クイーン・ビーのお茶会 その3
「遊びに来ましたわ」
「ようこそ。
楽しんでいってね」
次にやって来たのは朝霧薫さん。
彼女も立派な女王蜂である。
しかも、薫さんの友人関係には華族系が多い上、私と違い華族系派閥である雲客会の正規メンバーである。
そんな訳で、堂々と立ち話。
私の側近及び薫さんの友人たちが自然と離れて輪を作りガードするのがさすがである。
「雲客会から正規の要請です。
派閥に入って手を組みませんか?」
「独立系外様じゃ駄目なの?」
私の確認に薫さんがため息をつく。
彼女も結構苦労しているらしい。
「恋住政権は華族特権の剥奪を政策に掲げていますからね。
敵対している貴方を取り込みたいのですよ」
うちはその華族特権を使わされた結果、世論の反発を受けて華族特権の剥奪についての議題が国会に上がるようになっていた。
まだ剥奪まで行っていないが、このままでは時間の問題だろう。
「私を取り込んでも、その後の絵図面は?」
「瑠奈さんが抱えている泉川派を寝返らせて、野党と組ませて連立政権をというのが上の考えみたいですね。
瑠奈さんと岩崎財閥で樺太を握れるから、与党連立政権は過半数を割れます。
それで内閣不信任案を通して解散に追い込んで、勝利した後に連立政権をというのが上の考えみたいですが」
私みたいにある意味諦めているのは例外で、特権を奪われる華族連中の抵抗は凄いものがある。
とはいえ、実権が無く他に手段が無いからと野党勢力に手を伸ばすあたり、平家が伸びてきたら源氏に手を出すみたいなノリで、なんとも公家の末裔である華族らしいと思わず苦笑したり。
「野党側こそ華族特権の剥奪を叫び続けていたじゃないですか」
「それを撤回させるためにも、与党側の大物の寝返りが必要だと上は考えているみたいですよ」
恋住政権の狡猾な所は、野党が無党派向けに掲げた政策を与党として実行に移した所にある。
その結果、与党の反対を主張しないと支持者受けができない野党は、政策の核を失いメディア受けに特化する『政治役者』に成り果ててゆくのだが、ここではひとまず置いておこう。
「メッセンジャーではなく、友人として薫さんの意見を聞きたいわ」
「私、お友達としても、親戚としても瑠奈さんの事を知っていますのよ。
瑠奈さんの投資対象から外れている時点で、野党はそのようなものだと見切りを付けております」
「あらあら」
革命というのは、インテリが起こす。
彼らが大衆の不満を焚き付けて転覆させるのはいい。
その後の粛清祭りにその首が乗るまでは。
「私達は華族です。
ついでに、私も瑠奈さんも財閥です。
断頭台のヒロインとして祭り上げられるのは目に見えているじゃないですか」
「それが分かっているから、あの総理切れないのよ」
薫さんの物言いに私は苦笑しつつ答える。
あの天才政治役者であり、派閥政治家である恋住総理の中に天下国家なんて言葉は無い。
あるのは、無党派という怒れる都市部住民の意思であり、それを巧みに妥協させながら政権を維持運営する天性の才覚のみだ。
あの人相手ならば、良き敗者として演じられた上で、落とし所も用意されている。
これが野党相手ならば、多分私も薫さんも完全に失脚させられるか、相手を全部粛清するかという血みどろの道になる。
「友人として忠告を。
お付き合いに留めておきなさい。
逃がせる人間は、こっちに紹介してくれても構わないわ」
「きっと、平相国が台頭した時の朝廷もこんな話で盛り上がったのでしょうね。
あの人はまだ朝廷を立ててくれたというのに」
それでも、時代は源氏というか武士に流れてゆく。
公家の時代はそれから二度と帰ってこなかった。
それでも栄えた家はあるし、残った家はあるのだ。
これはそういう話。
「じゃあ、他の人達ともお話してくるわ」
「ええ。
楽しんでいってくださいね」
そう言って、薫さんは私から離れてゆく。
ゲームでも薫さんの顔は見なかった。
お義兄様こと桂華院仲麻呂との縁が切れた事で離れたのだろう。
けど、気になるワードを聞いた。
華族側が、華族特権の剥奪に抵抗して野党側と手を繋ごうとしたという事だ。
少しずつ見えてくる、ゲームにおける私の立ち位置。
「お嬢様?」
控えていた橘由香がいつもの癖で私をお嬢様と呼ぶ。
ゲームにおいて彼女も存在していなかった。
「また、私をお嬢様と呼ぶ~」
「申し訳ありません」
「いいわ。
少しベランダに出て考えたいので、誰か来たら教えて頂戴」
「かしこまりました。
瑠奈さま」
私の後ろにグラーシャ・マルシェヴァと劉鈴音が付く。
劉鈴音はそのお団子ヘアと同じキャラが居たのを覚えている。
グラーシャもモブ絵にしては鋭いというか暗いというかそんなイメージの絵だったので覚えがある。
少なくとも、ゲーム内の私には華僑系からの接触があったという事だ。
(ゲーム内の私だったら、華族の提案に乗って反恋住として派手に動いたのでしょうね)
そんな事を取り留めも無く思う。
それがどれほど無謀か知っているし、不良債権処理で苦しんで……っ!?
天啓のように、私の頭に衝撃が走る。
そこから導き出される、あまりにもまずいシナリオの大元。
(現実の不良債権処理で苦しんでいる状況で、社会主義の非効率経済だった樺太はどうなる!?)
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平相国
平清盛。
かと思えば、幕末の公家の動きは調べれば調べるほど面白かったり。
一つネタバレ話
私の政治活動って、民主党の源流の政党の一つの運動員から始まっていまして、そこから小泉政権時に転向して今に至っている。
つまり、あの時の野党が何をしてどんな事をやろうとしていたか、現場末端から見て知っているわけで……
絶 対 奴 ら と 組 め る も の か ! ! ! (私怨こみで)
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