お狐様へのお礼参り その4
京都参りから帰って3日後。
神社の造営予定地にやってきた私たちは早速頂いたものを祀る事にした。
というか、こんなに早くできるとはと思っていた私は、小ぢんまりとした社にちょっと意外性を感じたのは内緒だ。
「これ、ちっさくない?」
「小さいわよ。祠だもの」
何故か巫女服を着ている神奈水樹が解説してくれるのだが、どう見てもコスプレ……ゲフンゲフン。
なお、蛍ちゃんも巫女服なのだが、こっちは本職らしく見えるのがまた……
この小さな神社……祠っていうらしいのだが、それは現在三人の宮大工さんの手で最後の組み立てが行われており、神主さんの装束をした人が儀式の準備の確認をしていた。
「ここに立派な神社を作るのは時間がかかるでしょ。
折角ご神体を頂いたのだから、まず祠に祀って、それから神社ができた後にご神体を本殿に移す訳」
「へー。
で、ご神体が移った後のこの祠はどうするの?」
「他の神様に入ってもらうわ。
ありがたいことに鬼子母神由来の柘榴の苗を頂いたし、鬼子母神様に来てもらおうかなと考えている所」
なるほど。
使い道があるあたり、うまくできているなぁと感心する。
「あと、事後報告になるけど、他にも祠ができると思う」
「それは構わないけど、何で?」
「神社再建に伴って、土地神とかこの地の忘れられた神様も祀るのよ。
もちろん神様も良い場所にお引越しできてほくほく。こちらも祟られずにほくほく」
何故かついてきた橘が苦笑していたので聞いてみたら、バブル期の地上げの際にこの手のケースがとてもよくあったとか。
人間の儀式は前例と背景があるという教訓である。
「ところでさ」
「なによ?」
「蛍ちゃんはわかるけど、何であなたが巫女服着ているの?」
「現実ってファンタジーより厄介でね。
開法院さんのお爺様の意地悪」
「うわぁ……」
話をまとめると、開法院家は日本系オカルトの大家だった事もあって、この件について徹底的な嫌がらせをしていた。
とはいえ、表立って意地悪をするのではなく、裏から足を引っ張る系の意地悪である。
神社設立に伴う法的なあれこれに対して、細部を突く形での妨害である。
これについては金でぶん殴るが効きにくい分野であり、自治体から文部科学省から、お稲荷様だから伏見稲荷大社からの分社なので伏見稲荷大社の筋通し……建物を建てるよりこっちの方が実にめんどくさい事この上ない。
さすがに神奈一門では対処しきれずに手伝ったのが橘だった。
だからここに来ていたのか。
「けど、その嫌がらせはこの間からピタッと止まったのよねー」
「何で?」
私の質問に神奈水樹は蛍ちゃんが持っている鎌を指さす。
納得。
オカルトの人間が、神様相手にいやがらせをする事の意味がわからない訳がない。
神事が始まり、この日の為だけに呼ばれた神主さんが祝詞を読み上げる。
かくして、国家百年の贄を用いた繁栄の策は、時代遅れと主張する私のわがままと神様の気まぐれによって完全にとん挫する事になった。
「事務等の人間はこちらで用意いたしますが、この神社は神奈様と開法院様のお二方が巫女として盛り立てていかねばなりません」
建物を建ててはいおしまいとならないのが世の常で、作った以上は維持管理してゆく必要がある訳で。
そして、維持管理にはお金がかかるのである。
橘が来ているのはこのあたりの確認もあったのだろう。
「費用こっち持ちで学校に寄進するんじゃないの?」
「そのためにも、宗教法人化する必要があるのです」
金を出すのはこちらなのだが、帝都学習館学園に寄付という形で出すと、満額回答でも文句を言う奴が出るからだ。
『何で学園の金なのに神社の費用になっているんだ?』
と。
理事会や生徒会を金で黙らせてもこの手の疑問と正義は権力者でない人間から確実に上がる。
監査請求とかで私の名前が出て一躍政治案件化というのが最悪のケースである。
まぁ、悪役令嬢としては正しい仕掛けなのだろうが。
で、宗教法人化して金の振込先を別にするのだ。
なお、宗教法人には税金逃れの手があるのだが、今回はその手のダーティーな手はパス。
まっとうな宗教法人として形を整えたのだが、問題があり、神様へのお相手が居ないのだ。
今回呼んだ神主さんも、開法院家の圧力を気にしない日頃会社員をしている二足の草鞋の神主さん……というか、帝西百貨店に勤めている人で、
「祝詞ぐらいはあげますが、毎日神様の御相手するのは勘弁してください!」
と予防線を張られる始末。
信仰とガチオカルトは別という話で、まぁご利益はあるだろうけど荼枳尼天様がやってくるとなるとそりゃ引くわな。
なお、この神主さんはボーナスと昇進でとりあえず囲ってこの宗教法人の代表役員になってもらうことにする。
