クイーン・ビーのお茶会 その2

 人とは社会的生き物である。

 それは学校という子供社会においても変わらない。

 帝都学習館学園中等部は6クラス。

 つまり、最低でも6匹のクイーン・ビーが存在することになる。

 お茶会の開催は、


「私が女王蜂よ!何か文句ある!!」


という宣言であり、


「ちょっと待ちなさいよ!

 女王蜂はあたしがなるの!!」


という異議申し立ての場でもあるのだ。

 社会を維持するには金とコネが大事であり、私は親からそれをもらう事なく自前で持っていたからこそ、この名乗りなのである。

 金もコネも、一番大事な資源である『時間』の短縮にこそ使うべきだ。


「やっほー♪

 お茶会に来たわよ」

(こくこく)


 最初のお客様は、長い付き合いとなった春日乃明日香さんと開法院蛍さんの二人とそのお友達達だ。

 ここで注目するべきはお友達の方で、クラスに戻ると明日香さんはさも当然のように女王蜂として君臨しているのは彼女の人徳というか才能というか。

 私を出汁にして1-Eの女王蜂であると宣言しているとも取れる訳で。

 女の友情というのは複雑怪奇である。

 そんな明日香さんが私を手招き。

 端っこの方でひそひそ話を持ち掛ける。

 内容は中学生の話ではなかった。


「おねがい♪

 選挙が近いから、うちのパパを助けてほしいのよ♪」


「いや、助けてほしいって、私が現在恋住総理と敵対しているの知っているでしょうに。

 おまけに、恋住政権の大臣は基本総理の一本釣りだから、派閥の推薦受け付けていないし」


「そこは分かっているわよ。

 けど、今度の選挙ちょっとやばくてさぁ」


 小選挙区で通るのは基本一人。

 だからこそ、大同団結した野党民主友愛連合に押し切られる可能性があった。

 基本における選挙地盤で、野党が当選する場合こんな法則がある。


 野党が己の支持基盤の9割を固め、

 無党派の8割が野党候補者に投票し、

 与党候補者が己の支持基盤の7割しか固めきれていない。


 誰が呼んだか知らないが、これを『987』の法則と呼んでいる。

 特に問題なのが、都市部における無党派の増加だ。

 これは県庁所在地のある一区で顕著であり、野党候補者の勝利が近年見られるようになる。

 その背景にあるのは、自分達の税金が自分たちの所でなく田舎に使われているという不満だ。


「あれ?

 四国そんなにやばかった?」


 私の疑問に明日香さんは一言。

 それで私も頭を抱える。


「環境問題に水」

「あー」


 世紀末の頃から急激に盛り上がる環境保護意識のやり玉に道路と共に挙げられたのがダムであり、長野県では知事交代にまで繋がるほど盛り上がっていた。

 ところが、この国は台風が来れば洪水、来なければ渇水というお国柄で、治山治水は政府の重要事項となって久しい分野だったりする。

 で、都市化が進むにつれて地方が衰退すると、距離が遠いことからそれに金を掛けるのが『もったいない』と思ってしまうのが人情というわけで。

 無党派の怒りはこの無駄な公共事業という形でのダム建設をやり玉に挙げ、野党はそれに乗って政府を叩いていた。


「うち、中予分水構想ってのがあって、松山平野に水を引っ張る計画なんだけど、環境保護団体から猛反発食らっているのよ。

 今や、環境破壊三点セットって呼ばれて総攻撃の的になっているのよね」


「あと2つは何よ?」


 私の言葉に明日香さんがさっきと同じ口調で一言。

 また私は頭を抱える。


「伊方原発に四国新幹線」

「あー」


 地方の雇用は公共事業が結構支えている。

 かつては、人件費の安かった地方に工場を建設してという動きもあったが、90年代の円高でそれも挫折し今は更に人件費が安い樺太や東南アジアに工場が移転しつつある。

 恋住政権の公共事業削減方針は、都市部の無党派を味方に付け高い支持率の源泉になりつつ、地方の衰退と不満をためこんでいっていた。


「食い扶持だったしまなみ海道が出来ちゃったから、高速と新幹線と中予分水で新しい食い扶持をって考えてるのだけど、議員は落選したらただの人だからね。

 次も通って、政務官か副大臣に潜り込めるといいなぁと」


「新幹線は高松までは作るけど、そこから先は政治案件よ。

 多分松山の方に伸ばしたら、『先に北海道を!』ってつっこまれるし」


 私の懸念に明日香さんは笑って手を振る。

 彼女も政治家の娘。

 落とし所をわきまえていた。


「私も桂華院さんを全面的に当てにするつもりは無いわよ。

 ただ、パーティー券をちょっと多く購入してくれると嬉しいなぁと」


 にっこり。

 つまり、今日のお茶会に参加した人数分ぐらいのパーティー券を買ってくれと来た訳だ。

 明日香ちゃん分かっていないなぁ。

 私は、貴方に幼稚園の頃から『大人げないなぁ』と言われ続けてきた桂華院瑠奈だというのに。

 という訳で、私も明日香さんと同じ顔でにっこり。


「友達じゃない。

 全部回して頂戴」


「……本当にそーいう所、変わっていないよねー」


 そう言って蛍さんと共に離れてゆく。

 ゲームにおいて、明日香さんと蛍さんは姿を見掛けなかった。

 多分、縁が無かったのだろう。

 そうやって入っている人、欠けている人をリストアップすれば、何か見えて来るのかも知れない。

 ゲームの私が何で破滅したのか。

 その答えが。 





────────────────────────────────


987の法則

 なお、私がつけた(笑)。

 これを頭に入れた上で、20時開票終了後の出口調査を見ると、ある程度の当落が見えてくる。

 知っていると選挙速報が楽しく見れるぞ。


中予分水

 知る人ぞ知る地元ネタ。

 これも因縁が結構あって、仁淀川水系の面河ダムをめぐる愛媛県と高知県の壮大な対立とか、肱川水系の山鳥坂ダムのゴタゴタとか。

 そして、去年の西日本豪雨とか見ていると色々と思う所が……


政務官か副大臣

 小泉政権の狡猾な所として、大臣は一本釣りで掻っ攫うのに、副大臣と政務官は派閥の推薦を受けてほぼその通りに任命したという所。

 この結果、派閥のボスや大臣予備軍の議員ではなくその下の連中が小泉側についてしまい、郵政劇場では彼らの小泉支持が勝利の遠因となっていたり。


パーティー券

 だいたい一枚数千円から一万円で、出てくるのはしょぼい食事とお土産としてその政治家の本だったり。

 中抜きされた金額が選挙資金として議員事務所にプールされる。

 明日香は、瑠奈のパーティーにつれてきた友達の人数分のパーティー券を買って(金額にして数万円)とお願いしたのだが、瑠奈はその大人気なさでパーティー券全部回せ(金額にして数百万円)と返したわけ。

 なお、このパーティー券は四国の桂華グループ社員に無料で配られる事になる。

 この手の政治家のパーティーで『パーティー券をもらって来た』人たちはほぼこれ。

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