お嬢様のグルメ 深夜夜食編

 ピコピコ……ピコピコ……ピコピコ……


「……」


 ピコピコ……ピコピコ……ピコピコ……


「ふぅ……」


 きりがよい所でセーブをして、私は背伸びをする。

 時間は程よく深夜である。

 つまり、


 ぐぅー


 おなかが、すいた。




「何か作ってもらうのも悪いわね。

 コンビニに行くか」


 九段下桂華タワーにはちゃんとコンビニも入っている。

 こういう時に24時間なのはありがたい。

 という事で、パジャマの上にジャンパーを羽織ってお財布から千円とICカードを持つ。


「誰かいるー?」


「どうなさいました?お嬢様?」


 とことこと玄関の方に歩いて声をかけると、今日の警備担当らしいメイドのアニーシャが顔を出す。

 なお、顔は私のジャンパー姿を見て『あー』みたいな顔をしてやがる。失礼な。


「一階のコンビニに行くんで、一応声をかけておこうと思って」

「で、『はい。いってらっしゃい』と言えないのが私の立場なんですけどね」


 なかなか小粋な返しをするアニーシャである。

 とはいえ、私も慣れたもの。

 こういう事をやり続けていると、それ相応の知恵と経験がつくというものだ。


「こっそりと隠れて出ていかない私の成長を褒めてもいいのよ」

「ええ。その度に私どもがお嬢様から何度段ボールをはぎ取ったか覚えていないのですけど」

「……なんとか蛍ちゃんの技を習得したかったのよねー」

「最後の方、あの方については赤外線使っていたんですよ。

 それでも見つからなかったんですが……」


 そんな蛍ちゃんの技を習得したいとそりゃ頑張って、見事メイドや警護や執事の橘にまで懇願されて諦めたという経緯がある。


「だって、かっこいいじゃない」

「ええ。それでワンマンアーミーとかしそうなので、全力で御止めした訳で」

「アニーシャ。

 貴方、私の事なんだと思っているの?」

「今ここで成田空港テロ未遂事件の画像流しましょうか?」

「ごめんなさい。私が悪うございました。アニーシャさま」

「わかれば結構です」


 もちろんこの掛け合いの間に空いている警護の人間が呼ばれて、先にコンビニの方にチェックが行っているのだろう。

 エレベーターが動いて、中から警備隊長の中島敦さんが姿を見せる。


「中島さんが来たのか。

 なんか申し訳ないなぁ」

「だったらおとなしく戻っていただきたいのですが?」

「やだ」


 かわいく拒絶するが、今の私は小腹がすいているのだ。

 深夜のコンビニは人を誘惑する悪魔の住処である。


「お菓子、ジュース、デザートが私を待っているのよ!」

「言えば厨房でお作りしますのに……」


 ため息をつくアニーシャと中島さんを連れて私はエレベーターを使って一階のコンビニへ。

 入店音とともに私はお菓子コーナーに駆け寄る。

 店内に客はおらず、店員が私を見て頭を下げる。

 ここの店員はバイトでなく、警備員や護衛メイドが出向しているらしい。

 その理由は、こうしてお菓子コーナーに突貫する某お嬢様の為だとか。

 それを知らずにコンビニ強盗がここを襲って返り討ちにあい、捕まった上に隣の九段下交番にそのまま運ばれるという笑い話も起こっている始末。

 狙うは、この手の王道のお菓子であるポテチ。

 最近販売されたコンソメ系にはまっているのだ。

 さらにそのまま小さなチョコチップクッキーを手に取る。


「またそれですか?」


 そんな事を言いながらアニーシャはさりげなくファッション雑誌を手に持つ。

 見ると、特集で私が出たやつだった。

 それはそれで、何か恥ずかしいぞ。


「こういうのはまず定番でいいのよ。

 で、ここでデザートをチョイスってね♪」


 店内の音楽でリズムを取りながらデザートコーナーへ。

 プリンを手に持った所で両手が塞がり、アニーシャが用意してくれたかごにポテチとチョコチップクッキーとプリンを入れる。


「こうやって買い物をみると、お嬢様結構庶民的ですね」

「私を何だと思っているのよ?」


 そんな事を言いながら、中島さんは裂きイカと柿の種が入ったかごを持っている。

 アニーシャの目が自然と厳しくなる。


「そのままお酒のコーナーに行ったら怒りますからね」

「さすがにそこまでしないさ。

 あと15分でシフト交代なんで、仕事の後のビールはその後に買いに来るよ」

「え?

 今、買えばいいじゃない?」


 よくわかっていない私の一言に、アニーシャが厳しめの顔で言い切る。


「その15分お酒を我慢できると?

 仕事が終わるからいいやと飲んで、致命的な攻撃があったりするんです。

 シフト交代前はどうしても気が緩むから、そういう隙を作るものを排除するのが大事なのですよ」


「へー」


 素直に感心する私。

 なお、ここで時間がオーバーして交代時間になっても、私を送ってから交代の引継ぎの為に中島さんは警備詰め所に戻って、交代してからここにお酒を買いに行くことになる。

 なんかそれはそれで申し訳ない気がするが、私はひとまず忘れて最後のジュースの所に出向く。


「ここでいつもならばグレープジュースだけど、今日は何だか違う気分なのよね。

 何か新しい……おや?」


 アップルティー発見。

 見たことないメーカーなので試しに買ってみよう。


「よし。

 買い物終了。

 レジに行くわよ」


「はいはい」

「かしこまりました。お嬢様」


 支払金額は千円でおつりが来る金額だった。

 なお、中島さんとアニーシャの分も払おうとしたのだが、丁寧に拒否された。 




「おかえりなさいませ。お嬢様」


 帰ると、メイド長の斉藤佳子さんがとても冷たい目で待っていた。

 私はキッとアニーシャを睨みつける。


「チクったわね!アニーシャ!!」

「……どうしてチクらないと思ったんですか?」


 あ。中島さん逃げた。

 無常にエレベーターが閉まった音が響き、佳子さんは無常に言い放った。


「とりあえずお話しましょうか?

 買ってきたお菓子を食べながら。ええ」


 なお、買ったお菓子はおいしかった。




────────────────────────────────


今日のお嬢様のメニュー


 カルビーポテトチップス コンソメWパンチ

 販売が2003年からで、コンソメが好きだった私は出てから定番のように買うことになる。


 オハヨー乳業 紅茶りんご

 2010年に販売が終了している。これ好きだったのになぁ……


 ブルボン プチチョコ チョコチップクッキー

 小腹がすいて甘いものが欲しい時に重宝するのだ。

 値段もお手頃なのも魅力。


 グリコ プッチンプリン

 もちろん、お皿に入れてプッチンする。

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