経済番組 AIRHOの苦境と現在の航空業界

 北海道を拠点とするLCC(格安航空会社)、AIRHO。

 同時多発テロで起こった航空需要の激減による巨額の赤字からの脱却を目指し、あの手この手の策を練っています。

 コードシェアを組んでいる帝国空輸と桂華グループの綱引き、すでに飽和状態の東京樺太便。

 今日はこの格安航空会社の赤字脱却に向けた奮闘をご紹介したいと思います。




 AIRHOは北海道札幌市に本社がある第三セクターで、現在は北海道が三割、国内第二位の航空会社である帝国空輸が二割、北海道に絶大な影響力を持つ桂華グループ傘下の桂華鉄道が五割の株式を保有しています。

 朝7:30。成田行きのAIRHO第一便が出発します。

 この便には乗客は乗っておらず、すべてが貨物室になっており荷物が大量に積まれています。

 積み荷は帝西百貨店に送られる生鮮食品便で、成田空港から帝西百貨店基幹店である池袋店、渋谷店、千葉店、横浜店、柏店、大宮店等に昼までに運びこまれ、今日の夕食を買う人たちの為に15時にはそれぞれの食品売り場に並ぶ事になります。

 帝西百貨店の担当に話を聞いてみました。


「元々は旅客機だったのですが、同時多発テロでの需要低迷と、生鮮食品の鮮度と安定供給に注目した帝西百貨店に入っているレストランからの需要拡大に、成田に送る為の便を貨物機に改造する事になりました。これができたのも、この機をリースではなく購入していたおかげですね」


 AIRHOはもともと北海道便の航空運賃を下げる目的で、北海道の政財界が集まったベンチャーという形で始められました。

 ここに北海道開拓銀行を買収して北海道に縁ができた桂華グループがかかわってきます。

 帝国空輸とのコードシェア交渉に加え、アジア通貨危機で行き場のなくなったボーイング737-700三機を購入した結果、AIRHO内の主導権を確立させました。

 桂華銀行の担当者に話を聞いてみました。


「桂華グループは、この事業については北海道開拓銀行から引き継いだ形になったので、金は出すけど口はあまり出さない方針を取っていました。

 帝国空輸とコードシェアを行い、また出資もしてもらった結果、ベンチャーとしては人材的及び資金的な余裕ができました。そこでリース会社からさらに三機の737-700を借りた所であのテロに遭遇しました。

 桂華が本格的に金と口を出すようになったのはこの後からです。

 同時多発テロでAIRHOに出資していた企業が苦境に陥ると、それらの企業の株式を買い取ることになりました。

 桂華グループにおける北海道への移動ではほぼAIRHOの飛行機が割り振られたり、AIRHOの巨額赤字を計上するなど、桂華グループによる全面支援はこの保有株で過半数を得たからこそできたと言っていいでしょう」


 成田空港はAIRHOの拠点があると同時に、航空貨物の日本有数の拠点でもあります。

 現在、桂華グループが中心になって第三ターミナルビルの建設が進められています。

 空港職員に話を聞いてみました。


「桂華グループのドッグエキスプレスが国際航空貨物に本格的に参入する為にB747の貨物タイプを購入し、ワールドカップで暫定滑走路が供用された事で、AIRHOは羽田空港から成田空港に中心を切り替えました。

 東京-札幌は日本でもトップクラスのドル箱なのですが、東京-豊原の航空便で羽田空港は飽和していたんです。

 LCC設立時に持っていた羽田枠をレンタルという形で帝国空輸に渡したのも、経営再建策の一環という話だそうです。

 ここがAIRHOの整備格納庫ですね。

 一機中に機体が止まっているでしょう?

 あれは華族御用達のビジネスジェットですね」


 AIRHOの2003年決算は九十三億円の赤字でした。

 同時多発テロは世界規模で航空需要を消滅させ、国内最大手の帝興エアラインも破綻に追い込まれた現状、航空業界の再編は待ったなしの状況になっていると言っても過言ではありません。

 専門家に話を聞いてみました。


「帝興エアラインの破綻は、帝国空輸に業界一位という棚ぼたをもたらしましたが、帝国空輸も決して経営が順調な訳ではありません。

 帝興エアラインは民事再生法を申請して再建を目指していますが、不採算路線の処分などを始めとして大規模なリストラは避けられないでしょう。

 また、帝興エアラインの再建に関しては海外の航空会社も興味を示しており、ヘッジファンドや国土交通省が絡んでどうなるか予断を許しません。

 そんな中、AIRHOは帝興エアライン支援として新千歳発着便を中心に購入を検討中としていますが、帝興エアラインの新千歳発着便を購入した場合、今年度の黒字回復は難しいとの見方が強まっています。

 ただ、AIRHOの背後に巨大コングロマリットである桂華グループがつき、多少の赤字ではびくともしなくなった現状では、桂華グループが帝興エアラインを丸ごと支援するのではとの憶測もあり、それが現実になった場合、AIRHOに出資している帝国空輸や北海道庁との関係が注目されます」




 同時多発テロから世界規模で発生した航空需要消滅。

 それは、米国の大手航空会社だけでなく帝興エアラインの破綻という激震を引き起こしました。

 LCCの勃興や航空アライアンスによる業界再編が進む中、この小さなLCCの動向に業界全体が注目しています。そうした中で、今日もAIRHOの飛行機が朝の新千歳空港から飛び立ちます……

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