いくつかの記事抜粋 虚塔の宴 編 その1

『帝興エアラインの民事再生法申請に伴い産業再生機構が支援を表明した。

 メガバンクの債務放棄と政府系金融機関の支援で再建を目指すことになるが、外資の支援提案などもあって再建には一波乱ありそうだ。

 帝興エアラインはこの国のナショナルフラッグキャリアだったが、9.11同時多発テロとSARS(重症急性呼吸器症候群)によって収益が悪化。

 内部告発によって隠れ債務が発覚した事で民事再生法申請に追い込まれた。

 その後、成田空港テロ未遂事件に関与している事が警察の調査により発覚し、帝興エアラインの救済は政府内部で方針が二転三転。

 不良債権処理に邁進して厳格な査定を求める金融庁と、監督官庁の国土交通省及び多くの空自天下り組を送り込んでいた兵部省と救済合併された樺太航空を抱えていた樺太道が対立。

 さらに世界の航空業界再編と自由化の流れから、英国アヴァロン・アトランティック航空はじめとした外資が救済に名乗りをあげていた。

 不良債権処理だけでなく中期防衛力整備計画や樺太華族の不逮捕特権まで絡んだ政治案件と化し、最後は恋住総理の裁断によって政府主導の救済となった。

 政府関係者によると「民間にできる事は民間にを旗印にしていた帝興エアラインの救済で後退ととられかねない政府救済のスキームは、自衛隊と樺太が絡んだ事で民間に任せられないと判断……」』



『政府は経営で苦しんでいる公営ギャンブルの救済に構造改革特区法を活用する事を決めた。

 近く特区担当大臣が公表し、法改正の準備に入る。

 元々は規制改革の目玉として用意した特区がその目玉を探していたのと、北海道・山形県・栃木県等の地方競馬救済としてのネット馬券導入の法整備を陳情していた桂華グループの利害が一致した事があげられる。

 華族特権改革を目指している恋住政権はこれを奇貨として、華族側の飴として特区適用を公営ギャンブル全体に拡大するように指示。

 経済的に苦しむ華族側を取り込む事で、華族の不逮捕特権を頂点にした特権にメスを入れる予定だ。

 華族側が不逮捕特権を行使する理由の一つに経済的窮乏があげられ、脱税を始めとした経済犯罪容疑者を助けてその見返りに金銭を得ていた事があげられる。

 公営ギャンブルに華族側を絡めて窮乏華族を救済する事で、不逮捕特権を使わなくてもいいようにするという恋住政権の搦め手に華族側は打つ手がなく、恋住政権が目指す華族特権剥奪が視野に……』 



『東京都が推進しているお台場カジノ構想が加速している。

 政府公営ギャンブルの救済に構造改革特区法を活用する事を決めた事で、その特区に申請を決めたためだ。

 政府は経営が苦境にある地方の公営ギャンブルの救済の切り札としてこれを認める方針で、米国やマカオのカジノ企業が早くも名乗りをあげている。

 カジノが設置される予定のお台場は元々世界都市博覧会が行われる予定だった土地で、バブルの崩壊に伴って開発が滞っていた。

 政府は都市部の再開発を推進する事を名目とした都市再生特別措置法を利用した都内再開発を推進しており、その際の代替地としてのお台場には急速に注目が集まっている。

 既に穂波銀行と帝西鉄道を支配下に置いた帝亜グループがその管理拠点として台場に帝亜タワーの建設を発表しており……』



『お台場カジノ構想が加速するに伴い、アンダーグラウンド界隈でも動きが出ている。

 ヤクザやマフィアを始めとしたアンダーグラウンド勢力は成田空港テロ未遂事件と樺太銀行マネーロンダリング事件によって大規模な捜査を受けてその勢力が弱体化したが、かえってその全体像が分かりにくくなってしまい、警察はその対策に追われている。

 特に厄介なのが堅気とヤクザの中間あたりの層の増大で、携帯電話の普及とネットの社会の浸透からこれらの新しい勢力があちこちに姿を見せる事になった。

 昨今騒ぎを起こしていた「平成天誅」などもこの集団に入るだろう。

 お台場カジノ構想は莫大なマネーが舞う一大利権であり、アンダーグラウンド界隈も参入をあの手この手で試みている。

 今まで彼らの違法カジノで使っていたディーラーなどを経歴ロンダリングで綺麗にして送り込む用意をしたり、警備コンサルタントとして表に出る事を選んだり、米国ロビイストに依頼して政府に米国側から圧力をかけたりという動きが確認されている。

 政府は米国とロシアの捜査機関と協調路線を続けており、彼らアンダーグラウンド勢力の浸透を阻止する構えだが……』



『米国のロビイストスキャンダルが日本にも波及した。

 元々は米国のインディアン・カジノに絡むスキャンダルだったのだが、お台場カジノ構想の具体化に伴い今年から件のロビイストにアンダーグラウンド勢力からの献金が確認されたのだ。

 しかも、その資金がマネーロンダリング資金だった事から樺太銀行マネーロンダリング事件と絡んで与党共和党内では釈明に追われている。

 米国の選挙はTVCMを大量に打つ為に莫大な選挙費用がかかっており、その費用を調達できるかどうかで当選が決まると言われていた。

 今年の大統領選挙及び議会選挙で党及び議員は選挙資金の確保に奔走していて、この汚い金を受け取ったと野党民主党の批判を浴びている。

 米国の捜査要請に警視庁は協力する姿勢を見せているが……』




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インディアン・カジノ

wikiペタリ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%82%B8%E3%83%8E


ロビイスト

 特定圧力団体の運動員で、議会で有利なる為に請願や陳情を仲介する人。

 なんと米国ではこのロビイストが正式な職業となっていたりする。


ロビイストスキャンダル

 ジャック・エイブラモフ事件。

 なんと映画にもなっているが、カジノ利権を巡る詐欺事件がネタで与党共和党重鎮だけでなく、大統領まで届きかねなかった。

 発覚が2004年で、2006年起訴。

 多分この世界の決め手は、降ってわいたお台場カジノ構想とそこに群がろうとするアンダーグラウンドマネーだと思う。日米露の三か国の諜報機関が見張っている前で踊るとこうなるという例。


参考文献

『ドキュメント アメリカの金権政治』(軽部謙介 岩波新書 2009年)

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