お嬢様と流行曲
「桂華院さんはどのような音楽を聞いておられるのですか?」
そんな話をふってきたのは待宵早苗さん。
お昼休みの雑談時間の事だ。
ここ帝都学習館学園では放送委員会があり、休み時間の放送として昼休み等に音楽を流していた。
たとえ上流階級とは言え、流行というものはある訳で。
音楽などは必然的にそれが強く出ていたりする。
このあたりまでは、まだJ-POPの隆盛が残っていた時期でもあった。
「まぁ、クラッシックはたしなんでいますけど、流行りの曲にも耳を傾けますのよ」
なんて幾つかの流行曲を口にする。
運がよいことに、私が口に出した歌手の歌が流れていた。
独特なリズムと切に願う歌い方で一気に好きになったやつである。
こうなると他の人も好きな歌を出してくる訳で。
「私は平成の歌姫のアルバムを買ったわよ。
やっぱりいいわ。
早く中等部に行ってカラオケで歌いたいのよね」
春日乃明日香さんが放送でも流れるアルバム曲の話をすると、隣の開法院蛍さんがこくこくと頷く。
仲良しで好きな歌手が違うので互いにCDの交換とかしているらしい。
なお、放送委員会は匿名でリクエストを受け付けており、蛍さんはその常連だったりする。
これが、大人しい系の蛍さんから出たリクエストが中々ノリの良い曲だったりするので、結構意外だなと思った事があったりなかったり。
「気付いてみたらあともう少しで中等部かぁ」
「レディとして初等部のお手本にならないといけません」
「本音は?」
「カラオケの他に色々行ける場所が広がるのよ!」
私のぼやきに明日香さんが優等生っぽく言ってみるが、先の発言を考えた薫さんがつっこむ。
それに本音をもらしてくれる明日香さんマジ明日香さん。
「私は両親の聞いている曲がそのまま好きになってというケースかしら?
家族もそんな感じで同じ曲を聞くこともありますのよ」
「私の所もそうですわね」
栗森志津香さんの話に、高橋鑑子さんが続く。
長く活動をするアーチストの場合、親子に渡ってファンというケースもあるのでこの手の話をすると世代が違うというケースも多い。
親の持っているテープやレコードから、そのアーチストの古い曲を聞いて更に好きになってというのもあるあるである。
「そういえば、桂華院さんって結構古い曲もよく聞いていましたよね?
以前お部屋に遊びに行った時にCDをお見かけしましたけど」
「古いかぁ。
メイドの亜紀さんが私たちの頃だった辺りに流行したのを気に入ってね」
待宵早苗さんの話の振りに私も苦笑する。
時代的にはバブルからバブル崩壊時辺りの流行が一番好きだった気がする。
そんな中、ふいにひょうきんかつ切ない曲が流れて、私達だけでなく周囲の人達にも笑みが広がる。
こういうのが流れるから放送委員会は侮れないのだ。
「じゃあ、次は薫さんよね。
ほらほら」
「そうですわねぇ……」
明日香さんに急かされて、朝霧薫さんが自分の好みの歌を口にする。
出てきた曲はサッカーのワールドカップでよく聞いた曲だった。
あのワールドカップでにわかサッカーファンになり、その時に流れまくったこの曲にはまったらしい。
そうなると、残った華月詩織さんも口を開かないと行けないわけで。
「これですわ」
意外にロックな曲を選んできた詩織さんを見た一同に、顔を赤めて恥ずかしがった彼女がちょっとかわいいと思ったのは内緒である。
ポスターとかグッズを買っているらしい。
「中等部に上がったら、みんなでカラオケに行きましょうよ♪」
「いいわよ」
「いいんじゃない?」
「賛成」
「ええ」
「怒られない程度になら」
「楽しみにしていますね」
(こくこく)
話していると、透明な感じの夏を思わせる歌が流れてきた。
あ。この歌知っている。
「なんか感じの良い曲よね。これ」
「たしかに」
「TVとかでは聞いたこと無いですわね」
「高い声が美しいですわよね」
「ピアノも綺麗でなんていう曲なんでしょう?」
「あとで放送委員会にたずねてみましょうか?」
何も言えずに笑顔を張り付かせる私をきょとんと見る蛍さん。
おねがい、その無垢な視線で見ないで。
私に効くから。
「桂華院さんだったらこの歌歌えるのでは?
わたくしではこの高さの声が続きませんもの」
純粋に良い歌だからこそ待宵早苗さんが私に振り、私は頬に汗をたらしながら苦笑するしか無い。
秋葉原で大流行したこの曲がそっちのメイド経由でこっちに流れてきたから知っているんだよ。
というか、うちのメイド喫茶に来るおっきなお友達の常連の幾人かは明らかに私にこの歌を歌わせようと企んでいたとかで、アンジェラが激おこになったとかあったんだよ。
こまった事に彼らは善意と好意で動くからたちが悪い。
「たしかに歌えるかもしれないけど……ね」
いやまあ、分かっているけど。
後に大きなお友だちの方々が国歌と称するあの曲だけど。
元は18歳未満の人がしては駄目なゲームですしおすし。
なお、それとなく尋ねた結果、高等部の放送委員会に持ち込まれた曲のテープが間違って初等部に持ち込まれたことが発覚。
幸いにも叱る大人たちはこの曲の素性を知らず、知っている人間は口を噤んだのでこの件は事件にもならずに闇に葬られる事になった。
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瑠奈が出した歌
元ちとせ『ワダツミの木』。
なお、一青窈『もらい泣き』も大好きである。
ここ最近のお気に入りは鬼束ちひろの『目眩』。
明日香の出した歌
浜崎あゆみ『M』。
蛍の出した歌
宇多田ヒカル『traveling』。
この頃のJ-POPは本当に全盛期だったなぁ……
なお、カラオケ店は未成年規制などがあり、中学生だと18時まで歌えるケースがあるとか。
この辺は自治体で規制が違うから調べるのがめんどい……
栗森志津香の出した歌
小田和正『キラキラ』。
もちろん両親はオフコースファンで『さよなら』よりも『こころは気紛れ』や『時に愛は』あたりが好きらしい。
高橋鑑子の出した歌
サザンオールスターズ『白い恋人達』。
彼女は『TSUNAMI』ではまった口だが、両親にとっては『いとしのエリー』である。
ひょうきんかつ切ない歌
ストロベリー・フラワー『愛のうた 〜ピクミンのテーマ〜』
タイトルを見て一発で曲を思い出せるのだからすげぇ。
中盤で瑠奈の部屋にあったCDのアーチスト
平松愛理 一枚選ぶなら『一夜一代に夢見頃』。
松任谷由実 同じく一枚選ぶなら『天国のドア』。
熊谷幸子 やっぱり一枚選ぶなら『Poison Kiss』。
大体このあたりで瑠奈の好きな音楽の傾向がわかるのではないかと思う。
薫の出した歌
ポルノグラフィティ『Mugen』。
作者は『アゲハ蝶』と『ミュージック・アワー』が好みである。
華月詩織の出した歌
B'z『ultra soul』。
グッズを集めたりコンサートに行きたいと思っているガチ勢だったりする。
最後の歌
Lia『鳥の詩』。
困ったことに歌が本当にいいから騙された人間が結構居た事を私は知っている。
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