文化祭 中等部編 準備

 文化祭。

 中等部になると解禁されるものがある。

 出店だ。


「という訳で、中等部から出店が解禁となりました!」


 文化祭の出し物を決めようというホームルームで、栄一くんと共に私が発表する。

 当り前のように私たちはクラス委員である。


「で、具体的にはどういうのができるんだ?」


 栄一君の確認に、式典委員である光也くんが文化祭実行委員会からの書類を読み上げる。


「具体的には、喫茶店が許可されて式典委員会指定の商店から購入したお菓子と缶ジュースを出す形だな。

 調理までは認められていない。

 これは食中毒対策と利益至上主義に走らないための対処だそうだ」


 光也君の説明をクラスのみんなと共にうんうんと頷く私たち。

 裕次郎君が手をあげて質問をする。


「式典委員会指定外の商店からの購入はダメなの?」


「駄目になっているな。

 先ほども言ったが、利益至上主義に走らないようにというのが理由だ」


 つまり、走った馬鹿が居たという事だ。過去に。

 栄一君がさらに出店のルールについて読み上げる。


「『缶ジュースはそのまま出す事。グラスに注ぐのはNG』。

『お菓子も袋から出さずにそのまま出す事。これも袋を開けて出すのはNG』。

 食中毒対策なんだろうな。これ」


「多分利益至上主義の馬鹿がお客が手をつけなかったものを別のお客に出して、食中毒を起こしたって事なんでしょうね」


 私が突っ込んでクラスのみんなとなんとも言えない顔になる。

 ルールは裏返せばそれをやらかした馬鹿の歴史でもあるのだ。

 我々の先達は中々やんちゃなようで。


「となると、どうやって儲けるんだ?」


「実行委員会からは期間中は自販機は全部使わせないようにするのと、休憩施設としての機能を持たせたいという回答をもらっている。

 缶ジュースの価格は一本50円で、販売価格は100円を想定しているらしい。

 お菓子は菓子パン系で一つ100円で、こちらは200円で売ってほしいそうだ」


 栄一君の質問に光也君が滞りなく答える。

 このあたりあらかじめ先に調べていたんだろうなぁ。


「大体どれぐらい売れるの?」


「文化祭は三日間で、過去の平均販売数データは缶ジュースが400本で、菓子パンが300個らしい。

 さっきの価格で売ると、缶ジュースが100円×400で40000円。

 菓子パンが200円×300で60000円で合計100000円だな。

 あと、購入が50×400で20000円、100×300で30000円だから、みんなから資金を集める場合この場で50000円を徴収する事になる。

 うちのクラスは33人だから、一人当たり1500円の徴収になるな。

 で、売り上げは大体打ち上げという形で綺麗に使われる」


 私の質問に光也君がすらすらと答える。

 なお、建前では綺麗に使われるという事になっているが、クラス委員の役得としてうまくポケットに入れる事も可能である。

 するつもりはないが。

 我々のクラスになると吹けば飛ぶようなはした金ではあるのだが、中学生の1500円というのは中々痛いものがある。

 もちろん、先達たちはやらかしている分、そのような救済手段も用意していた。


「実行委員会と美化委員会が協定を結んで、文化祭実行期間中の臨時美化委員を募集するらしい。

 クラス単位での契約で、ごみ処理をしてもらう報奨として美化委員会からクラスに一万円支給されるそうだ」


「出したくない人間は働いて返せという訳だね」


 光也君の補足説明に裕次郎君が突っ込む。

 この制度、本格的に活躍するのがゲーム本編の高等部である。

 というか主人公小鳥遊瑞穂の錬金術がこの文化祭がらみだったり。

 オシャレやデートも乙女はお金がかかるのだ。ここの錬金術で色々助かったなーなんて上の空で思ったり。


「どうした?瑠奈?」

「気にしないで。

 臨時美化委員をやって喫茶店をした場合のリターンを考えていただけだから」


 全部ポケットマネーでよくねと言いたくなるが、それでは駄目なのだ。

 みんなでお金を出し合って、みんなで協力して、みんなと作る思い出というのがこの文化祭の本当の宝物である。

 何でもお金で解決しようとすると、そういう本当の宝物を見失う。


「思ったのだけど、他のクラスは何をするのかしら?」


「他所のクラスも今のホームルームで決めているはすだ。

 ちなみに去年は、喫茶店が二件、お化け屋敷が一件、輪投げやくじ等の室内ゲームが一つ、あと展示が一つだな」


 私の質問に光也君が答える。

 なお、各クラスで決めた後にバッティングとかを避けるためのクラス委員が集まっての調整会議が待っていたり。

 だから、決め打ちはせずに候補は第三候補まで出すようになっている。


「じゃあ、とりあえず今あげたのを候補にするぞ。

 喫茶店、お化け屋敷、室内ゲーム、展示。

 どれかに手をあげてくれ」


 栄一君が進行し、私が黒板に手をあげた人数を書く。

 結果はこうなった。


喫茶店    27

お化け屋敷  4

室内ゲーム 2

展示     0


「という訳で、うちのクラスの出し物は喫茶店となった」


 パチパチパチと拍手の中、私が小声でつぶやいたのを光也君に拾われた。


「なんでみんな喫茶店やりたいのかしら?」

「シフトが楽で、他所に回れるからだろう」


 納得。



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