文化祭 中等部編 後夜祭

 文化祭最終日。夜。

 打ち上げと後夜祭という事で、大いに盛り上がる。


「じゃあ、お疲れ様」

「「「「「おつかれさまーーーーー!!!」」」」」


 A組E組合同打ち上げだが、残ったジュースと菓子パンに買い込んだ出店の食べ物を並べてのパーティである。

 他のクラスでもざわめきと歓声が上がっているので、よそでもこういう打ち上げが行われているのだろう。


「この後花火大会だっけ?」

「校庭でキャンプファイヤーもあるって」

「ダンスパーティーもするんでしょ?」


 みんなの顔は楽しそうだ。

 この顔を見ていると、参加してよかったなと本当に思うのだ。

 私は、そんな宴から離れて壁の花としてそれを見ている。

 声が飛んだのはそんな時だった。


「瑠奈。

 こんなところで何をやっているんだ?」


 コーラ片手に栄一くんがやってきた。

 私が教室の端で打ち上げを楽しそうに見ていたのに気づいたらしい。


「終わったなって余韻にひたっている所」

「まだ花火大会もキャンプファイヤーもあるんだが」

「そういう事をいっているんじゃないのよ。ばーか」


 優しく微笑みながら、グレープジュースの缶を揺らす。

 校庭の方から楽しそうな音楽が聞こえてくる。


「誰が言ったのか忘れたけど、自分の行いを数字化してみろって言った人がいてね。

 この学園祭、中等部だとあと2回。高等部を入れてもあと5回しかできないのよ。

 そう考えると、この瞬間が愛しくなっちゃってね」


 そのままベランダに出で校庭の方を眺める。

 中央の焚き木台に火がつけられた所だった。

 その歓声がここまで届く。


「なるほどな。

 けど、こんな言葉もあったりする。

 『もうこれで満足だという時は、すなわち衰える時である』。

 まだ衰えるには早いよ。瑠奈」


「誰の言葉よ。それ」

「渋沢栄一。

 実を言うと、俺の名前はそういう人になれと彼の人からとられたらしい」

「あー。納得」


 くすくすと私は笑う。

 今更だが、こうやって名前のエピソードがたしかあったなと思い出したからだ。


「で、満足しない栄一くんは、私をどこに連れてってくれるのかしら?」

「そうだな……そのまえに、時間だ」


 ぱっと光ったと思ったら、あとから音が轟く。

 花火が上がったのだ。

 みんなその音にきづいてベランダに出る。


「わぁ……綺麗……」


「あと5回じゃなくてまだ5回もあるんだ。瑠奈。

 次はもっと良く、その次は更によく。

 俺たちと瑠奈ならできるよ」


 花火の音が心臓の音をかき消す。

 その灯りに映った栄一君の嬉しそうな断言がうれしくて、まぶしくて。


「二人して何を話していたんだ?」

「栄一くん。ぬけがけはずるいよ」

「ちゃっかり割り込んでくる二人がそれをいうか。それを」


 すぐにじゃれ合う男子三人が楽しそうで。

 そんな中に、私も入っている。

 その事実が嬉しくて、そこから出ないといけない未来が悲しくて。


「最後まで楽しみましょうか。

 みんなでキャンプファイヤーの方に行く?」


「「「「「さんせーい!!!」」」」」


 私の声にみんなの返事が唱和される。

 明日香ちゃんがいる。蛍ちゃんもいる。

 橘由香も神奈水樹も華月詩織さんもいる。

 留高美羽も……何でメイド服脱がないのだろう?彼女。


「そうね。最後までお祭りは楽しまないと」


 この生そのものがお祭りみたいなものだ。

 だったら、楽しまないともったいないだろう。


「ほら。行こうぜ。瑠奈」


 当り前のように栄一くんが手を差し出す。

 私は、さも当然のようにその手をとった。


「ええ。

 ちゃんとエスコートして頂戴」


「はいはい。

 わかりました。お嬢様」


 こうして中等部一年の学園祭は幕を閉じた。

 最後にみんなで撮った写真は大事な宝物として、アルバムにしまっておこう。




────────────────────────────────


文化祭書いてて思ったのは、『私もこういう話かけるのか』という自己再発見だった。


自分の行いを数字化してみる

 誰が言ったのか覚えていないのだが、元は親孝行の大事さを伝えたい言葉だったりする。


「盆と正月に故郷に帰って、親孝行するとしましょう。すると年2回だ。

 今の人の寿命を80歳だとして、18で家を出たならば62年。

 貴方は最大62年×2回の124回しか親孝行ができないのですよ。

 だから、親孝行をちゃんとしてあげなさい」


こんな言葉だった覚えがあるのだが、何処で聞いたんだろう……


8/1 2200追記

感想からたしかにおかしいよな。親の年齢ないじゃんと分かるのだが、こう聞いた覚えがあるからそのままにしておく。

間違って覚えたならいいが、こう言ったのならば、その時に突っ込まないぐらいの話だったという事で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る