富嶽放送競売 その7

 敷香侯爵への接触は、学校で敷香リディア先輩経由にて行われた。

 理由は、敷香侯爵が表向きは引退しているのと、リディア先輩を表に出すことで私と繋がりを作り、何かあったら私経由で逃がすためらしい。

 なお、この手のやり取りは学園に私が作った私設トイレで行われた。

 どこのスパイ小説なのかと思いつつも、実際の会見の席にて私は黄昏れていたり。

 さすがに岡崎が学園内の女子トイレに入るのは無理があるので、学園隣にある神社の社務所が会見の場所である。


「あら。なかなか良い神社ですわね」


 そんな事を言いながら、リディア先輩が一人で入ってくる。

 なお、この神社は神奈水樹と開法院蛍の二人が巫女をやっているあの神社だ。

 監視カメラつきの上にオカルト的な何かもある場所なので、まず馬鹿は寄ってこない場所である。


「どうぞ。喜んでいただけるかしら?」

「大好物ですから大丈夫じゃない?」


 という訳で、リディア先輩が持ってきた稲荷寿司を蛍ちゃんが受け取り御祭神にお供えする。

 社務所に入ると神奈水樹がお茶と茶菓子を私とリディア先輩に差し出してくれる。窓から岡崎の姿が見えたので出迎える。


「ああ。少し遅れてしまいましたか」

「まだ時間前よ……って、なにそれ?」

「お神酒ですよ。場所を使わせていただくのですから、それ相応のお供えをと」


 岡崎もリディア先輩もここの因縁を分かった上で捧げものを用意してくるからお狐様も大満足だろう。

 という訳で、岡崎も社務所に入ると、リディア先輩が立ち上がって頭を下げた。


「敷香侯爵家長女。敷香リディアと申します」


「桂華商会ホールディングス常務取締役兼桂華資源開発社長……いや。腹を割って話すんです。

 ムーンライトファンド統括の岡崎祐一と申します。

 今回は危ない橋を渡って頂き感謝を」


 普通の側近団ならここで気をきかせて社務所を出る所だが、ここの二人が普通である訳もなく。

 神奈水樹も蛍ちゃんも興味津々で席に座って話を聞く気まんまんである。

 まぁいいかという訳で、私が席に座り、リディア先輩と岡崎も席に座る。


「時間が惜しいので単刀直入にお聞きします。

 新宿ジオフロントの件、どこまで掴んでいます?」


「ああ。テロが起きるってやつ?」


「ぶっ!!!……げほっ!げほっ……」


(!?

 ……ふきふき……)


 まさかの観客である神奈水樹の一言に私はお茶を吹き出し、蛍ちゃんがテーブルを拭く時点でこの会見の段取りは全部飛んだ。

 というか、なんとか落ち着いた私が声を荒げるのは許してほしい。


「ちょっと!

 なんであんたがそれを知っているのよ!?」


「ふっふっふ。

 新宿ジオフロントで何かあるって動きを通報したのは実は私なのだ♪

 新宿のラブホで寝た人が怪しくて、あと、ジオフロントの換気システムに問題があるって教えくれたのも私が六本木でナンパした人なのだ♪」


 褒めて褒めて顔の神奈水樹に対して私とリディア先輩はドン引きである。

 というかこれ、絶対橘あたりで情報止めていたなと岡崎を睨むと、岡崎は視線をそらしやがった。


「そのあたりを掴んでいるのならば、話は早いですわ。

 新宿ジオフロントの空調管理システムを管理するのは、日樺資源開発の子会社で豊原空調管理。

 元々は豊原地下都市空調管理局が民営化されたもので、今も豊原地下都市の空調管理をしています。

 新宿ジオフロントは豊原地下都市の空調システムの技術を使っているんです。

 テロを仕掛ける場合、まず抑えないといけないのは配管図で、これは向こうは入手していると見ていいでしょう」


 私と神奈水樹のやり取りを無視してリディア先輩が口を開く。

 同じく私と神奈水樹を無視した岡崎が険しい目で質問する。


「その根拠は?」


「日樺石油開発の民事再生法をアイアン・パートナーズが邪魔したでしょう?

