お嬢様とネットゲーム

 夜22時55分。

 おやつのクッキーよし。

 グレープジュースよし。

 パソコンスイッチ・オン。

 立ち上がるまでちょっと待つ。

 そのままインターネットに接続。

 九段下桂華タワーはムーンライトファンドの本拠でもあるから、通信網は最先端の光回線にしている。

 それでパソコン通信というのだからかつてでは考えられない贅沢なもの。

 なお、パソコンも桂華電機連合からハイエンド機を取り寄せ、最新鋭CPUとメモリたっぷりである。

 そしていざ、楽しみのゲームを……


 サーバーとの接続がキャンセルされました。


「……」


 回線が良かろうが、パソコンが良かろうが、アクセス先のサーバーがパンクしたらこれなのだ。




「オンラインゲーム?」


 それは、『アヴァンティー』でお茶をしていた時の事。

 一番パソコンに詳しい光也くんから話が振られる。


「ああ。

 パソコン通信を使った、オンラインゲーム。

 米国で流行していて、それがアジアに波及しつつある。

 海外メーカーが何個か試験的に運営を始めていて、絡まないかという話がメールで来ているんだ」


 TIGバックアップシステムは日米の時間差を利用する事で、日本の深夜時間におけるシステム管理やバックアップを業務としている。

 絶賛システム開発が修羅場中の穂波銀行の専属という訳でもなく、穂波銀行以外の飯の種も確保しようという訳で。

 桂華グループ内からも、データ管理等をこの会社に任せようという動きがある中、こうやって海外からのオファーが電子メールでやってくるという時代になろうとしていた。


「けど、何でうちなんだ?」


 栄一くんの疑問に答えたのが私である。

 ある程度知っているので、背景と確認は楽だった。


「ほら。

 桂華電機連合って国内最大級のインターネット接続事業者でしょう?

 そこにゲームというコンテンツを付ける事で、更に拡大させようという動きがあるの。

 こっちはそれ狙いのフルパッケージで契約を求めていたのだけど、向こうはそれを嫌っているみたいでね。

 系列を飛ばしてこっちに話を持ってきたという訳」


 日本の家電メーカーは総合電気化しており、系列を通じてまとめて一括契約というのがこれまでのお話。

 コストにシビアな海外メーカーは、一番安い所を個々に探して契約を交わして運営するのに長けていた。

 それに絶大な力を発揮したのが、私達が話題にしているインターネットである。


「まぁ、桂華電機連合全体からすれば、今のパソコンよろしく色々付けてと言いたくなるよね。

 このゲームをする為にパソコンを始める人間は、秋葉原パソコン店の調査ではかなり居るみたいだし」


 裕次郎くんは秋葉原のパソコンショップに置かれていたオンラインゲームの資料をテーブルに置く。

 ドット絵のキャラクター達が可愛く戦っているのは、米国発のオンラインゲームと違って日本人受けするだろうと思った。

 そんな中、一枚の写真が私の心を掴んだ。


「あ。これ、カワイイ」


 法衣姿の女の子キャラクターがうさ耳を付けて、敵を殴っていた。

 ならば、答えは一つだ。


「とりあえず、やってみましょうよ。

 それからでも返事は遅くないでしょう?」


 オンラインゲームというのは、目的のアイテムを集めるためにはまず素材を集めなければならない。

 私の心を射抜いたうさ耳はこのゲームの目玉アイテムらしく、その素材集めに他のプレイヤーと共に狩ることに。

 知らぬ他人が画面内でちょこまかとドロップ目当てに敵を狩るのは中々シュールである。


「出ないわねぇ」


 そうすると、飽きてくる訳で。

 体力回復の為にちょこんと座っていたら、通りすがりのプレイヤーから回復魔法が飛んでくる。

 上位職の彼らは私が何を狙っているのか分かるのだろう。

 だって、そのキャラクターの頭にうさ耳が揺れていたし。


『ありがとう♪』


『がんばれー♪』


 画面内の私のキャラが喋ると、相手も返事する。

 コンピューターゲームだとできないこんなコミュニケーションに、多くの人は熱狂したのだ。

 そこから先の進化についてはあまり言うつもりもないが。


「お嬢様。

 そろそろお休みのお時間ですよ」


「っ!?

 亜紀さん!

 何時入ってきたの!?」


 熱中していた私の背後からのメイドの亜紀さんの声に驚く私。

 気付いたら時間は午前0時になっていた。


「熱中なさるのは良いのですが、あまり度が過ぎると佳子さんに叱られますよ」


 その一言は私に効く。

 面白い本を最後まで読もうと、深夜まで起きていると、大体やってきてお説教というのが結構あるのだ。

 本より親に理解されないものがゲームである。

 電源ぶちっ!でどれだけ多くの子供がトラウマを植え付けられた事か。


「仕方ないわね。

 今日はここまでにします。

 けど、待っていなさいよ!うさ耳!!」


『おちまーす♪』

『ノ』

『ノ』

『ノ』


 この時代、まだネットゲームも牧歌的だった。



「だからどうして鯖キャンしているのよぉぉぉ!!!」


 まだβだから仕方ないと言えば仕方ないが。

 なお、最終的に私のうさ耳ゲットはプレイヤー露店での購入となった。

 ついでにいうと、ビジネスの方は上のパッケージ販売と向こうの個別契約がついに解消できずに流れる事になった。

 この系列パッケージ販売はカリンCEOと話してなんとかしないといけないな。 




────────────────────────────────


思い出しながら書いているが、結構覚えているものだ


米国オンラインゲーム

 UOことウルティマオンライン。

 知り合いがやっていて家を建てるのが夢だったが、私のパソコンではできなかったんだよなぁ。


このお話のオンラインゲーム

 ROことラグナロクオンライン。

 もちろん、瑠奈はアコライトで。

 うさ耳プリーストはROの代名詞だと思う。

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