富嶽放送競売 その5

「レンタル?」


 私の言葉にアンジェラが微笑んだ。

 ニューヨークから入ってきた富嶽放送がらみのニュースである。


「アイアン・パートナーズはシルバー・ウーマン証券に富嶽放送株の33%をレンタルする事を発表しました。

 同時に、アイアン・パートナーズが保有している富嶽放送の全株51%を入札形式で売却し、入札をシルバー・ウーマン証券に一任することも発表しています」


「これ、何がしたいの?」


 私の質問に、アンジェラが首を傾けながら答える。

 少し考えながら、アンジェラは考えを口にした。


「一つは一社に全部売るつもりはないというアピールでしょう。

 20%を超える外資規制に今度こそ触れたくないでしょうからね。

 こっちの33%は国内企業に、アイアン・パートナーズが持っている18%は外資に売るという事なのでしょう」


 これについては、放送行政を管理している総務省がかなり強めのアナウンスをしていた。

 外資にとっては一市場である日本の行政など気にしなくてもいいのだが、買う企業にとっては買う前から総務省に喧嘩を売る必要もない訳で。


「もう一つは、アイアン・パートナーズの資金繰りが苦しくなってきた可能性です」


「アイアン・パートナーズが複数から資金を集めているのは理解しているけど、それが資金繰りとどう繋がるの?」


「レンタルという事で、レンタル料金が発生します。

 おそらく、急いで返したい資金があるのでしょうね。

 シルバー・ウーマン証券が金を出して、その担保にアイアン・パートナーズが株を差し出しレンタルという形にした」


 なるほど。

 金を動かし続けるヘッジファンドの欠点がこれだ。

 長期戦になると資金が枯渇する事があるのだ。


「で、富嶽放送を買いたい国内企業は何処?」


 私の質問に、アンジェラはすらすらと答える。

 このあたりは報道でもされていた事だ。


「まずは総合商社。

 売るにせよ、持ち続けるにせよ、とりあえず手を出してができるのが彼らです。

 岩崎商事、二木物産、淀屋橋商事、それとうちの桂華商会もここに入ります」


 昔はムーンライトファンドで片づけたのだが、連結会計が主流になりつつある現在はその手も使いにくく。

 看板は桂華商会の方に移動しようとしていた。

 なお、アンジェラはムーンライトファンドを外資扱いにして、桂華商会とムーンライトファンドで富嶽放送51%を分捕る策を提示して私、岡崎、一条の三人を呆れさせ、天満橋を大爆笑させたのだが話がそれた。


「次に本命のネット企業です。

 プロ野球団買収にも手をあげたフェブエッジとパラダイス・ワンダーマーケット。

 プロ野球の方はパラダイス・ワンダーマーケットが持って行ったので、フェブエッジはリベンジに燃えているそうですよ。

 次に、ブラウザ企業最大手でブロードバンド事業に注力し、福岡の球団を買ったユニオンリソース。

 そして、お嬢様とやりやった帝国電話」


「え?なんで帝国電話がまた出て来るの?」

 

「むしろ、何で出て来ないと思ったんですか?

 こんな美味しい物件。

 噂レベルですけど、帝亜グループも手をあげるというか、あげさせるというか」


「あげさせる?」


 私の疑問形にアンジェラが苦笑しながら背景をぶっちゃける。

 なお、アンジェラの苦笑は呆れるというよりも同類が馬鹿をやっているという苦笑なのはポイント。


「帝亜グループはお嬢様を知っているじゃないですか。

 お嬢様を敵に回すリスクを理解しているのですが、外資はお金しか見ませんから。

 お嬢様に勝てるので組みましょうという観測気球を」


「……思うのだけど、ヘッジファンドってどういう思考しているのよ?」


「そうですね。

 『手のない種族にピアノを買わせる』事ができる連中でしょうか?」


 当たり前のように誉め言葉らしいそれを言うアンジェラの答えに私はドン引きである。

 そんな事は知った上でアンジェラは続きを口にする。


「で、国内のプレイヤーはこのあたりで、海外のプレイヤーは多国籍大手メディア企業アヴァロン・アトランティックと同じく多国籍メディアのガーファ・コーポレーションですね。

