したくないトルコの戦闘が続くイラク北部の泥沼化で米国内での厭戦が上昇しつつあり、今年行われる大統領選挙で共和党大統領が勝つ為にもイラク南部を独立させて戦果を強調し、イラク南部の戦力を中部に投入したいという思惑があった。

 だが、今年春にイラク元大統領が逮捕された事で中部イラクの情勢が好転。日英軍の戦力投入は予定通り行われるが、その目的は戦闘ではなく治安維持活動になる予定だ。

 一方独立を予定している南イラクだが、初秋の独立を目指す理由は9.11を前に戦果を強調し11月の大統領選挙に勝利したいという共和党大統領の思惑が……』



『政府は華族改革に構造改革特区法を活用する事を決めた。

 近く特区担当大臣が公表し、法改正の準備に入る。

 旧公家や旧大名家、維新の元勲およびその後の功労者や財閥関係者などで構成される華族はこの国の特権階級であり、不逮捕特権を始めとした多くの特権が前々から国民の批判を浴びていた。

 恋住政権はこの華族特権の剥奪も公約に掲げており、その華族改革の第一歩になるとみられる。

 そもそも、構造改革特区法によってできる構造改革特区は縦割り行政の打破を目的として特区内における規制改革などを目的にしていたのだが、省庁及び自治体の抵抗や財政的裏付けがないという欠点を抱えていた。

 これに華族の持つ特権を活用し、華族を頂点とする形で特区行政の円滑化を図ると同時に、華族側に経済的恩恵を与え、また特権剥奪という武器を持つことでその特権を制御する事を意図している。

 既に公営ギャンブルの救済に構造改革特区法を活用する事が発表されており、資金の確保にめどがついた現状、華族側も経済的窮乏から脱税を始めとした経済犯罪を助けるというロジックが利用できない事を悟っており、どのように手放すかを枢密院で審議……』



『構造改革特区を利用するビジネスで注目を集めているのがPMCと呼ばれる民間軍事会社で、樺太及び北海道の特区予定地で移転や設立の準備が始まろうとしている。

 政府が中期防にて二個師団の旅団化を考えており、多くの自衛隊員が民間に出る事から彼らの雇用先としてだけでなく、特区活用のモデルケースとして政府はこの動きを歓迎している。

 現在世界各地でテロとの戦いが続く中でPMCの需要はうなぎのぼりであり、中部イラクで始まる復興事業及び治安維持活動において、PMCはいくらあっても足りないという状況になっている。

 旧北日本軍出身の傭兵及びPMCはソマリアやアフガニスタンやイラクで活躍しており、彼らの武名は「レッドサムライ」と呼ばれるまでに恐れられ……』



『恋住内閣の支持率が下げ止まり、上昇に転じている。

 今年発覚した「失われた年金問題」にて40%を割り込んだ内閣支持率は、マスコミ各社の最新の調査その全てで40%を回復。

 年金問題での野党の自滅や素直に頭を下げて反省した事への好印象、イラク前大統領逮捕や桂華金融ホールディングス上場に伴う不良債権処理の終了宣言に、新宿ジオフロント一次工事完成と明るい話題に世論が反応した結果だと識者は見ている。

 この支持率の回復に伴い先の国会で成立を見送った枢密院改革も構造改革特区を利用した搦め手で切り崩しを図っており、今国会終了までにはある程度の形を示したいと与党関係者は意気込んでいる。

 今年は夏に参議院選挙が行われる予定であり、与党側は支持率の回復に手ごたえを感じる一方で野党側は立て直しを迫られている。

 とはいえ、二大政党制に期待する声は高く、野党側の選挙戦略によっては予断を許さない選挙区が多……』



『今年夏の参議院選挙において泉川太一郎参議院議員の去就に注目が集まっている。

 泉川参議院議員は泉川副総理の長男で、故郷の選挙区ではなく比例代表から出馬し、桂華グループを始めとした北海道経済界の支援によって当選した経緯がある。

 今回の改選において北海道経済界は泉川参議院議員に北海道選挙区からの出馬を要請しているが、泉川参議院議員は明言を避けている。

 参議院北海道選挙区の定数は2で、最近の選挙では与党側も野党側も議席の独占を狙って二人の候補者を出してそれぞれ一議席ずつを分け合っている。

 今回の選挙では与党現職に外務省スキャンダルで離党した元与党衆議院議員が立候補を表明。泉川参議院議員が立候補を表明すると与党分裂選挙となりかねず、共倒れで野党側に漁夫の利を取られかねない。

 また、泉川参議院議員には父親である泉川副総理の地盤を継承するもしくは北海道衆議院選挙区への転出も噂されており……』




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参議院北海道選挙区

 この時の定数は2。

 樺太からの移住者を考えたら3になってもおかしくはないのだが、このあたりは変更の可能性あり。

 彼の去就は物語にかなり大きく作用する予定なので、その時に改めて決める予定。

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