いくつかの記事抜粋 お嬢様モラトリアム編

『国内企業のリストラが加速している。

 バブル崩壊と円高と銀行の不良債権処理に伴う貸し剥がしで各企業が売上より現金確保に走ったからである。

 失業率は4%近くを推移している現状、特に国内電機企業のリストラが著しく、失業率が政治課題に上がるのもそう遠くないだろう。

 松幸電機産業が早期退職制度を導入し六千人規模の削減を発表し、芝浦電機の国内工場の統廃合と一万人のリストラを発表。

 ソメーが一万人の雇用削減を打ち出しているのに対して、この秋に発足した桂華電機連合は人員削減を伴うリストラを一時保留する決定を行い、注目を集めている。

 旧古川通信時に経営不振に伴い八千人の人員削減を発表しており、いずれは人員削減に追い込まれると……』


『国内企業リストラの進捗と共に、樺太に工場を移す企業が増えてきた。

 95年に一ドル=80円台を付けた急激な円高に国内企業は耐えきれずに国内から国外に工場を移す動きが加速したが、樺太を得た事で本土より2割安いコストで働く国内労働者を得ることになり、現在では樺太に工場建設ラッシュが続いている。

 とはいえ、樺太経済は社会主義経済からの脱却で失業率は未だ20%を超えており、本土への出稼ぎと二級市民問題の解決の目処が立っていない……』


『政府は今国会で時価会計の導入に伴う法改正の目処が立ったことを政府関係者が明らかにした。

 時価会計は不良債権処理が進む銀行にとってさらなる不良債権の追加になると反対が出ていたが、不良債権処理がある程度進んだことと、発展著しいIT業界からの要望に応じる形になり新たな経済成長の核として期待しているのが明らかになった。

 一方で、金融機関の不良債権処理については、金融再生大臣が『公的資金注入を含め、この内閣で片付ける』と宣言しており……』


『政府が断固とした不良債権処理を進めるなかで、財閥解体が加速している。

 政府の時価会計導入と公的資金注入を避けたい財閥系企業が不良債権処理を加速させると同時に、その原資として系列企業株の譲渡及び売却を決定したからだ。

 その口火を切ったのは大財閥同士の合併となった二木淀屋橋銀行で、不良債権処理は終えているが双方が持つ株式が独占禁止法に抵触するケースが頻発した事と、政府公的資金注入を避ける目的で自己資本比率の増強を目的にそれぞれの本社が保有している株式の売却を決定。

 複数財閥の金融機関が経営統合した穂波銀行は不良債権処理が未だ終わっていない上に、今年春のシステムトラブルによって信用が失墜。

 各財閥の本社や資産管理会社が保有株を売却して穂波銀行の増資を目指し国有化を回避しようとあがいている。

 国内財閥がこのような状況である以上、岩崎財閥も本社を維持するには世論の批判を浴びかねないと本社の解散を決定しており、それぞれの財閥本社が持つ保有株の売却によって日経平均株価は15000台まで下がっている。

 とはいえ、財閥が無くなったとは言え、各財閥企業は緩く繋がる企業グループ形式は維持したいとコメントしており……』


『北樺太問題を話し合う為の日露首脳会談が第三国であるスイスのジュネーブで行われた。

 日露両首脳はこの問題の実務者レベルでの継続協議を行うことを決定しており、共同宣言ではシベリアから輸入される石油及び天然ガスの拡大が発表された。

 また、この会談には米国国務長官が参加しており、日露首脳は米国国務長官と対テロ戦争に向けての話し合いをしたと思われるが、この会談の内容は日米露の関係者は口を閉ざしている。

 そもそもこのジュネーブの会談は、近く行われるだろうイラクへの攻撃に伴う国際世論形成の一環として行われており、慎重派のEU諸国に対して日英露の三カ国が米国と組んで欧州各国に説得を……』


『米国議会が揺れている。

 大統領がイラクに対する攻撃の準備の為に議会の承認を求めたのだが、その承認に『大量破壊兵器の使用』という項目が入っている事で、イラク攻撃案に核兵器を始めとした大量破壊兵器の使用というプランが発覚したからだ。

 これは同時多発テロが米国に対する実質的な大量破壊兵器の使用未遂であるという事が調査報告書で分かったためで、『実行犯であるアフガンは片付けた。主犯であるイラクに対してはその報いを受けさせる』というホワイトハウス関係者のコメントが本当ならば、米国の核兵器使用は避けられないと判断せざるを得ない。

 2001年の同時多発テロは米国及びその同盟国と友好国に対する同時多発的なテロ攻撃であり、ハイジャックによるニューヨークとワシントンの攻撃及び炭疽菌テロとインド国会議事堂での銃乱射事件は陽動作戦であり、本命はデンバーのトレインジャックに積まれていた核廃棄物であり、その起爆装置を東京の秋葉原にて作ろうとしていた事まで判明している。

 彼らテロ勢力に資金的な便宜を図っていたのがイラクであり、彼の国が旧ソ連から核ミサイルを非合法に入手しようとしていた事も分かったことで、賛否両論ではあるが賛成やむなしの方向に行くのではないかと専門家は分析している。

 国防総省に詳しいジャーナリストによると、この問題の本質はイラクの大量破壊兵器の『保有』では無く『意思』であると話しており、彼がインタビューした将軍の一人は匿名を条件に『この問題は要するに合衆国市民を攻撃した事による報復であり、次が出ないための見せしめでなければならない。大量破壊兵器を持つ意思がある以上、その延長線上に9.11があるのならば、我々はその意思を大義名分に先制予防攻撃をかけるべきであり、非対称戦争であるからこそ、しっぺ返し戦略は9.11よろしく劇的なものにせねば報復の教訓を彼らは受けないだろう。そういう意味ではイラクは非対称の戦争における象徴でなければならず……』』




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参考資料

 溜池通信2001年8月

 http://tameike.net/diary/aug01.htm

 なお、この物語では経済状況が良くなっている設定でも、このリストラである。

 この時期、政令指定都市クラスの人口の雇用が消えて海外に流れていた。

 結果、この後に起こるデジタル家電ブームの製品のほとんどが大陸や東南アジア製品という事に……


樺太の経済格差

 ドイツを参考にしたけど、未だ旧東ドイツの失業率が高止まりしているのに闇を感じる……


財閥解体

 このあたりは韓国の財閥解体も参考にもしているが、戦後の財閥解体の方がベース的には強め。

 ここでの財閥解体と不良債権処理と時価会計導入が次世代IT企業の勃興にという感じで繋げてゆく予定。


議会承認

 『戦争を始めるのは誰か―湾岸戦争とアメリカ議会』 (会田弘継 講談社現代新書)

 名著。

 そんな裏でナイラ証言なんてやらかしているのでこの話闇が深い。

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