逃がさん。少なくとも私が破滅するまでは。
話がそれたが、そんな神社の巫女な訳で、できるといえばたしかに神奈水樹と蛍ちゃんぐらいしかいない。
「私はいいわよ。
神道も勉強するいい機会だと思うし」
元が西洋タロット系魔女なのだが、あっさりという神奈水樹。
神道にはそのあたりのあいまいさがあるので、これでも巫女ができるというのが強い。
ジト目で私が神奈水樹を見ている横で、『がんばります!』のポーズをしている蛍ちゃん。
やる気は満々である。しゃべらないけど。
「こちらが、神社の見取り図です」
橘が設計図を広げる。
建物は流造の本殿に拝殿をくっつけるよくある形の神社建物で、神社の周りに溝を掘って水を流す事で神域を主張する。
溝の前に橋を通して朱色の鳥居を作り手水舎と溝の水は井戸を掘って賄う。
「立派な神社じゃない」
「そりゃ神社を建てるんだから」
思わず出た私の言葉につっこむ神奈水樹。
いやまぁ、なし崩しに七不思議に巻き込まれて後手後手にオカルトに絡んでいたので、ここに至るまで全体像が見えていなかったのだ。
その一方で現実的な配慮も見える。
端の方に社務所を建てて、北樺警備保障の人間を警備に入れておく。
また、警察が巡回に定期的に来るようにして、万一の際のパニックセンターとしても使用。
「要る?これ?」
「役に立たなくても、しなくて害に遭われると困るので」
橘の苦笑にこれは桂華側ではなく外の、警察の警護係とか米国からの要請なんだろうなぁと察する。
エヴァに聞いたところ、あの一件ホワイトハウスまで話が行く大事になっているとか。
それとなくフォローしておかないと。
「まぁいいわ。
とりあえず、お神酒を供えて解散にしましょう」
私の一言でお神酒を出そうとして固まる神主さん。
橘と私が横から覗くと、栓が開いていないのに、中が空になっていた。
「……」
「……」
「あ。供えた後で食べるつもりだった、桃の詰め合わせ食べられてる」
神奈水樹の間延びした声に蛍ちゃんがつんつんと私をつつく。
見ると笹にくるまれていたお供え用のいなりずしが綺麗になくなっていた。
「見なかったことにしましょう」
私の結論に全員が黙って首を縦に振ったのは言うまでもない。
かくして、本殿ができるまでこの祠には毎日いなりずしがお供えされるのだが、いつもいつの間にかきれいになくなっており誰が食べているのかわからなかったそうな。
めでたしめでたし。
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祠
正しくは外宮と言う。
このあたり神社の建て方を調べてできた話である。
ネットは便利でこの手の祠の価格と値段も分かるのがまた。
多分三百万以上はこれにぶっこんでいると見た。
大きな神社の小さな祠
建てた際に外宮として祀る事で『地元神様もうちの系列だから』という神様のフランチャイズ化戦略の一つになる。
また、設立者の氏神を祀る事で『我が家の氏神様は神様の系列だぞ』とマウントをとるという戦略もあり……
こういうのが神様から人で起こったのが、バブル期の地上げに絡む悲喜こもごもである。
百貨店の神主さん
デパートの屋上に小さな神社を見たことが無いだろうか?
ああいうのは自前で管理者を用意して、その社員が神主のまねごとをするのだ。
また、百貨店や物流系は全国展開で地元有力者を取り込むので、その手の神職系有力者を社員として雇う事で地元進出を有利にという側面もあった。
横溝正史の『金田一耕助シリーズ』で見えて来る、田舎で逆らったらまずい人間『坊主(神主)・医師(教師)・村長』の中に警察が入っていないのはいかに当時の田舎が中央の統一ルールではなく田舎のローカルルールで運営されていたかを知る一端だと思っている。
なお、昭和が終わり平成も終わった今、この制度が残っている所の方が少ない。
コスプレ巫女神奈水樹
私のエロの源流の一つが『顔のない月』の倉木鈴菜であり、『DISCODE』の和泉鏡華だったりする。
なんでこれが許されるのかというと、神奈水樹の元属性が『スーパーケルトビッチ』系列の地母神信仰であり、荼枳尼天様的に祀って(やって)いる事が同じなのでいいかというノリである。
地母神様=荼枳尼天様
これが許される日本神道よ……
学校と宗教とエロで本当に凄かったのは千之ナイフ先生だと思うが、あの背徳さと宗教観は今でも一見の価値はあると思う。
パニックセンター
私がこの言葉を知ったのは『うる星やつら ビューティフルドリーマー』。
もちろん、神社からハリアーは出てこない。
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