 裁判となると資産チェックで第三者の目が入ります。

 見ようと思ったら見れる場所に、合法的に入った」


「……そういう事か」


 一人納得した岡崎に私は突っ込む。

 神奈水樹の相手を一人でしたくないともいう。


「何がそういう事なのよ?」


「アイアン・パートナーズが複数から金をかき集めていたのはお嬢様も知っていたでしょう?

 で、やばい筋、多分報復を企んでいたロシアンマフィアからも資金を借りていた。

 その金を借りた条件ってのがこれです」


「私を殺すのに?」


「どっちかと言えば、標的は恋住総理でしょうね。

 お嬢様は成田空港で一度失敗しています。

 今度失敗すれば、面子を致命的に失いますからね。

 新宿ジオフロントは、恋住総理を狙った上にお嬢様も狙えるからマフィア連中が無理強いしたんでしょう」


 岡崎の言葉にリディア先輩が補足する。

 このあたりの話が聞きたくて、こういう場を設けたのだ。


「それに、樺太華族と旧北日本政府の軍人が乗った。

 恋住総理の華族特権解体は私たちにとって致命傷ですからね。

 どうしても止める必要があったのですが、政局は年金問題で野党が自滅しどうにもならず。

 残った手段は非合法という訳で」


 合法手段が使えなくなったから非合法手段。

 ある意味社会主義国は権力闘争については、資本主義国よりも激烈である。

 神奈水樹が図々しく口を挟む。


「しつもーん。

 リディア先輩がおちついているのはどうして?

 同じ樺太華族なのに?」


「私はこうして桂華院さんとお話しできるじゃないですか。

 恋住総理の目的って華族特権の解体であって、桂華院さんの破滅じゃないんですよ。

 ついでに、危ないの分かっているのに出席するでしょう?」


 そうなんだよなー。

 あの人はそういう意味では、システムを敵にしていた所が上手かったし、ためらうことなく自分をチップに全賭けするのが凄いのだ。

 岡崎が声を潜めて取引を持ち掛けた。


「樺太華族と旧北日本軍人の切り崩し、お願いできますか?」


「食えなくなったら暴発します。

 うちを始めとして、そちらの顧問・相談役席の確保が条件です」

 

「おーけー。乗った。

 さすがに酒池肉林は味わえないけど、そこそこの見栄が張れる程度のお金ならば私が払います」


 岡崎が口を開く前に私が口を開く。

 こういう時の為に私が居るし、お金を稼いだのだ。

 今使わずにいつ使う。

 これで、樺太華族や旧北日本軍の穏健派は取り込めた。


「はーい!

 私からも提案。

 知り合いにちょっと使える人が居るんだけど、この件で使いたいの。

 だめ?」


「えーい。こいつは……」

(ぐいっ!……こくこく)


 神奈瑞樹の口出しに危ないからダメと言う前に、蛍ちゃんが私の服を引っ張って『やらせろ』と言ったので口を閉じる私。

 神奈水樹は場を荒らすが、それがこちらの害になった事はなく、蛍ちゃんがこういう事を言った時にそれが悪い方に行く事がない以上、ここは認めるべきだろう。


「経費は岡崎につけておきなさい」


「俺ですか?

 いや、いいですけど……」


「お金より欲しいのがあるのよ。

 桂華院さん。

 この学校の高等部の入学資格って手に入る?」


 神奈水樹の要求に、私が首をかしげて一言。


「まさか、その身分で男と遊ぶんじゃないでしょうね?」


「あ!?

 その手があったか♪」


 本当にこいつは……

 なお、彼女がお世話になっている人で、働いて学校に行けなかったから学校に行きたいとかで、いい話だった。

 これも岡崎にぶん投げる事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る