 他に多国籍携帯電話会社のエウロパネットワークも手をあげています」


 出るわ出るわの大物たち。

 何しろ、爆発的に足りなくなる携帯電話用電波利権の一角であり、TV・ラジオ・新聞に映像・音楽という莫大なコンテンツを持ち、メディアという政財官の情報を握っており、その政治力から東京湾岸再開発の主要プレイヤーである。

 鴨葱どころか鍋に入ってやってきた出物をハゲタカたちが襲わない訳がない。

 だからこんな名前が出てくる。


「で、ここからが本番です。

 SWF。ソブリン・ウエルス・ファンドが本気で狙ってきています」


 国富ファンドとも訳される、政府出資のファンドたち。

 イメージしやすいのが、アラブの石油王。

 あれが持っているのがこのSWFだ。


「で、アラブ系SWFが二。欧州系SWFが一。年金基金系が三。

 間違いなく、今年一番の獲物でしょうからね」


 リストを見てため息をつく。

 石油王VS年金基金なんて頂上決戦に絡むことになろうとは……あれ?


「アンジェラ。

 質問二つ。

 帝興エアラインじゃないの?一番の獲物?」


「あれ、間違いなく日本政府マターじゃないですか。

 事実、政府系金融機関の全面支援を前提に中の掃除をしていますし。

 食べる場合は経済産業省と兵部省相手に一戦しないといけないので、富嶽放送以上の長期戦になります」


 なるほどなーと思いながら、二つ目の質問をする。

 散々名前だけ出てきていたあの会社の名前がなかったからだ。


「二つ目。

 月光投資公司の名前がないけど、奴らエントリーしていないの?」


 アンジェラはそれを聞いて、綺麗に忘れていたらしく、資料を再確認して慌てて確認の為に出て行った。

 アンジェラでもポカをするのかと残された私は思ったが口に出すことはなかった。




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手のない種族にピアノを買わせる

『ハイ・フロンティア 星のパイロット3』(笹本祐一 朝日ソノラマ文庫)

 私のネタ本の一つ。

 これと『彗星狩り』は本当に大好きで何度読んだか……

 なお、桂華グループが航空宇宙産業に進出した場合、この本ベースに『MOONLIGHT MILE』(太田垣 康男 ビッグコミックス)をやる予定だった。

 間違いなく殺されるから没になったのだが。 


国内ウェブ企業

 プロ野球再編問題2004年のwikiペタリ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E9%87%8E%E7%90%83%E5%86%8D%E7%B7%A8%E5%95%8F%E9%A1%8C_(2004%E5%B9%B4)

 

本当に似て違うように名前を作るのが難しい……



海外メディア企業

 一つは英国で音楽産業や航空会社や宇宙旅行なんかを手掛けるあの会社。

 お嬢様が成人していたならあの統治方式が一番だったと思う。

 もう一つは『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』の敵役のネタ元になった会社。

 思ったが、私設軍隊を企業が持っているのだから、ああいう話やってもいいじゃんと気づいて作り出したのが『道化遊戯』である。


多国籍携帯電話会社

 まだこの時は日本テレコムを抱えていたあの会社。

 ここで富嶽放送を握れれるどうかは電波利権がらみで本当に大きいから登場してもらった。


石油王

 作者はこの小説のカテゴリーが『現実世界恋愛』である事を忘れていない。

 だから、欧州貴族と石油王は出すつもりで、そこにお馬がらみの話がというラインが実はあったりする。

 欧州貴族と石油王の登場はケイカプレビューの活躍次第……

 なお、瑠奈を入れたこの三人、来年から某ディープなインパクトな馬にギタギタのけちょんけちょんにボコられる運命である……

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