成田空港郊外テロ事件 表
私の秘書から転じて桂華金融ホールディングス傘下の桂華証券取締役となったアンジェラが、ウォール街から戻ってくる。
という事で出迎えに行こうと思ったら、エヴァが待ったを掛ける。
「行くのはお止めしませんが、どうやって成田まで行くつもりですか?」
「車は高速の渋滞で詰まるか。
ヘリ?」
「あまりお勧めはしませんね。
今日は一日、風が強いとか。
酔い止めを飲んで乗りますか?」
うーん。
たしかに、出迎え時に吐いてというのは嫌だ。
そんな事を考えていたら、エヴァがこんな提案をしてくれた。
「でしたら、列車なんていかがでしょうか?
折角ご用意したのに使っていないでしょう?」
ぽんと手を叩く。
その選択肢はすっかり忘れていた。
「そうね。
用意だけしてすっかり忘れていたわ。
という事は、準備してくれているの?」
「ええ。
すでに九段下の留置線に待たせておりますわ」
「じゃあ、それで行きましょうか」
準備してと言おうとするのをエヴァの言葉で止められる。
機先を制されたというか、控えめなエヴァが珍しく饒舌に話す。
「折角ですから、お付きの者たちを連れて行ったらいかがです?
まぁ、アンジェラ女史からのリクエストなんですけどね。
『私が居ない間お嬢様を任せられるか、車内で面接する』とか」
「心配性ねぇ。
アンジェラは。
列車云々もアンジェラの提案なんでしょう?」
私のあきれ顔にエヴァがいたずらっぽく笑った。
ばれたかと言わんばかりで肩をすくめる。
「それだけお嬢様を心配しているんですよ。
だから、人員を目一杯揃えて安心させてあげましょうよ」
「はいはい。
じゃあ、人員と手配はエヴァに任せますから。
よろしくね」
専用列車は253系電車三両編成で、私の乗るラグジュアリークラスは真ん中の二号車になる。
そして、一号車と三号車はお付きの人間や荷物を運ぶという訳だ。
「何か多くない?」
九段下桂華タワー地下。
留置線直通ルートを歩きながら私はぼやく。
そんな私のボヤキを橘由香がなだめる。
「折角の専用列車使用なので、訓練も兼ねているそうですよ。
ほら。
この路線、なかなか専用列車走らせられないじゃないですか」
納得。
せっかくの専用列車のお出かけなので、その列車を使った脱出訓練を兼ねているという訳だ。
道理で、警備のメイドだけでなく警備員も警戒している訳だ。
「ねぇ。久春内さん。
全員集合なのは分かるけど、なんで武装している訳?」
久春内七海、遠淵結菜、イリーナ・ベロソヴァ、グラーシャ・マルシェヴァ、ユーリヤ・モロトヴァはサングラスを掛けて非殺傷の音響銃を持っているし。
橘由香、野月美咲、留高美羽、秋辺莉子、劉鈴音は警察ご愛用のライオットシールドを構えている。
そして、全員のメイド服は防弾装備。
「地下鉄と東日本帝国鉄道にお伺いを立てないと駄目なので、初めての避難警備訓練をと」
地下鉄東西線は今日も修羅場の混雑である。
そんな中、三両だけの特別列車を走らせるのは、色々と苦労があるのだ。
野月美咲がぼそっと呟く。
「これ、お嬢様の名前を使っ……」
黙ったのは、久春内七海が彼女を見たからである。
それで察した。
劉鈴音が私の肩をぽんと叩く。
「お嬢様。
時にはお嬢様らしくワガママになってくれると、下々が助かる事があるのです」
「はいはい。
私のワガママです!ええ!!
そーいうことにしなさい!!!」
「さすがお嬢様♪
その懐の深さにこの劉鈴音感服いたしますわ」
ええい。
その白々しい賛美をやめろ。
で、更にガチ装備の北雲涼子と武装メイドたちが。
というか、通路を警備していた中島淳大尉指揮下の特殊部隊出身の警備員まで乗ってくるし。
「……これ幸いと……」
「はいはい!
私のせい!私のせい!!」
北雲涼子の言葉を私は手を振って遮る。
こっちは本物の銃装備である。
訓練でも本物を使うという訳で、警視庁警護課の夏目賢太郎警部とその警護官も乗り込んでいる。
「けど、こういうのワクワクするわね」
ちょっと物騒なピクニックと笑ってしまおう。
その時はそう思っていたのだ。
という訳で、地下鉄と東日本帝国鉄道のスジ屋さんの恨み節を背に、特別列車は成田空港へ。
地下鉄東西線から、総武本線経由で成田空港へ。
通過駅の客が怪訝な目で見ているが、そこはそれ、マジックミラーである。
そんな旅路はおよそ一時間。
成田空港の色々手を尽くして用意した専用ホームに列車が入った。が、ドアが開かない。
「……?
どうしたの?」
メイドのエヴァが私を引っ張って客車内に戻す。
さっと周りを見ると、車内のメイド連中の顔が強張っているし、ホームの警備メイドに至っては銃すら持っている。
この世界のこの日本において、銃の携帯は警備員等の資格者に対して警察の許可が必要だが、裏返せば警察が許可を出せば持てる訳で。
つまり、そういう事が発生したという事なのだろう。
「申し訳ございませんが、もう少し車内に留まっていただけないでしょうか?」
「それはいいけど、何が起こったの?」
「はい。
警察からの情報では、
空港郊外で銃撃戦が発生しているそうです。
安全を確保する為にここに留まっていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
VIP専用ホームはこういう時の為に警備を強化していたので、ホームそのものが要塞みたいになっている。
メイドたちは車両内で警備を続け、北雲涼子は警備員と共に降りて、ホーム内の警備を掌握する。
空港反対派のテロは思った以上に大規模なものだった。
「銃撃戦!?」
私の驚きに夏目警部が無線で連絡を取って情報を確認する。
タレコミで空港近くの倉庫にガサ入れしたらテロ組織が居て抵抗の後籠城。
千葉県警の空港警備隊が倉庫を包囲しており、銃撃戦が発生している事を私に告げる。
「これでもまだ治安は良くなった方なんですけどね。
樺太経由でロシア製の銃火器が流れているんですよ。
北日本政府の崩壊で流出した旧北日本軍の銃火器も大部分は回収されましたが、一部はこうして市井に残っているのです。
この国は、イラク戦に関与しています。
それを考えると、そっちの線もあるかもしれませんね」
すごく嫌な想像が頭をよぎった。
アンダーグラウンドマネーは、ぶっちゃけるとセックス・ドラッグ・バイオレンスに集約される。
この国に銃の密輸が行われているという事は、残りのセックスとドラッグも入ってるという訳で。
「嫌なことを聞くけど、武器密輸の件、人身売買や麻薬とも絡んでる?」
にっこり。
夏目警部は作り笑顔を浮かべて、私の予想を肯定してくれた。
「マフィア連中がそれに手を出さない理由はありませんな」
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このあたりは、以前ここに書いたテロものの話である。
裏もすぐ出す予定。
千葉県警察成田国際空港警備隊
テロとの戦いで出張るのは何処だと調べていきついた組織。
成田空港闘争のえぐさをwikiの記述からでも思い知る。
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