あるFBI捜査官たちの旅行レポート

 かつて、大日本帝国と名乗っていたこの国の国政にオカルトがどの程度関わっていたのか?

 戦後、連合国の行政指導という形でその古き因習と決別したようにも見えたが、水面下で生き残っていた事は古参のFBI幹部職員ならば知っている事だろう。

 今回は、そんな古参幹部が知っていたオカルト絡みの事件の最新のケースを報告したいと思う。




 明治維新と呼ばれる国内クーデターによって武家政権である徳川幕府は崩壊したのだが、その過程で復権したのが京都や奈良に在住する公家と呼ばれるかつての貴族階級であった。

 武家政治と共に身分秩序が崩壊したこの明治維新の際に、彼ら公家は己に流れる青い血を武器に新しい支配者である新政府要人たちや資本家たちを取り込むことで生き残りに成功。

 彼ら貴族階級が大戦前に時の首相にまで上り詰めた事で、その権勢は頂点に達する。

 同時に、彼らが武力を持たなかった事、特に軍と関係が良くなかった事が軍の暴走を止められない要因になるのだが、話がそれるのでここでは置いておこう。

 重要なのは、公家宰相が政権を担った際に、そのブレーンとしてオカルトの家である開法院家当主が入っていた事であり、彼の予言を信じた人間の一人に桂華院彦麻呂が居たという事だろう。

 当時の警察官僚でありゾルゲ事件の処理を担当した桂華院彦麻呂は、この時期ぐらいに開法院家当主と知り合い、その予言に従い戦中戦後に影響力を拡大し、フィクサーとして暗躍する。

 帝都学習館学園の現敷地が完成したのは、戦中後半でこの国が連合国に寝返る辺りで、それ以後の桂華院彦麻呂の勢力は急拡大する。

 特に激変する国際情報の取り扱いが抜群に上手く、綱渡りに等しいバランス感覚で枢軸側を見切り連合国側に寝返った最大の貢献者が彼であり、その背後に開法院家の予言があったという。

 だが、それも満州戦争において陰りが出て来る。

 この時期、既に連合国によるこの国への行政指導が始まっており、国家神道の解体を名目にその手のオカルト的因習との決別を強要していた。

 桂華院彦摩呂の優れていた所は、使えなくなった開法院家を見切り、新たな情報源を確保してこの国の政財界にフィクサーとして残り続けた事だろう。

 そうやって彼に接触した人物の一人に神奈世羅が居た。

 このレポートは開法院家の協力が得られず、神奈世羅および神奈一門の神奈水樹の協力によって作成されている事に留意してほしい。




 開法院家の呪術の特徴は予言にある。

 その予言はよく当たると言われていたが、代償も大きく生贄を求めるものだったらしい。

 このあたりは日本側の非協力的姿勢もあってあまりよくわかってはいないが、『家の繁栄が赤子一人の命で賄えるなら』という利用者の言葉が残っている。

 ただ、元警察官僚であった桂華院彦麻呂氏がその手の犯罪を隠ぺいしたという記録はなく、利用者の死亡報告書を見ても栄養失調や病気という記述がみられている。

 そういう赤子の死後からほどなくしてそれらの家が経済的に繁栄してゆくのだ。

 この国が戦後から高度経済成長期に入ろうとしていたというのもあったのだろうが、それらの結果が開法院家の呪術の効果として未だ語り継がれているのは事実である。

 今回の事件の現場担当者である神奈水樹は我々の質問に対してこういう回答をしている。


「運命のレバレッジ。

 開法院家の呪術の本質はそこにあります。

 予言云々は副次的な効果でしかなく、本質は対象の人物の運命を幸運もしくは不運に傾ける事で、歴史を捻じ曲げるのです」


 首を捻る我々に彼女はとても分かりやすい例えをしてくれた。


「1963年、ダラスの銃弾がそれたとしたら、歴史はまったく違ったものになっていたと思いませんか?

 それを成すのが開法院家の呪術です。

 たとえばあの事件の際、運転手に不運がついて彼に銃弾が当たったなら?

 もしくは、大統領に幸運がついて他の人に銃弾が当たったら?

 どちらをとっても、同じく我々の歴史とは異なる歴史を辿ることでしょう」


 開法院家の呪術には赤子の代償が必要うんぬんについては、我々の科学的な調査では確証が得られなかった。

 当時のこの国の幼児死亡率はまだ高く、それが改善の方向に向かったのが戦後からで、そのあたりから開法院家の呪術の成果は華族特権によって闇の中に覆われているからだ。

 上流階級の更に庶子あたりまでも調査する場合、その可能性となった幼児死亡例は膨大で、どれが呪術と関係があるのか探り切れなかった。


 彼らの呪術の手法について分かっている事について記す。

 開法院家の呪術が表向きは予言であり、その本質は対象者の幸運・不運を操る事による歴史改変にあるという事は先に述べたと思う。

 その幸運・不運の付与をかつては座敷童という式神を用いて行っていたという事は今回の調査によって明らかになった。

 だが、かつては国内だけでコントロールできた歴史は二度の世界大戦を経て国外まで網羅せねばならなくなり、そのレバレッジコストが膨大に跳ね上がったのは想像に難くない。

 開法院家はそのコストの調達として帝都学習館学園を利用した風水陣を……




補足

 神奈世羅についてはCIA協力者リストの……




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自分で作って何だが『運命のレバレッジ』という言葉は中二病ぽくって好き。


桂華院彦麻呂に開法院家は座敷童を送り込んで桂華院家の繁栄と国家の繁栄を=にしたというのが真相。

ところが、座敷童製造装置である帝都学習館学園の風水陣が戦後連合国の行政指導で使えなくなり、その保安要員兼究極兵器として桂華院の次代、つまり瑠奈に憑いてこの国の繁栄をもたらすはずだったのが開法院蛍という裏設定。

それを瑠奈自身が壊したというのだから開法院老の怒りと嘆きはいかばかりか……

もちろん、そのあたりの話を橘以下大人がシャットアウトしている。

今回の話もFBI周りにはあいまいにした話しかしていない。


1963年ダラスの銃弾

 ケネディ大統領暗殺事件

 感想で『座敷童で歴史が変わるものか』という意見が結構あったので、このあたりの説明をしておこうという意図でこれを書いている。

 火葬戦記作家なんてやっていると、現在の歴史がどれほどあやふやで脆くて運命に翻弄されているかを知っているだけに、そのあたりを否定されると少し困るのだ。

 具体的に言うと、瑠奈のお爺様である桂華院彦麻呂による少しマシな太平洋戦争終戦あたりとか……

 活動報告にも書いたが、『虚構推理』 (片瀬 茶柴 (著), 城平 京 (原著) マガジンコミックス) コミック一気読みでインスピレーションが沸いたので仕上げた。


一番下の補足

 『CIAスパイ養成官 :キヨ・ヤマダの対日工作』 (山田敏弘 新潮社2019年)を紹介してくれた人に感謝。

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