文化祭 中等部編 一日目

 文化祭当日。

 天気は晴れ。

 格好の文化祭日和である。


「いらっしゃいませー。

 メイド喫茶『ピュア』にようこそ」


 私は留高美羽と接客係となったのだが、まぁこれが途切れない。

 開店から一時間待ちの行列である。


「いや、今更だろ。それ。

 お前は基本スターだから、それがメイドして接客していれば来るだろうに」


 とは会計係として私につっこむ栄一くんのお言葉。

 予想していたらしく、外の行列の声はこんな事を言っていた。


「これ以上並んでも、桂華院瑠奈のメイド姿は拝めませーん!」

「次の桂華院瑠奈のシフトは13時からでーす!」


 いいのか?それは?

 私が営業スマイルのまま額に汗をつけていると留高美羽がぽつり。


「ちなみに、春日乃さんのシフトだと常にクラスのキレイどころが接客係に入るようになっております」


 賢いというかあざといというか……

 ほぼうちの店の黒字化は確定したようなものである。

 どーりで、他の店の倍近いジュースと菓子パンが置かれた訳だ。

 使いきれなかったら打ち上げで消費するとか言っていたが、使い切るめどはあったんだろうなぁ。


「桂華院さんに留高さん。

 お客様の食券を回収して、ジュースと菓子パンをお出しして」


「はーい!

 お客様。食券を回収させていただきます」


 にっこりとあざとかわいいお嬢様スマイルでお客様を魅了して、ジュースと菓子パンを出してゆく。

 そして、お店の方のジュースと菓子パンが無くなったのでバックヤードに取りに行くことになるのだが、入り口は行列ができて危険である。

 そこは抜かりはない。


「あ、ベランダ見てよ!」

「あれもしかして桂華院瑠奈!?」

「うわ。メイド姿でかわいー!」


 間のクラスがお化け屋敷と展示なのを良い事に、ベランダの通路を利用させてもらったのだ。

 同時に外の客に、メイドの顔見世ができるので宣伝にもなると。

 そして聞こえるシャッター音。みんながデジカメや普及しだしたカメラ付き携帯で撮りだしているのだ。

 この通路があるおかげで、私も安心して移動できるし。

 笑顔で手を振りながら、ジュースと菓子パンを取ってきてお店の方に戻る。


「お待たせいたしました。

 ジュースと菓子パンでございます」


 そんなこんなで一時間経過してシフト交代。

 バックヤードに向けて歩く私は笑顔のままぼやく。


「メイドってこんなに大変なのね」

「そうですよ。

 メイドはとにかく体力です!」


 本業ゆえ汗一つかいていない留高美羽の突っ込みに納得せざるを得ない私が居た。



「交代よ」

「りょーかい」

「お客は減っているみたいだな。

 桂華院目当ての客がいかに多いかわかるな」


 バックヤードで次のシフトと交代する。

 今度はバックヤードで待機なのだが、待機相手は会計係で一緒だった栄一くんである。

 そして、今のお店は明日香ちゃんがメイドで光也くんが会計係である。

 時間フリーなのだが、当然のようにいる留高美羽は気にしないでおこう。


「メイドってそういうものなのです」


 の一言で返されるだけだし。

 やってみてメイド凄いなと今更ながら理解する。


「瑠奈はこの後どこに行くんだ?」


「とりあえず、裕次郎君の所かな。

 剣道部のお店、焼きそば屋やるって言っていたし。

 高橋さんも駆り出されているって」


 メイド服から学生服に着替えてクーラーボックスに入っているジュースを一つ拝借。

 なお、身内利用は50円なり。

 私はグレープジュース。

 栄一くんはコーラである。


「はい。コーラ」


「サンキュ。

 あれ?

 高橋の奴剣道部所属じゃないだろう?」


「道場と剣道部の掛け持ち系の部員が多くて、看板娘として引っ張られたそうよ」


「高橋もかわいそうに。

 瑠奈で売り続けているうちが言える事じゃないが」


 あっという間の一時間だが、怒涛の一時間でもあった。

 おかげで、グレープジュースのおいしい事。おいしい事。

 飲み終えた缶を缶専用ゴミ箱に捨てて私は尋ねる。


「栄一くんは自由時間どこに行くの?」


「考えてなかったが、瑠奈と一緒に裕次郎の顔を見に行くか」


「そういうと思った」


 バックヤードの仕事の一つは、クーラーボックスにジュースを補充し続ける事である。

 氷水が入ったクーラーボックスからジュースを取るのだが、取っていけば当然無くなる訳で、冷えるにはそこそこの時間が必要である。

 という訳で、飲んだ分のジュースを箱から出してクーラーボックスに入れてゆく。


「二日目はたしか瑠奈歌うんだろう?

 みんなで見に行くから」


「ありがとう。

 シフト調整したみたいだけど、大丈夫なの?」


「客の大半はお前目当てだからな。

 廊下を覗いてみろ。行列がはけてやがる」


 という栄一君の言葉に従ってドアを少し開けて覗くとたしかに私の時には長く伸びていた行列が見事に消えていた。

 現金なものである。


 つんつん。


「「っ!?」」


 唐突な背中つんつんにびっくりする私と栄一くん。

 二人同時に振り向くと、そこには次のシフトで入る蛍ちゃんがメイド姿で微笑んでいた。


「なんだ開法院か。

 びっくりさせないでくれ」


「無理じゃない。

 蛍ちゃんこの手のいたずら、地味に好きだから」


(こくこく)


「ずっと控えていたのですけど、開法院さんはいつ入られたのでしょう……」


 留高美羽のぼやきに、私たちは無視する事で答えた。

 というか、考え出すと怖いし。

 なお、蛍ちゃんは隣のお化け屋敷に入って、みつからず驚かされずに出てきたという武勇伝を語ってくれたのだが、何やっているのだろう蛍ちゃん……




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なお、『Pia♥キャロットへようこそ!!』からの流れで元祖コスプレ喫茶『カフェ・ド・コスパ』ができるのだが……この世界、九段下桂華タワーのメイド喫茶がブームに火つけているんだよなぁ……


なお、イメージを固めるために、ロシア人メイドで画像検索をかけると赤い服に白のエプロンで「ほぅ……これはこれで」となったのは内緒だ。

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