在留邦人から見たハリウッド四方山話 2004年春
2004年に入ったハリウッドでは既に多くのエージェントが動いているが、彼らの顔には疲労の色が隠せない。
理由は映画の続編傾向と撮影時間の長期化によるスタッフの確保が困難になりつつあるからだ。
昨今の映画業界は97年の豪華客船沈没を描いたロマンス映画の大ヒットをきっかけに製作費が急上昇しており、失敗すると映画会社の経営を直撃しかねない大規模プロジェクトになり果てている。
結果、安定的な収益を確保する事を前提とした続編の映画作成が増えており、2003年でもファンタジー古典の名作やSFと香港映画の融合作品の続編が劇場を賑わせ、現在でも米国大人気スペースオペラの続編や魔法学校の続編が撮影中である。
そのため、それらの作品に絡んでいる一流出演者だけでなく一流撮影スタッフまでもが拘束される事になり、新規プロジェクトを立ち上げる際には彼らの不在がネックになっているという訳だ。
そんなハリウッドをあざ笑うかのように全米に殴り込みをかけて大統領までもを敗北に追い込んだ問題作『サムライサメ亡霊VS水着公爵令嬢』が彼らエージェントの間で話題にならない日はない。
何しろスケジュールが空いているのが分かっているからだ。
そして、ことごとくお断りされているからだ。
低予算・短時間・最少人数にて全米を虜にしたこの超一流B級映画はハリウッドに多大な影響を与える事になったが、かといって他人が真似できないのが問題である。
まず、超一流の人材は低予算・短時間・最少人数で雇えない。
という訳で、エージェントは予算をかけてオファーをかけるのだが、この二人雇うのが尋常でなく難しい。
「撮影している間に、彼女が別の人間に撮られたらどうする?」
お断りをしている映画監督の台詞が全てを物語っている。
当たり前の話だが、高い金を払っている以上はその作品に全力をかけてほしいのはスポンサーとしては当然であり、よそに手を出してほしくないのだが、そのためには監督が熱望している彼女を主演に据える必要がある。
その主演女優へのオファーが難攻不落なのだ。
桂華院瑠奈公爵令嬢。
まだ中学生なのに、総資産は兆を超える桂華グループのお嬢様。
彼女にオファーを出したエージェントは当時の秘書にこういってあしらわれたという。
「で、ハリウッドはお嬢様に一兆ドル出せるんですか?ワシントンとウォール街は出しましたよ」
と。
桂華グループを取り仕切るムーンライトファンドの拠点はハリウッドもあるカリフォルニア州シリコンバレーにある。そっち方面では前々から有名で、世界ランクにも入る大富豪に納得できるオファーの金額を提示できるハリウッドのエージェントはいない。
また、彼女は対テロ戦争の広告塔でもあり、共和党の現政権と密接な関係にある為民主党系が強いハリウッドでは敬遠されているのも事実ではあるが、産業である以上稼げる人材を放置するほどハリウッドは無能ではない訳で、あの手この手を用いて必死にオファーをかけてその全てがブロックをされるという徒労にエージェントが疲弊するのもさもありなんといったところだ。
そんなエージェントを含めたハリウッド関係者をあざ笑うショートフィルムがイースター前に公開されて話題を呼んでいる。
元々はムーンライトファンドのシリコンバレー拠点のパーティーの余興として公開されたのだが、その映画監督と主演女優のコンビの新作である。
ある映画女優の生涯を主演女優が語るという数分間の一人芝居なのに、その主演女優の表情が、言葉が観客を魅了する。
そして、最後に堂々と書かれる『製作未定』の文字にパーティーの席は笑ったらしいが、あの手この手の手段でオファーを出していたエージェントは頭を掻きむしったのは言うまでもない。
そんなエージェントにとどめを刺すかのように日本では彼女のTVCMが公開される。
帝西百貨店グループのコンビニ全国出店を記念したCMで、彼女が歩くたびに背景が全都道府県の名所とそのコンビニになるというものだが、その表情やしぐさが可愛く、美しく、楽しいものに仕上がっている。
これの凄い所は、撮影に際しては現地に行って撮影をしたとの事で、強行軍にもかかわらず全国を巡った彼女と監督の妥協のなさとそこから仕上がった素晴らしい演技にエージェントの眠れない日々は続くだろう。
なお、ハリウッドとて手をこまねていてる訳ではなく、複数のファンドと手を組んで10数億ドル規模の資金を確保しようとした動きがあったらしい。
それが実現しなかったのはウォール街でもワシントンでもない第三者のせいだったというのだから面白い。
「彼女はいずれ欧州の舞台に立つ人間だ」
そのプロジェクトを潰したのは欧州系という噂話をまことしやかに聞くことになる。
イラク戦争の是非を巡って米欧は対立してしまい、その広告塔だった彼女にこれ以上政治的色をつけたくないという理由の他に、EUによって復権しつつある欧州の青い血たちが対露を見据えてというきな臭い話である。だからその噂話もこんな言葉でしめられる。
「欧州も彼女に一兆ドル出そうじゃないか」
映画ではなく政治という巨額の金が動く舞台で歌う主演女優をハリウッドが捕まえることができるのか?
それは神ではなく政治が決めることになるだろう。
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旅立っていった偉大なる方々へ敬意を。
星野架名先生・三浦建太郎先生・田村正和さん。
お三方のご冥福をお祈り申し上げます。
この話を作り出して、まさかお二人の悲報を聞こうとは……
星野架名先生のコミックは『緑野原学園シリーズ』で知ったけど、心に残ったのは映画俳優ビリー・エメラードの作品『アイム アライブ』と『レイラ』だったりする。
オカルトネタとして『春風祭の夜』とか使いたかったのを読み返して思い出す。
映画の元ネタ
『タイタニック』。
『ロード・オブ・ザ・リング』。二つの塔と王の帰還が2003年公開。
『マトリックス』。 リローデッドとレボリューションズが2003年公開。
『スター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐』。
『ハリーポッター』 2004年アズカバンの囚人公開。
書かなかったけど、2003年の映画は当たり年なんだよな。
『キル・ビル』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』、『ラスト サムライ』がこの年出ている。
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