文化祭 中等部編 協議

 文化祭実行委員会中等部学年会合。

 初等部・中等部・高等部をまたぐ帝都学習館学園文化祭でクラスの出し物を調整する会合である。

 ここでそれぞれのクラス委員と式典委員が顔を合わせて、クラスの出し物を最終的に決めるのだ。


「るーなちゃん」


 当り前のようにクラス委員である明日香ちゃんがつつつと寄ってきて談合開始。

 互いに何を出すつもりで、何を提供し譲歩するのかを会議前に話し合う。


「明日香ちゃん。

 うちは喫茶店が第一候補。そっちは?」


「お化け屋敷。

 蛍ちゃんが張り切っちゃって『色々連れて来る』って」


 おい。

 その色々ってそっち系じゃないだろうな?

 私のジト目に明日香ちゃんは目を逸らした。

 1-Eのお化け屋敷には行かないようにしよう。

 他の委員とも会議前に話をした結果、中等部一年のクラスの出し物希望はこうなった。


1-A 喫茶店

1-B お化け屋敷

1-C お化け屋敷

1-D 展示

1-E お化け屋敷

1-F 室内ゲーム


「思ったよりお化け屋敷が人気だな」

「派手で楽しいからね。お化け屋敷。

 しかし3クラスか……勝ち残れるかなぁ」


 栄一くんの声に明日香ちゃんが答えるが頭を抱えている。

 このまま行けば、バッティングを避けたうちの喫茶店、1-Dの展示、1-Fの室内ゲームが当確となる。

 で、3クラスで協議となって、おそらく1〜2クラスは別の出し物をする事になるだろう。


「まぁ、被ったのはある程度想定内。

 とりあえず、話し合ってくるわ」


「頑張れ~」


 明日香ちゃんを見送った後で栄一くんが光也くん相手に確認している。

 自分たちがそういうケースになった時のことを考えているのだろうな。


「あれ、話し合いで決まらなかった場合は?」

「実行委員会立ち合いの元でくじ引きだな。

 一個裏技があって、隣接するクラスが同じ出し物をする場合は一つとして数えるという事例があるんだ」


 部屋が隣接しているので、片方のクラスを丸々裏方に仕えるし、シフトも一クラスでするより余裕が出るというのもメリットだ。

 また、クラス間の交流という名分もあるので、結構使われるらしい。

 そこまで考えて私は気づいた。


「となると、明日香ちゃん不利じゃない?」

「向こうの式典委員がこれを知っていたら、B組C組合同に持ってゆくだろうな」


 光也くんの断言通り、お化け屋敷はB組C組合同となり明日香ちゃんのE組は次点の喫茶店となった。

 今度はうちとのバッティングだが、先に決めたA組が書類処理上優遇されるので、明日香ちゃんにしてはめずらしい負け戦である。


「明日香ちゃん。

 大丈夫?」


「まあね。

 元々やる気なかったし。うちのクラス。

 喫茶店を選んだのも、瑠奈ちゃんの所だったというのがあるのよ。

 下につくから、色々楽させてくれない?」


 あー。そういう事か。

 転んでもただでは起きないあたりさすが政治家の娘。


「具体的には?」


「スタッフルームをE組で提供するわ。

 人員とこちらの予算も出していい。

 要求は合同開催と打ち上げを一緒にする事」


 明日香ちゃんの要求に私と栄一くんと光也くんがたがいにアイコンタクトで会話する。

 出し抜き裏切り上等なビジネスでもないし、E組責任者が私の身内みたいな明日香ちゃんである。

 私が頷くと男子二人も頷いてくれた。


「了解。

 その案乗った」


「じゃあ、実行委員会立ち合いの元で書面化まで詰めましょうか♪」


 下についてきっちり上下関係を決めたうえで諸条件を固めきった明日香ちゃんは、合同開催の書面化までまとめて颯爽とクラスに帰っていった。

 その隣では合同開催を決めたお化け屋敷のB組とC組が主導権争いに明け暮れていた。




「そういえば、桂華院よ。

 帝亜国際フィルハーモニー管弦楽団とのチャリティーコンサートは当然するのだろう?」


「ああ。そういえば楽団の連中は瑠奈とやるのを楽しみにしているから、スケジュール空けているんだよな」


 帰り道、光也くんが思い出したように確認をとり、栄一くんがさらりと逃れられないと伝えてくれる。

 気づけばあれも文化祭イベントみたいなものになっているなぁ。厭でもないし。


「実行委員会から、音楽堂の使用許可の確認が来ている。

 申請に合わせて、喫茶店のシフトを確定させるから一度そっちの方に話を通してくれないか?」


 という訳で、実行委員会の音楽堂使用許可予定時間を確認する。

 2日目、18時より一時間。

 これ、間違いなく文化祭の目玉じゃないか!?


「春日乃がE組人員をシフトに組み込ませてくれるなら、俺たちも行けるな」

「みんなで行けるようにスケジュールを合わせておくか。

 泉川は剣道部の部活に引っ張られるかもだが、あいつのことだ。そのあたりうまくやるだろう」


 栄一くんがさらりとハードルを上げ、光也くんが容赦なく積み増してくれる。

 なお、中等部に上がってから楽団の連中も遠慮が無くなったというか、容赦がなくなったというか。


「来るのかぁ……」

「そのつもりだが、何か来られるとまずいのか?」


 私の苦笑に栄一くんが少し目を強めて確認する。

 私は笑って手を振りながら、その理由を告げた。


「次にやろうって言う曲がね……

 ……『蝶々夫人』なのよ」


 首をかしげる二人。

 帰って調べてから納得するのだろうなぁ。




────────────────────────────────


『蝶々夫人』

 wikiに堂々と「ソプラノ殺し」の作品と書かれているのは笑った。

 『21世紀のサラ・ベルナールならこれぐらいできるでしょ?』とばかりに音楽の才能を十全に引き出そうとする楽団の連中は間違いなく瑠奈を音楽コースに引きずり込もうとしている。

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