お嬢様が馬主になるそうです ケイカプレビュー 伏竜ステークス その1
「お嬢様。朝ですよ」
目が覚める。外は九段下のいつもの景色ではなく、西船橋のホテルからである。
今日はケイカプレビューの出走日で、応援ついでにセーフハウスまわりの確認に来たのである。
「セーフハウスって言ったのに、なんでホテル買ったのよ?」
「橘さん曰く、維持費が」
「世知辛いわねー」
誰一人居ないホテルの食堂で、秘書の時任亜紀さんと共に食事。
ご飯、みそ汁、鮭の塩焼き、海苔、卵、漬物という定番メニューをメイドのエヴァが持ってくる。
私一人が逃げるのならばともかく、お付や側近団やメイドを連れての大移動である。
そのあたりが宿泊する施設として買ったのがこのホテルという訳だ。
なお、私が本来逃れるセーフハウスは情報漏洩防止の為に私にも教えられないらしい。
「このホテル、バブル期に建てられて建設費用の高騰で立ち行かなくなっていたんですよね」
「それを現金一括で買ったんだから喜ばれたでしょう?」
この時期は、91年にできた空港連絡鉄道が成田と東京を結ぶ主要ルートだった。
で、船橋というのは成田からは遠すぎて、東京からは近すぎるという絶妙に不便な位置で、そんな所にバブル期の高騰した建設費でホテルなんて建てたから利子だけで精一杯というのが目に見える。
なお、バブル期建設なのでバックヤードにも金がかかっているのが購入決定の理由だったりする。
「儲けるつもりはないですけど、維持費ぐらいは賄いたいそうで」
「まぁ、そのあたりは橘にお任せするという事で。
さーて、今日の世界情勢は……」
朝食後の紅茶を堪能しつつ世界情勢をスポーツ新聞で確認する私。
ちなみに、ケイカプレビューが走る伏竜ステークスは第九レース。
大体ホテルは10時がチェックアウトの刻限である。
うん。ホテル丸ごと買ってよかった。
午後までホテルで仕事したりのんびりしたりしつつ午後からは中山競馬場へ。
今回は西船橋駅から船橋法典駅まで電車で移動し、そこからタクシーである。
「中山競馬場まで」
「何だい。お嬢ちゃん。その年でお馬と遊ぶのかい?」
「勝ったらタクシーで帰ってあげるわ」
もちろん負けると徒歩で駅までというギャンブラージョークである。
歩きでもいいのだが、エヴァが実にいい笑顔で『やめてください』という圧力をかけてきたので断念したのである。
実にめんどくさい。
「嬢ちゃんきおったな!」
「こっちですよ。お嬢様」
完全にギャンブラーモードで天満橋満と岡崎祐一が馬主席から手を振る。
他の馬主に笑顔を見せながら馬主席へ。
ここでちょっと顔を笑顔からちょっとオコ顔に変える。
「あのさ。好き勝手していいとは言ったけど、なんで競馬場を救済した上に競馬場を作る話になったのよ?」
「そりゃ、上山競馬場と足利競馬場を助けたらそうなりますがな」
この時期の地方競馬は、ギャンブルの多様化もあって低迷が続き、相次いで廃止になっていた。
で、上山競馬場は山形県にあって当然のようにヘルプが自治体から上がり、足利競馬場は栃木県にあり救済した新田銀行が栃木県内のトップシェアバンクなのでやっぱりヘルプがやってきたのである。
さらに、宇都宮競馬場は建て替えが計画されており、その建設費用が賄えないとやっぱりヘルプが。
なお、宇都宮競馬場も栃木県である。
なので、足利競馬場は救済して新設宇都宮競馬場に一本化という方向に話が進んでいた。
「で、本音は?」
低い声で私が促すと、天満橋のおっさんがとてもいい笑顔でぶっちゃけた。
「椅子取りゲームの椅子は多い方が座れまっしゃろ?」
その意味をしばし考えて、呆れ声を出す私。
八百長とかの外道策ではないが、やっている事はグレーギリギリである。
「呆れた。
競馬場を抱え込んで重賞を増やす腹ね」
競馬と言うのは継承の競技であり、その継承は勝利という功績で評価される。
その勝利が増えるという事は走る馬の生存チャンスが与えられるという訳だ。
隣にいた岡崎が苦笑しながら書類を渡す。
「足利、宇都宮、高崎で組んでいる地方競馬で、支援の見返りとして『桂華院公爵記念』というダートレースを創設することで合意しています」
「そりゃ、お金を出すならそれぐらいするわよ」
私の顔は既にあきれ顔である。
なお、この後走るケイカプレビューもダート馬らしい。
多分、このレースにケイカプレビューが走るのだろうなと私は察してこの二人のおっさんの悪だくみに降参したのだった。
「ん?
足利競馬場と宇都宮競馬場はヘルプを出したのに高崎競馬場は出していないのね。
儲かっているのかしら?」
「高崎競馬場は群馬県が潰したがっているんですよ」
「高崎駅の近くにある立地活かして再開発で累積赤字を一掃っちゅう腹でんがな」
北関東の地方競馬救済という形で誘い水をかけたのだが、競馬場側は賛成なのに県側が良い顔をしていないそうだ。
これだから地方政治ってのは……
「これ、上の国レベルから圧力かけた方が良い話?」
「ついでに、馬券購入まわりも農水省に圧力をかけてください。
買いに行くの面倒なんですよ」
岡崎のぼやきに私は首を傾げる。
「え?馬券ってインターネットで買えないの?」
私の一言に目を丸くする二人。
顔に『その手があったか』なんて書いている。
「「お嬢様。是非進めましょう。それ」」
今日一番の二人の圧力に私は首を縦に振るしかできなかった。
後で知ったが、この時期は電話やファミコンで買っていた……ファミコン!?
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「勝てないならば、競馬場を買って、勝てそうなレースを作ればいいじゃない!」
細かな話は続きで。
ホテル云々。
足利競馬場経由で足利銀行調べたけど、ここが貸し込んで民事再生法申請した日本ビューホテルって成田ビューホテルの運営会社だったのか……買っとこう。
成田からは遠すぎて東京からは近すぎる
これは作者の実体験。
東京に行く時に成田空港のLCCを使ったのだが、行きは移動を考えるとそのまま都内のホテルの方が移動時間を考えると便利で、成田早朝のLCCを使う帰りは空港に近い方が便利なのでこの間のホテルは調べてパスしたという記憶が。
なお、羽田経由の場合、宿が京急蒲田駅周辺になる。
今日の世界情勢は
押井映画に出て来る千葉繁のキャラ。
『うる星やつら』のメガネと『パトレイバー』のシゲさんが同じセリフを吐いている。
募集
『桂華院公爵記念』 (多分裏でお嬢様杯とか呼ばれるんだろーな) の詳細募集。
場所は完成後の宇都宮競馬場でダートは確定なので、開催日・グレード・距離・を考えて頂けると助かります。
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