お嬢様が馬主になるそうです ケイカプレビュー 伏竜ステークス その2

 中山競馬場がなんで中山なのかというと、特に捻りも無く中山村にあったからである。

 それが気づけば日本の四大競馬場の一つとなり、競馬を知らなかった私でも知っている年末レースである有馬記念のレース場となっている。

 そうか。もし私の馬が色々勝ったらここで有馬を走る……ん?


「ねぇ。どうやって有馬の時にここに来るの?」


 後で知ったが、有馬記念開催時の中山競馬場は十数万人集まるとか。

 満員電車に車も渋滞という素敵な惨状を察した私の質問に岡崎と天満橋は視線をそらした。

 察した秘書の亜紀さんがポンと私の肩を叩いて一言。


「がんばってエヴァさんを説得してくださいね」


 私の有馬への道はまだ遠そうである。



 伏竜ステークスは第九レースであり、今日のメインレースはGⅢのダービー卿チャレンジトロフィー。

 今日の天気は雨。

 朝からしっかりと降っており、馬場が重たくなっている。

 パドックで傘をさしてケイカプレビューを見物。

 パドックの観客がちらちらと私の事を見ている気もしないではないが、まぁいいか。


(あれ桂華院瑠奈じゃない?)

(馬主用パドックって事は馬を持っているのか。さすがお嬢様)

(これだろ。ケイカプレビュー。三番人気)


 そんな声を聞きつつも、よくわかっていない私にかわって岡崎が色々説明してくれている。


「調子は良くもなく悪くもなくという所でしょうが、この雨ですからね。

 有利ではあるんですが、ちょっと厳しいかもしれません」


 なんとも言えない顔の岡崎の解説に私は説明を求める。


「その有利とちょっと厳しいってやつの説明おねがい」


「有利なのはお嬢様の馬が先行逃げ切り型なんですよ。

 雨で砂がはねて後続の馬の顔に当たるんです」


 後ろの馬は砂が顔に当たるので、走りにくいという訳だ。

 たしかに、この状況だと前の馬は有利だ。


「で、ちょっと厳しいってのは?」


「この馬、短距離からマイルあたりに適性があるみたいなんですが、このレースの距離はマイルでは一番長い1800メートル。雨で馬場が重くなっているからスタミナが持つか……」


 岡崎が黙り、私も不思議に思って岡崎の視線の先を見ると、ケイカプレビューがじーっと私を見ていた。

 そのまま引っ張られてパドックを去ってゆく。


「あの馬、セリの時も私を見ていたのよね」

「その縁でここに立っているんですから、世の中ってのは不思議なものですよ。

 戻りましょうか。お嬢様」


 パドックからまた馬主席へ。

 そういえば、さっきので気になったから聞いてみた。


「岡崎。あれの他に馬買っていたけど、成績は?」

「十頭買いましたけど、デビューは来年ですね。

 出来のいい奴についてはお嬢様の前にお披露目しますよ」


 そうか。

 あの馬、本当にプレビューだったんだな。



 中山競馬場第九レース。伏竜ステークスは雨の中出走馬がゲートに入ろうとしていた。

 こうなると私達はただ見ているだけしかできない。

 ファンファーレが鳴りゲートが開き、レースが始まる。


「逃げて……る?」

「いや、逃げ馬が他にいるんです」

「まずうおまんな。叩き合いになったらスタミナ持ちまへんで。あの馬」


 雨の重馬場、適正距離より長い距離、同じ逃げ馬との叩き合い。

 それでもケイカプレビューは頑張ったのだ。最終コーナーまで。

 最後の直線で、ケイカプレビューのスタミナが切れる。

 叩き合っていた逃げ馬共々に力尽きたそのタイミングで後ろにいた馬に持っていかれる。

 それでも、掲示板に乗った事は褒めていいと思う。


「四着かー」

「がんばりましたよ。ケイカプレビューは。

 とりあえず手は開いてもよろしいのでは?」


 岡崎に言われて、自分が握りこぶしを作っていた事に気づく。

 これだけ熱く見ていたのか。これほど負けると悔しいのか。


「お嬢様。次、頑張りましょう」

「次はいつ走るのかしら?」


私の質問に返事をしたのは天満橋のおっさんだった。


「調教師と相談になるでしょうな。

 また決まったら報告を」


「あ、ちょっと……」


 去ろうとする私達に幾人かの馬主が声をかける。

 何かと尋ねたら、話していた『桂華院記念』について聞きたがっていた。

 秘密でもなんでもなく、オープンで話していたからなぁ。競馬場救済の話。

 新しい重賞ともなれば、そりゃあ知りたいわな。

 帰りは呼んだ車で帰路に就く。

 その中で、岡崎と天満橋にこの話を振ってみた。


「距離、どうする?」

「箔をつけるなら、2000メートルは欲しいのですが」

「今のケイカプレビューが勝てるかというと怪しい所でんな」


 頭を抱えたが、解決策が出る訳もなく、外の雨を眺めながらため息をつくしかなかったのである。




後日談


「岡崎。伏竜ステークスで勝った馬、皐月賞に行くって本当!?」

「本当みたいなんですよ。確認しましたので」

「うちのケイカプレビューもできない?」

「お嬢様。皐月賞は芝で、距離が2000メートルあります」

「あっ……」


 それぐらいは理解した私。

 なお、その馬は皐月賞にて敗北する事になる。




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 次のレースも読者にお任せするスタイル。

 大体これで「親こいつじゃね?」というのが読者側に見えて来るかな?

 それを遠慮なく頂く予定。


ケイカプレビュー

 二歳 牡

 1000-1600 <<あっ……

 晩成

 ダート ◎

 体質 A

 気性 B

 実績 C

 底力 B

 安定 C


 来年四月にきっと因子継承で……(ウマ娘脳)



2004年皐月賞馬 ダイワメジャー

 コスモバルクやハーツクライが出ていたレース。

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